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風のように

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第19章

 悟空はその足でチチと一緒に神様の神殿へ行った。そこからなら噴火の様子がよく見えると思ったからだ。
 神様はポポと共に二人を歓待してくれ、相変わらず自分の後を継げとうるさく勧めたが、悟空は笑ってあしらっている。その間、むっつりと黙り込んだままでいるチチを横目に見て、神様はそっと悟空に尋ねた。
「悟空よ、おまえ妻と仲違いでもしたのか」
「それがよくわかんねえんだけど、オラ、チチを怒らせちまったみてえなんだ」
「ふむ。夫婦喧嘩は犬も喰わぬと言うからの。仲裁はゴメンじゃぞ。さっさと謝って許してもらえ」
「うん」
 悟空は頭をかきながらチチの方を見やった。

 何度か起こった地震は噴火の前触れだったのだ。噴火は半日で収まり、日が沈む頃には平静を取り戻した。幸いにも火砕流が人家のない北東部に集中したことと、動物たちが異変を察していち早く逃げたことで被害は山の木々だけで済んだ。神殿から見下ろすと、山は火砕流の流れたところが跡になって残っている。山頂の形も少し変わったようだ。

 暗くなってきたので、悟空は神様とポポに別れを告げるとチチを連れて神殿をあとにした。
 パオズ山の上空にさしかかった頃、押し黙ったままだったチチが初めて口を開いた。
「おらをおっ父のところへ連れて行ってけれ。あの家にはもう戻らねえだ」
「まだそんなこと言ってるんか。なあ、チチ、オラなんか悪いことしたか?」
(何もしねえから問題なんだべ!)
 返事をしようと口を開きかけた悟空は、ふと顔をしかめ、落ち着きなく何度もチチを抱え直した。
「おっかしいなー。筍茸の煎じ汁で治ったと思ったのに……」
 さすがにチチも顔色を変えて夫を見た。
「悟空さ、病気がぶり返したんけ?」
「よくわかんねえんだけど、チチとくっついてるとオラ、変な気分になるんだ。おめえが気ぃ悪くすると思って今まで言わなかったんだけどよ」
「え……?」
「修行してたりして、おめえと離れてると平気なんだ。チチがそばにいる時だけなんだ、こんな気分になるのって。だからオラ、最初はおめえに病気をうつされたのかと思ってたんだけど、おめえは何ともねえみてえだしよ。不思議でしょうがなかった」
「悟空さ……」
「病気っていうか……変な気分だ」悟空は上気した顔でチチを見つめて言った。「チチを見てるとオラ、胸がドキドキして体がムズムズする」
 チチの顔がぱあっと輝いた。ちょっと意地悪い笑みを含んだ瞳で彼女は言った。
「そりゃ大変だべ。心臓病かも知れねえだ」
「ええっ」
 飛び上がって驚く悟空を見て、チチは屈託なく大声で笑いだした。今まで悩んだり苦しんだりしてたのは、みんな自分のひとり相撲だったのだ。
 なんだか拍子抜けしたのと、この世の不幸をすべてひとりで背負っているみたいに思い込んでいたことが滑稽で、またまた笑いがこみ上げてくる。
「お、おい、そんなに体動かすなって。バランスが……」
 チチを取り落としそうになり、慌てて抱き直した悟空だったが、彼女の笑いが収まらないのであきらめて空から降りた。
 チチは引きつけを起こしたようにまだ笑っている。涙を流して笑い続け、ついにはその場に座り込んでしまった。
(何がそんなにおかしいんだ? 女ってわかんねえ)

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