西郷隆盛題残菊図　日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Ribengushi


題殘菊圖

	西郷隆盛
老圃殘黄菊，風霜獨不禁。匹如陶靖節，彭澤宦餘心。

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殘菊の圖に題す

老圃(らうほ )　　黄菊(くゎうぎく)を殘す，
風霜(ふうさう)　　獨(ひと)り禁ぜず。
匹如(ひつじょ)す　　陶靖節(たうせいせつ)，
彭澤(はうたく)　　宦餘(くゎんよ )の心に。

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◎　私感註釈

※西郷隆盛：文政十年（１８２７年）～明治十年（１８７７年）。明治維新の元勲。後、西南戦争を起こしたが、城山で自刃。薩摩の人。号して南洲。通称は吉之助。

※題残菊図：散り残りのキクの絵についての詩を作る。　・題…図：…の絵についての詩を作る。　・残菊：散り残りのキク。この作品は、征韓論（或いは平和的修好を主張したが、）内治優先論に敗れて、官を辞して鹿児島に帰郷した際の心情をキクの花や陶淵明に託して詠う。

※老圃残黄菊：老農夫が黄色いキクの花を残した。　・老圃：畑作りによく慣れた農夫。老練な農夫。老農。　・圃：〔ほ；pu3●〕はたけ。蛇足になるが、「畑」や「畠」字は国字（＝日本漢字）。　・残：のこす。また、そこなわれた。すたれた。ここは、前者の意。　・黄菊：黄色いキクの花。東晉・陶潛の『飮酒二十首』其五に「結廬在人境，而無車馬喧。問君何能爾，心遠地自偏。采菊東籬下，悠然見南山。山氣日夕佳，飛鳥相與還。此中有眞意，欲辨已忘言。」とあり、陶潛の『九日閒居』に「世短意常多，斯人樂久生。日月依辰至，舉俗愛其名。露淒暄風息，氣澈天象明。往燕無遺影，來雁有餘聲。酒能祛百慮，菊爲制頽齡。如何蓬廬士，空視時運傾。塵爵恥虚罍，寒華徒自榮。歛襟獨閒謠，緬焉起深情。棲遲固多娯，淹留豈無成。」とある。

※風霜独不禁：（残されたキクの花は）厳（きび）しい環境で、ひとり忍びがたい（ものがある）。　・風霜：〔ふうさう；feng1shuang1○○〕風と霜。年月。厳（きび）しく厳（おごそ）かなものの喩え。辛苦困難の喩え。　・独：ひとり。　・不禁：〔ふきん；bu4jin1●○〕忍びがたい。…しないではいられない。思わず…せずにいられない。

※匹如陶靖節：陶淵明が（彭沢県県令を辞任した時の気持ち）に似ている。　・匹如：〔ひつじょ；pi3ru2●○〕似る。らしいこと。＝匹似。また、たとえば。たとえて。ここは、前者の意。　・陶靖節：陶潜（陶淵明）のこと。靖節（先生）は陶淵明の諡号。

※彭沢宦余心：（陶淵明が）彭沢県県令を辞任した後の気持ち（に似ている）。　・彭沢：〔はうたくPeng2ze2◎●〕彭沢県のこと。陶淵明の任地。（現・江西省九江市の東北東７０キロメートル）のところ。『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）５４ページ「唐淮南道」にある。なお、陶淵明は、４０５年の仲秋（旧暦の八月）に彭沢県県令となるが、その八十餘日後の十一月には、辞任して帰郷する。その経緯は『歸去來兮辭　序』に「余家貧，耕植不足以自給。幼稚盈室，瓶無儲粟，生生所資，未見其術。親故多勸余爲長吏，脱然有懷，求之靡途。會有四方之事，諸侯以惠愛爲德，家叔以余貧苦，遂見用于小邑。於時風波未盡，心憚遠役，彭澤去家百里，公田之利，足以爲酒，故便求之。及少日，眷然有歸歟之情。何則，質性自然，非矯勵所得；饑凍雖切，違己交病。嘗從人事，皆口腹自役。於是悵然慷慨，深愧平生之志。猶望一稔，當斂裳宵逝。尋程氏妹喪于武昌，情在駿奔，自免去職。仲秋至冬，在官八十餘日。因事順心，命篇曰『歸去來兮』。乙巳歳十一月也。」と詳しい。　・宦餘：官職を辞任した後の意。　・宦餘心：官職を辞任した後の思い。陶淵明の官職を辞任した後の思いは、彼の『歸去來兮辭』にある。『歸去來兮辭』には「歸去來兮，田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役，奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫，知來者之可追。實迷途其未遠，覺今是而昨非。舟遙遙以輕颺，風飄飄而吹衣。問征夫以前路，恨晨光之熹微。乃瞻衡宇，載欣載奔。僮僕歡迎，稚子候門。三逕就荒，松菊猶存。攜幼入室，有酒盈樽。引壺觴以自酌，眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲，審容膝之易安。園日渉以成趣，門雖設而常關。策扶老以流憩，時矯首而游觀。雲無心以出岫，鳥倦飛而知還。景翳翳以將入，撫孤松而盤桓。歸去來兮，請息交以絶遊。世與我而相遺，復駕言兮焉求。悅親戚之情話，樂琴書以消憂。農人告余以春及，將有事於西疇。或命巾車，或棹孤舟。既窈窕以尋壑，亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮，泉涓涓而始流。羨萬物之得時，感吾生之行休。已矣乎，寓形宇内復幾時。曷不委心任去留，胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願，帝鄕不可期。懷良辰以孤往，或植杖而耘耔。登東皋以舒嘯，臨淸流而賦詩。聊乘化以歸盡，樂夫天命復奚疑。」と詠われている。

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◎　構成について

韻式は、「AA」。韻脚は「禁心」で、平水韻下平十二侵。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●，
○○●●○。（韻）
●○○●●，
◎●●○○。（韻）