山田正紀作品感想vol.2 |
50億ドルの遺産 チョウたちの時間 竜の眠る浜辺 宝石泥棒 デッド・エンド アフロディーテ 超・博物誌 ふしぎの国の犯罪者たち ツングース特命隊 孔雀王 |
50億ドルの遺産 山田正紀 | |
1979年発表 (徳間文庫210-7・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 東南アジアの小島を舞台にした冒険小説ですが、陰謀の(ある程度の)真相が比較的早い段階で明らかにされているところに、ややもったいなさを感じます。また、国家規模の陰謀を、これほど簡単に明かしてしまうものか、という疑問も禁じ得ません。しかし、その後の展開はまさに冒険小説の醍醐味を感じさせてくれます。ラストの評価が難しいところですが、よくできた作品だといえるでしょう。
2000.09.21読了 |
チョウたちの時間 山田正紀 | |
1979年発表 (角川文庫 緑446-7・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] この作品はタイムトラベルものではなく、“時間”そのものをストレートに扱ったSFです。ここでの“時間”は、ただ過ぎてゆくだけの、つかみどころのないものではありません。時間粒子で満たされた“純粋時間”の青い世界のイメージは鮮烈です。そして、そこで戦う者たちの姿も、鮮やかに描かれています。作中でも触れられているように、人間にとっては“時間”を空間のように把握することは困難ですが、この作品ではその“時間”が確固とした存在として描かれているのです。
原子物理学者ボーアとハイゼンベルクの会談、ブラックホール生命体、“結晶時間都市”、“神殿”など、テーマを彩るモチーフも魅力的です。そしてすべてを象徴するチョウ。ハードなテーマであるにもかかわらず、わかりやすいイメージ、そして叙情性までも兼ね備えた傑作です。 2000.05.01再読了 (ミステリ&SF感想vol.4より移動) |
竜の眠る浜辺 山田正紀 |
1979年発表 (徳間文庫210-8) |
[紹介] [感想] 異常事態に放り込まれた小さな町と、そこから立ち上がろうとする人々の姿を、ユーモラスな筆致で描き出した作品。SF的な設定ではありますが、どちらかといえば冒険小説に近い雰囲気です。
この作品の最大の見所は、やり手の父に支配された無気力な直巳、孤独なタバコ屋のシズ婆さん、そして変わり者で怠け者の文筆家・田代など、“さえない町”・百合ヶ浜を象徴するかのような“さえない人々”が、異常事態を糧として気力を取り戻し、あるいは自分を見いだしていく過程にあります。異常事態によって挫折を余儀なくされた直巳の父・直吉でさえも、最終的に何かを取り戻すことになります。百合ヶ浜の人々にとって、この異常事態は新たな一歩を踏み出すための予期せぬチャンスであり、その意味でこの物語は一種のビルドゥングス・ロマンであるともいえるでしょう。 2000.09.23再読了 |
宝石泥棒 山田正紀 | |
1980年発表 (ハヤカワ文庫JA220) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 奇怪な生物に満ちあふれ、神と人間が共存するファンタジー風の世界を舞台として、物語は幕を開けます。世界の説明はなされず、ただひたすらに描写されるだけです。しかし、この緻密な描写の積み重ねによって、“世界”の姿がおぼろげにつかめるようになっています。そしてそれを支えるのが、各章の終わりに置かれた注釈です。この注釈は、単なる注釈にとどまらず、中盤以降の“世界”の変容をスムーズにさせるのにも一役買っています。つまり、本文と注釈という二つのレベルを持った、メタフィクション的な構造を持っているとも言えます。
上記のように、中盤以降、当初描かれた“世界”とは相容れない要素が少しずつ姿を現します。すべての謎が解き明かされるわけではありませんが、世界が解体されてゆく醍醐味を味わうことができます。間違いなく山田正紀の最高傑作の一つです。 2000.06.22再読了 (ミステリ&SF感想vol.8より移動) |
デッド・エンド 山田正紀 | |
1980年発表 (文春文庫284-1・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] この作品は山田正紀の初期の長編で、北欧神話をモチーフにした宇宙SFです。“神々の黄昏”としても知られる、独特の終末神話を採り入れた世界観は魅力的なものです。冒頭から引用してみましょう。
