時息 | ||
良寛 |
||
擔薪下翠岑, 翠岑路不平。 時息長松下, 靜聞春禽聲。 |
薪 を擔 ひて翠岑 を下 れば,
翠岑 路 平 かならず。
時に息 ふ 長松の下,
靜かに聞く春禽 の聲を。
*****************
◎ 私感註釈
※良寛:江戸後期の禅僧。寶暦八年(1758年)〜天保二年(1831年)。漢詩人。歌人。越後国(現・新潟県)出雲崎の人。俗姓は山本。名は栄蔵、後、文孝と改める。号は大愚。諸国を行脚、漂泊し、文化元年、故郷の国上山(くがみやま)の国上寺(こくじょうじ)に近い五合庵に身を落ち着けた。晩年、三島(さんとう)郡島崎に移った。高潔な人格が人々から愛され、子供達も慕ったが、人格の奇特さを表す逸話も伝わっている。ただ、遺されている漢詩は陰々滅々として、類例を見ないほど暗いものである。
※時息:時々、休憩して。 ・時:時に。時々。 ・息:憩う。
※担薪下翠岑:薪(まき)を担(かつ)いで、緑の山の峰から下(くだ)って(来ると)。 ・担:かつぐ。になう。 ・薪:〔しん;xin1○〕たきぎ。まき。 ・下:くだる。 ・翠岑:〔すゐしん;cui4cen2○○〕みどり色の山のみね。=翠峰・翠巒。
※翠岑路不平:緑の山の峰の道は、たいらかでない。 ・不平:たいらかでない。また、心が穏やかでないこと。不満に思うこと。蛇足になるが、現代語(=中国語)の感覚では、不公平・不平・不満といった趣が強い。明末清初・顧炎武の『精衞』に「萬事有不平,爾何空自苦。長將一寸身,銜木到終古。我願平東海,身沈心不改。大海無平期,我心無絶時。嗚呼君不見 山銜木衆鳥多,鵲來燕去自成窠。」とある。
※時息長松下:時々、老いた松の下で休憩(すれば)。 ・長松:〔ちゃうしょう;chang2song1○○〕老松。大きくなった松。「長」は「大きくなる」の意では〔zhang34●〕、形容詞「長い」の意では〔chang2○〕。『論語』子罕篇の「歳寒,然後知松柏之後凋也。」での困難な環境にも耐え得、不屈の気節を表す松を謂う。盛唐・李白の『贈韋侍御黄裳』に「太華生長松,亭亭凌霜雪。天與百尺高,豈爲微飆折。桃李賣陽艷,路人行且迷。春光掃地盡,碧葉成黄泥。願君學長松,慎勿作桃李。受屈不改心,然後知君子。」とある。
※静聞春禽声:春の鳥の鳴き声が、しずかにきこえてくる。 ・静聞:しずかに(なって)きこえてくる。似た表現に「静聴」があるが、後者の意は:しずかに耳をすませて聴く意。 ・春禽:春の鳥。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「平聲」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●○,
●○●●○。(韻)
○●○○●,
●○○○○。(韻)
平成25.7.31 |
トップ |