中庸 | ||
元田永孚 |
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勇力男兒斃勇力, 文明才子醉文明。 勸君須擇中庸去, 天下萬機歸一誠。 |
勇力 の男兒 は 勇力に斃 れ,
文明の才子 は 文明に醉 ふ。
君に勸 む須 らく中庸 を擇 び去 くべし,
天下の萬機 は一誠 に歸 す。
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◎ 私感註釈
※元田永孚:(もとだ えいふ・もとだ ながざね)儒学者。宮内省官僚。文政元年(1818年)〜明治二十四年(1891年)。号は東野。熊本藩出身。時習館に学び、横井小楠の感化を受けた。幕末、京都留守居・高瀬町奉行などをつとめ、維新後は、明治三年(1870年)、宣教使・参事を兼任。宮内省に出仕し、明治天皇の侍読・侍講をつとめた。この間、『教学大旨』、『幼学綱要』を執筆。儒教主義による国民教化に尽力。『教育勅語』の草案を作成。 明治天皇の信任厚く、宮中における保守思想の代表であった。
※中庸:中正で、行き過ぎや不足のないこと。中正の道。また、書名で、子思の作と伝えられる朱子学の「四書」の一。ここは、前者の意。
※勇力男児斃勇力:武術にすぐれている男は、武術でたおれ。 ・勇力:〔ゆうりょく;yong3li4●●〕勇気と武力。 ・斃:たおれる。
※文明才子酔文明:世の中が開けた時代の才能備わった人は、その文明に酔いつぶれて(、本来の姿を見失いやすいものだ)。 ・文明:人知が進み、世の中が開けていること。また、文徳が輝くこと。優れた学問や教養があること。ここは、前者の意。 ・才子:才能や人徳の備わった人。また、詩文の才が備わった人。ここは、前者の意。
※勧君須択中庸去:あなたにお勧(すす)めするが、(物事は)中庸を選んでいく(べきであって)。 ・勧君:あなたにお勧(すす)めする、の意。盛唐・王維の『送元二使安西』に「渭城朝雨輕塵,客舎柳色新。勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人。」とあり、晩唐・于武陵の『勸酒』に「勸君金屈卮,滿酌不須辭。花發多風雨,人生足別離。」とあり、唐・蜀・韋莊の『菩薩蠻 其四』に「勸君今夜須沈醉,樽前莫話明朝事。珍重主人心,酒深情亦深。 須愁春漏短,莫訴金杯滿。遇酒且呵呵,人生能幾何?」とある。 ・須:…すべきである。…する必要がある。…しなければならない。すべからく…(す)べし。 ・択:えらぶ。 ・去:行く。 ・択中庸去:中庸を選んでいく。
※天下万機帰一誠:世の中のよろずの事は、ひとつの誠(まこと)に帰(き)すべきものである。 ・万機:〔ばんき;wan4ji1●○〕天子が執り行うよろずの事。天子の政務。政治。また、万事の微妙なこと。また、それをつつしみいましめる。=万幾。ここは、前者の意。 ・帰:…に帰(き)する。…のものになる。…ということになる。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は、「明誠」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
●●○●●●●,
○○○●●○○。(韻)
●○○●○○●,
○●●○○●○。(韻)
平成27.6.2 |
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