山田正紀作品感想vol.6 |
七面鳥危機一発 赤い矢の女 ブラックスワン 美しい蠍たち 第四の敵 謀殺の翼747 ゐのした時空大サーカス 螺旋の月 宝石泥棒II ジュークボックス 血と夜の饗宴 |
七面鳥危機一発 山田正紀 |
1988年発表 (双葉文庫 や05-4・入手困難) |
[紹介] [感想] モンキー・パンチのカバーイラストのせいもあって、どうしても「ルパン3世」とイメージが重なってしまいます。基本的に肩の力を抜いて楽しめる物語ですが、山田正紀はどうしても軽い作品には徹しきれないようで、最後には山田正紀らしい重さが表れています。
なお、本書はnakachuさんよりお譲りいただきました。あらためて感謝いたします。 2000.11.10再読了 |
赤い矢の女(上下) 東京・能登篇/モスクワ・レニングラード篇 山田正紀 |
1988年発表 (トクマ・ノベルズ・入手困難) |
[紹介] [感想] 平凡な女学生を主人公とした巻き込まれ型サスペンスです。主人公が次々と遭遇する危機、そして数々の謎はスリリングで、興味を惹かれます。些細な発端から大事件へと発展する展開も、定番ではありますがよくできていると思います。特に、現在の事件に35年前のスパイ疑惑を重ね合わせてあるところが秀逸です。ソ連崩壊以前の作品であり、その後の世界情勢は大きく変わってはいますが、決して古びて感じられるところはありません。
ただ、登場人物たちの主人公に対する脅迫ともとれる忠告が、中途半端に謎めいたありがちなもので、やや鼻につくところが残念です。 2000.11.11 / 2000.11.11再読了 |
ブラックスワン 山田正紀 |
1989年発表 (講談社文庫 や8-8) |
[紹介] [感想] 山田正紀の本格ミステリ。冒頭からアリバイ工作が描かれていますが、決してアリバイものではありませんし、倒叙形式でもありません。この作品の中心となる謎は、“姿を消した橋淵亜矢子に何が起こったか?”です。
山田正紀の本格ミステリの特徴として、謎解きのカタルシスよりも、その向こうにある真相の苦さが重要視されている点があると思いますが、この作品でもそれが強く表れています。謎解き自体はよくできていますが、探偵役が登場人物によって否定されている点、さらに“おび色がかった”という謎の言葉の扱いのさりげなさなど、後の新本格作家による一連の作品などとは明らかに一線を画した、独自のテイストといえるでしょう。 2000.09.06再読了 (ミステリ&SF感想vol.15より移動) |
美しい蠍たち 山田正紀 |
1989年発表 (トクマ・ノベルズ・入手困難) |
[紹介] [感想] 内容紹介や冒頭に掲げられた謎の詩、趣向が凝らされた目次など、“館もの”の本格ミステリのような雰囲気ですが、実際にはそうではありません。大半の謎の扱いは軽く、むしろ登場人物たちの間に存在する緊張感がメインとなった、サスペンスに近い作品です。
作品のテーマは、竜助の残した「女はみんな蠍だ」という言葉に集約されています。直接には女性しか登場しないこの作品は、“蠍”になぞらえられた女たちが喰らい合う物語なのです。 道具立てのせいで本格ミステリという期待をされてしまうためか、あまり好評ではないようですが、奇妙な状況に放り込まれた真理の心の動きがうまく描かれており、サスペンスとしてはまずまずといっていいのではないでしょうか。 2000.07.02再読了 |
第四の敵 山田正紀 | |
1989年発表 (双葉文庫 や05-5・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 『化石の城』でカフカを、そして『宿命の女』でヒトラーを扱った山田正紀が、これらの題材に再挑戦した作品です(雑誌連載時の題名は『宿命の城』)。カフカの未発表長編と、そこに隠された秘密。そしてヒトラーはどのように関わってくるのか、さらに現代日本に姿を現す“第四の敵”とは何か。この作品では、これらの魅力的な謎や題材をうまく配置することでスケールの大きな謀略を描き出す一方で、ある意味で小さな存在ともいえる〈流通新報〉の面々をこの謀略に対抗させることで、読者をスムーズに引き込むことに成功しているのではないでしょうか。
発表当時の時代背景を重要な要素として取り入れているために、今となってはそのインパクトが薄れてしまっているのが残念ではありますが、やはり緻密に構成された謀略小説の傑作といえるでしょう。 2000.11.13読了 |
謀殺の翼747 山田正紀 | |
1989年発表 (C★NOVELS・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 奇抜なアイデアを注ぎ込んだハイジャック小説です。ハイジャックといえば、誘拐と同じくどのように幕を引くかが重要な犯罪です(余談になりますが、その意味で、誘拐小説の名手だった岡嶋二人がハイジャックを扱ったらどれほどの傑作が生まれただろうかと思うと、解散が実に残念です)。山田正紀のハイジャック小説としては、「エアーポート・81」(『贋作ゲーム』収録)という異色作がありますが、この作品でも冒頭はストレートなハイジャックでありながら、その裏にとんでもない計画が隠されています。ちょうど岡嶋二人『あした天気にしておくれ』のような、ひねりが加えられたプロットが非常に魅力的な傑作です。
