夜深偶對歐州史, 興廢輸贏似奕棋。 雨撲山牕燈影暗, 讀來邏罵滅亡時。 |
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獄中 史を讀む
夜 深くして 偶(たまたま) 歐州史に 對す,
興廢 輸贏(しゅえい) 奕棋(えきき)に 似たり。
雨は 山(さんさう)を撲(う)ち 燈影 暗く,
讀み來(きた)る 邏罵(ローマ) 滅亡の時。
◎ 私感註釈 *****************
※陸奥宗光:明治時代の政治家、外交官。弘化元年(1844年)~明治三十年(1897年)。和歌山藩出身。海援隊に加わり、尊王攘夷運動に挺身。維新後、兵庫県知事、神奈川県令などを歴任。西南の役に際し、挙兵を企て入獄。この作品はその時のもの。後、赦されて、外交面で活躍する。
※獄中讀史:獄中で、歴史書を読む。
※夜深偶對歐州史:夜おそく、ヨーロッパの歴史書に向かった(が)。 ・夜深:深夜に。 ・偶:たまたま。 ・對:…に向かう。対する。 ・歐州史:ヨーロッパの歴史。西洋史。
※興廢輸贏似奕棋:(各国、各王朝の)興亡は、囲碁のようである。 *「興廢輸贏似奕棋」の句、「興發輸贏似奕棋」となっているのがあるが、「興發」では意味が通じない故、「興廢」をとったが原本を要確認。 ・興發:〔こうはつ;xing1fa1○●〕おこす。興る。恵み深い政治を盛んに行い、倉を開いて、民に施す。後出「輸贏」(勝敗)から見ると「興廢」〔こうはい;xing1fei4○●〕(盛んになることと、衰えること。盛んになることと、すたれること)の意で使われているので「興廢」(こうはい)と読みいたすべきところ。 *後世、五・一五事件の三上卓が『青年日本の歌』(『昭和維新の歌』)で、「ああ人榮え國亡ぶ,盲たる民世に踊る。治乱興亡夢に似て,世は一局の碁なりけり。」と詠うもととなったか。 ・輸贏:〔しゅえい(ゆえい);shu1ying2○○〕勝ちと負け。 ・輸:〔しゅ(ゆ)shu1○〕負け。負ける。 ・贏:〔えい;ying2○〕勝ち。勝つ。 ・似:…に似ている。…のようだ。…(の)ごとし。 ・奕棋:〔えきき(えっき);yi4qi2●○〕碁を打つこと。囲碁。囲碁や将棋。
※雨撲山燈影暗:雨は山奥の隠者の窓に打ちつけて、ほかげもくらい(中で)。 ・撲:〔ぼく;pu1●〕打つ。なぐる。 ・山:〔さんさう;shan1chuang2○○〕山奥の家の窓の意だが、ここでは獄窓、のことになる。 ・燈影:ほかげ。灯火。 ・暗:くらい。灯火が暗いだけでなく、「讀來邏罵滅亡時」と、大帝国も方法を過てば滅んでいくという冷厳な事実に対して、作者の心が暗くなっていることも表す。
※讀來邏罵滅亡時:(ちょうど)(西)ローマ(帝国)の滅亡の所まで読み進めてきた。 *曾ての西洋の中心であった(西)ローマ帝国も、外的な要因と内的な要因のため、滅亡した。政治の舵取りは非常に重要である。今、西ローマ帝国を滅ぼした後裔が、南海の彼方から、愛琿の北から、東亜を窺っているではないか、ということを訴えていよう。 ・讀來:読み到る。…まで読んだ。 ・邏罵:〔らま;luo2ma4○●〕ローマ。Romaの音訳。≒羅馬〔luo2ma3○●〕。 ・滅亡:476年に西ローマ帝国滅亡。ゲルマン民族の侵入とローマ帝国内の社会、経済上の変化のためという。
◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「棋時」で、平水韻上平四支。次の平仄はこの作品のもの。
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(A韻)
平成18.6.14 6.16 |
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