夜來春雨潤垂柳, 春水新生不滿塘。 日暮平原風過處, 菜花香雜豆花香。 |
安寧道中 即事
夜來 の春雨 垂柳 を潤 し,
春水 新たに生ずるも塘 を滿たさず。
日暮 の平原 風 過ぐる處,
菜花 香は雜 る 豆花の香に。
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◎ 私感訳註:
※王文治:清代の文学者。自は禹卿。江蘇丹徒(現・江蘇省鎮江市)の人。1730年(雍正八年)~1802年(嘉慶二年)。
※安寧道中即事:安寧への旅路の途中で風景を即席で詠じた。 ・安寧:雲南省安寧県。 ・道中:旅路の途中。道すがら。 ・即事:目の前の物事を即興的に詠む詩。即席の詩。
※夜來春雨潤垂柳:昨夜来の雨が枝垂(しだ)れ柳を潤した(が)。 *王維の『送元二使安西』の「渭城朝雨輕塵、客舎靑靑柳色新。勸君更盡一杯酒、西出陽關無故人。」
や、孟浩然の『春曉』「春眠不覺曉,處處聞啼鳥。夜來風雨聲,花落知多少?」
と雰囲気が似ている。 ・夜來:昨晩からの。昨夜来。 ・春雨:春の雨。はるさめ。 ・潤:うるおす。 ・垂柳:枝垂れ柳。枝の垂れ下がったヤナギ。
※春水新生不滿塘:春の(雪解けの)の水は新たに漲(みなぎ)ったものの、池にいっぱいにはなっていない。 ・春水:春の(雪解けの)池や河の水。 ・新生:新たに漲(みなぎ)る。 ・滿:いっぱいになる。満ちる。 ・塘:〔たう;tang2○〕池。ため池。また、つつみ。土手。ここは、前者の意。
※日暮平原風過處:日暮れの平野を風が吹き抜けていくが、その処には。 ・日暮:日暮れ。 ・平原:平野。野原。 ・過:通り過ぎる。 ・處:場所。ところ。詩詞でよく使う「所」字の用法とは異なる。
※菜花香雜豆花香:菜の花の香りに豆の花の香りが(吹き抜ける風のために)混ざっている。 ・菜花:(庭木の花ではなく)野菜の花。現代語では菜の花(アブラナ)。「菜花」「豆花」と並べて使っているため、「菜花」は、野菜の花、という総称ではなく、菜の花(アブラナ)、と見た方が「豆花」とのバランスがよいのではないか。唐・劉禹錫の『再遊玄都觀』余貞元二十一年爲屯田員外郎時,此觀未有花。是歳出牧連州,尋貶朗州司馬。居十年,召至京師,人人皆言,有道士手植仙桃,滿觀如紅霞,遂有前篇以志一時之事。旋又出牧,今十有四年,復爲主客郞中。重遊玄都觀,蕩然無復一樹,唯兔葵燕麥動搖於春風耳。因再題二十八字,以俟後遊,時太和二年三月。「百畝庭中半是苔,桃花淨盡菜花開。種桃道士今何歸,前度劉郞今又來。」序に拠れば「兔葵燕麥」(いえにれ、えんばく)等の雑草になろうか。宋・辛棄疾の『鷓鴣天』「陌上柔桑破嫩芽,東鄰蠶種已生些。平岡細草鳴黄犢,斜日寒林點暮鴉。 山遠近,路橫斜,靑旗沽酒有人家。城中桃李愁風雨,春在溪頭薺菜花。」
とある。 ・香:かおり。名詞。また、かおる、といった動詞、形容詞もあるが、この句「菜花香雜豆花香」は「『菜花香』雜+『豆花香』」という構成と節奏なので、「菜花香」「豆花香」という名詞系になる。 ・雜:まじる。まざる。 ・豆花:エンドウなどの花。杜牧の詩「贈別」「娉娉嫋嫋十三餘,豆
梢頭二月初。」
では可憐な趣き(少女)を表しているが…。
◎ 構成について
2007. 9.11完 2019.10. 4補 |