2000.11.14読了 |
ゐのした時空大サーカス 山田正紀 | |
1989年発表 (中央公論社・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 中年にさしかかったサラリーマン・健一と、ゐのした大サーカスのピエロである“ぼく”。物語は、主にこの二人の視点で進んでいきます。ゐのした大サーカスの思い出を中心とした健一の物語はノスタルジーに満ちたもので、所々に幻想的な雰囲気を感じさせるものの、普通の小説と言ってもおかしくない内容です。これに対して“ぼく”の物語は、ゐのした大サーカスをその内部からの視点で語るもので、『チョウたちの時間』にも登場した“空間志向”と“時間志向”というアイデアに基づいた時間SFとなっています。この二つの物語が微妙に絡み合うことで、私たちが普段どれほど“時間”というものを意識していないか、ということを訴えかけてくる作品となっています。
唯一第三者的な視点で描かれた、奇妙な味の「パントマイム」や、比較的ストレートな内容で、人生について考えさせられる「猛獣つかい」なども印象的ですが、やはり「フィナーレ」のラストの美しさ、スケールの大きさは特筆すべきものです。 なお、本書はMZTさん(「書物の帝国」)よりお譲りいただきました。あらためて感謝いたします。 2000.08.08再読了 (ミステリ&SF感想vol.13より移動) |
螺旋の月 宝石泥棒II (上下) 山田正紀 |
1989年発表 (ハルキ文庫 や2-5,6) |
[紹介] [感想] まずご注意を。この作品は、『宝石泥棒』のストレートな続編ではありません。『宝石泥棒』の主人公ジローの物語が約半分、そして残りが緒方次郎を主人公とした物語で、さらにはるかな未来を描いた序章と終章が置かれています。初読時にはストレートな続編を期待していたせいか、期待はずれに感じてしまった部分もありましたが、久しぶりに再読してみると、やはりよくできた作品だと思います。例えば、次世代コンピュータ開発の背後に隠された真相は驚くべきものですし、ジローと饕餮{とうてつ}との戦いなどは圧倒的なイメージの奔流です。さらに、巻末の日下三蔵氏による解説(これも見事です)にも書かれているように、山田正紀SFの集大成ともいえる側面を持った作品です。
ストレートな続編ではないために前作の設定と整合しない(ように感じられる)部分があること、また本編の最後に納得のいかない点があるなど、若干不満もありますが、壮大なスケールの終章はそれを補って余りあるものです。 2000.06.29 / 2000.07.01再読了 (ミステリ&SF感想vol.9より移動) |
ジュークボックス 山田正紀 | |
1990年発表 (徳間書店・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介]
[感想] 50年代・60年代のアメリカン・ポップスをBGMとして展開される、山田正紀流のサイバーパンクです。老人ホームに収容されている老人たちを主人公としているのもさることながら、〈太陽系融合惑星〉という特異な世界設定、そして生命言語“ランガー”というアイデアが非常に秀逸です。
周囲のすべて(名づけることのできないものまでも)を言語化するという欲望を持ったこの“生きている言語”・ランガーというアイデアは、“想像できないものを想像する”という山田正紀SFの基本的なスタンスをストレートに表すものといえるでしょう。そして、言語と世界との関係という意味では、川又千秋『幻詩狩り』や神林長平『言壷』などにも通じる面白さがあります。なお、この“ランガー”というアイデアは後の長編『ジャグラー』でも使用されています。 物語の方は、「カレンダー・ガール」がやや浮いているように感じられるところが気になりますが、特に終盤、「小さい悪魔」から「星へのきざはし」あたりは予想もつかない方向へと展開していて、非常にスリリングです。この凝った構成には、ミステリを書いた経験も生かされているように思われます。 2000.10.28再読了 |
血と夜の饗宴{サバト} 山田正紀 | |
1990年発表 (廣済堂ブルーブックス・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 同じ青山を舞台にしたホラーということで、どうしても『魔空の迷宮』と似た印象になってしまいますが、こちらは〈青山ハイタワー〉というビルそのものが主役です。前半、相次ぐ怪死事件を繰り返し描くことにより、難攻不落なビルの姿を際立たせているところは、秀逸といえるでしょう。
しかし、随所に山田正紀らしいアイデアは見られるものの、テーマの扱いにあまり新しさが感じられない部分もありますし、特に結末など、SFともホラーともつかない中途半端なものに感じられるところも残念です。 2000.09.10読了 |
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