目前境界似吾, 地老天荒百草枯。 三月春風沒春意, 寒雲深鎖一茅廬。 |
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陋居
目前の境界は 吾が(や)せたるに似て,
地は 老い 天は 荒れ 百草 枯れたり。
三月 春風 春意を 沒し,
寒雲 深く鎖(とざ)す 一 茅廬(ばうろ)。
◎ 私感註釈 *****************
※一休宗純:室町中期の臨済宗の僧。應永元年(1394年)〜文明十三年(1481年)。諱は宗純。号して狂雲子。後小松天皇の落胤という。五山の禅林が頽廃していくのに対して、諸国を遍歴する。後に、勅をうけて大徳寺の住持となる。詩歌、書画に秀でるとともに、禅僧でありながら酒や女性を愛して、形式や規律を否定した反骨的で奔放な叛逆の人生を送った。無念の思いがあったのだろう、そのための奇行は、やがて伝説化されて、「一休咄(いつきうばなし)」が作りだされ、現在に至るも「一休さん」として、広く親しまれている。
※陋居:狭くて穢(きたな)い住居。わびずまい。自分の住まいを遜(へりくだ)っていうことば。
※目前境界似吾:眼前の境遇はわたしのやつれたさまのようである。 ・目前:眼前。目下。 ・境界:境遇。因果の理(ことわり)によって、各人が受けた境遇。眼前の光景であり、それが作者の心境でもある。 ・似:似る。…のようである。ごとし。 ・:〔く;qu2○〕やせる。やつれる。減る。
※地老天荒百草枯:地上の光景は(冬枯れで)老いさらばえたさまで、天上の空模様は、荒れすさぶっており、諸々(もろもろ)の草は、冬枯れである。 ・地老:地上の光景は(冬枯れで)老いさらばえたさまで。 ・天荒:天上の空模様は、荒れすさぶっている。 ・百草:種々の草。雑草。『古詩十九首之十一』に「廻車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」と使われている。冬枯れを詠う晉・陶潛はそこに自分の志を述べる『飮酒二十首』其八「松在東園,衆草沒其姿。凝霜殄異類,卓然見高枝。連林人不覺,獨樹衆乃奇。提壺撫寒柯,遠望時復爲。吾生夢幻間,何事紲塵羈。」 ・枯:枯れる。冬枯れであるということ。
※三月春風沒春意:(春も終わりの月の)三月であるというのに、春風には(全然)春の気配がない。 ・三月:陰暦では、春の終わりの時期。季春。三月は本来、白居易の『送春』「三月三十日,春歸日復暮。惆悵問春風,明朝應不住。送春曲江上,拳拳東西顧。但見撲水花,紛紛不知數。人生似行客,兩足無停歩。日日進前程,前程幾多路。兵刃與水火,盡可違之去。唯有老到來,人間無避處。感時良爲已,獨倚池南樹。今日送春心,心如別親故。」 のように詠われて然るべき季節なのに、その様子がまだ訪れていないことをいう。 ・春風:吹いてくる春の風。ここでは春風なのに寒風なのをいう。 ・沒:〔ぼつ;mo4●〕無い。「有」の対義語。また。ぼっする。禅僧は口語系の俗語を使うので、〔mei2〕の意である「無」(打ち消しの意)が相応しかろう。 ・春意:春の気配。
※寒雲深鎖一茅廬:寒々とした冬の雲が(わたしの)粗末な庵(いおり)に深く立ち籠めて閉ざしている。 ・寒雲:寒々とした冬の雲。 ・深鎖:深く立ち籠めて閉ざしている。 ・一:とるにたらない。とある。一つの。(作者の住まいの)。 ・茅廬:〔ばうろ;mao2lu2○○〕萱(かや)や藁(わら)などで葺(ふ)いた粗末な庵(いおり)。自宅を遜(へりくだ)っていう。前出・「陋居」のことと同義。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「枯廬」で、平水韻上平七虞。次の平仄はこの作品のもの。
●○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●○○●○●,
○○○●●○○。(韻)
平成18.6.17 6.18 6.19 |
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