――イーグはこの世が始まるまえの霧のなかに浮かぶ赤子{あかご}のことを語る。オーディンの長であるイーグが語る終末神話。それは彼らオーディンだけでなく、宇宙の終末をも予感させるものです。宇宙SFでありながら、このような神話をもとに、民俗学的アプローチからスタートするところが実にユニークです。ルーの助けを借りながら“裁断者”が追求していくオーディンの正体は魅力的です。 そして、もう一つのモチーフが螺旋です。オーディンの世界観の柱となり、宇宙を貫く究極の力の象徴、螺旋。同じく螺旋にとりつかれた作家、夢枕獏の傑作『上弦の月を喰べる獅子』・『月に呼ばれて海より如来る』の原点がここにあると言ってもいいでしょう。 “終末”と“螺旋”が結び合わされ、途方もないスケールのラスト。文句なしの傑作です。 2000.04.15読了 (ミステリ&SF感想vol.3より移動) |
アフロディーテ 山田正紀 |
1980年発表 (講談社文庫 や8-5・入手困難) |
[紹介] [感想] この作品は近未来を舞台にした青春小説です。4つの章からなっており、それぞれ18歳、23歳、28歳、そして32歳の雄一の姿が描かれており、この間の雄一の変化と、変貌していく人工都市アフロディーテの姿が重ね合わされています。その意味で、この作品は青春小説であると同時に、青春との決別を描いたものであるともいえるでしょう。
ある登場人物の “このアフロディーテという街は男たちの、いえ、男の子たちのおもちゃじゃないのかって、そんな気がしてきたの”(講談社文庫版183頁より)という台詞にも表れているように、アフロディーテは18歳の雄一にとって単なる新天地ではなく、無限の楽しみを与えてくれるおもちゃ箱です。しかし、やがて青年期を過ぎ、いつかはおもちゃを手放す時期がやってきます。その時、雄一はおもちゃ箱の始末をどうつけるのか。特に青春を過ぎた読者にとっては、感じ入るところが大きいのではないかと思います。 2000.09.26読了 |
超・博物誌 山田正紀 | |
1980年発表 (徳間文庫210-3) | ネタバレ感想 |
[紹介]
[感想] 博物誌という体裁をとっている以上、当然ながら生き物たちが主役となっています。タイトルになっているもの以外にも、“甲虫{ビートルズ}”、“滅びの星{デザスター}”、“砂生み{サンドロピー}”など、魅力的な生き物が多数登場します。特に、多くの生き物が“宇宙”と何らかのかかわりがあるところが、SFならではのアイデアを感じさせます。
しかし、この作品ではそれにとどまらず、全編の記述者である“わたし”の回想を通じてその人生を追体験できるとともに、世界の姿、背景が少しずつ明らかにされていくという趣向が凝らされています。結果として、小品でありながらも、スケールの大きさが感じられるという、不思議な魅力を持つ作品になっています。 2000.04.09再読了 (ミステリ&SF感想vol.2より移動) |
ふしぎの国の犯罪者たち 山田正紀 | |
1980年発表 (文春文庫284-4・入手困難) → 「電子文庫パブリ」 | ネタバレ感想 |
[紹介と感想] 『贋作ゲーム』にも通じる、“犯罪遊戯”を描いた連作長編です。
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ツングース特命隊 山田正紀 | |
1980年発表 (講談社文庫 や8-4) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 『崑崙遊撃隊』の別バージョンのような、秘境冒険小説です。登場人物たちも微妙にキャラクターや役どころがかぶっているようです(例えば、武藤=藤村、村井=倉田、伊沢=天竜、俊藤=B.W、大隈=森田、といったところでしょうか)。
しかしながら、『崑崙遊撃隊』では伝説の楽園・崑崙を目的としているのに対し、この作品では〈地獄〉を目指している点が最大の違いとしてあげられるでしょう。この〈地獄〉が後半のSF的設定とうまく結びつき、独特の印象を与えています。 大爆発のSF的設定は一見ありがちなようですが、そこにひねりが加えられています。これによって、終章のグルジェフの台詞がより印象的なものとなっています。 2000.09.29読了 |
孔雀王 山田正紀 |
1981年発表 (角川文庫 緑446-8・入手困難) |
[紹介] [感想] タイムスリップものではありますが、むしろ異世界での冒険がメインで、ヒロイック・ファンタジーのような趣もあります……今のところ。解説によれば三部作となる予定だったようですが、続編は書かれていません。
ファンタジックな世界に異質な主人公(何といっても、冒険の目的が自分の貯めた金を取り戻す、というものですから)を放り込んだユニークな設定、そして最終的には宇宙へ飛び出すことを予感させるストーリーと、面白いものに仕上がりそうだっただけに、残念です。 2000.10.01読了 |
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