友野霞舟暮春雨中碧梧書屋賞花　日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩


暮春雨中碧梧書屋賞花

	友野霞舟
幽亭酣宴醉瓊英，紅雨繽紛撲酒觥。滿地彩霞凝不散，半庭香雪坐來淸。人生豈有百年好，花發長無三日晴。試問除非開口笑，此時爭奈惜春情。

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暮春(ぼしゅん)の雨中(うちゅう)　碧梧書屋(へきごしょをく)に花を賞す　

幽亭の酣宴(かんえん)　　瓊英(けいえい)に醉ひ，
紅雨(こうう )　繽紛(ひんぷん)として　　酒觥(しゅくゎう)を撲(う)つ。
滿地の彩霞(さいか )　　凝(こ)りて散せず，
半庭の香雪(かうせつ)　　坐し來りて淸し。
人(ひと) 生(う)まれて　豈(あ)に　　百年の好き有らんや，
花發(ひら)きて　長くも　　三日の晴るること無し。
試(こころ)みに問ふ　除(た)だ　　口を開きて笑ふに非(あら)ざれば，
此の時　惜春(せきしゅん)の情(じゃう)を　爭奈(いかん)せん。

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◎　私感註釈

※友野霞舟：江戸後期の詩人、儒者。寛政三年（１７９１年）～嘉永二年（１８４９年）。字は子玉。通称は雄助。号して霞舟。

※暮春雨中碧梧書屋賞花：晩春の雨の中、碧梧書屋で花を観賞した。　・暮春：春の終わり。晩春。また、春の暮れ。　・碧梧書屋：植木玉厓（ぎょくがい）の書斎を謂う。植木玉厓は：江戸後期の詩人、狂詩作者。　・賞：観賞する。めでる。

※幽亭酣宴酔瓊英：奥深いところにひっそりとある四阿（あずまや）での盛んな酒盛りで、玉のように美しい花びらに酔って。　・幽亭：奥深いところにひっそりとある四阿（あずまや）、の意。　・酣宴：盛んな酒盛り。酒盛りの真っ最中。　・瓊英：玉のように美しい花びら。

※紅雨繽紛撲酒觥：花に灑（そそ）ぐ雨が入り乱れて、杯を撲（う）っている。　・紅雨：赤い花の散る喩え。また、花に灑（そそ）ぐ雨。　・繽紛：〔ひんぷん；bin1fen1○○〕いろいろな「もの」（ここでは、「紅雨」）が入り乱れているさま。　・撲：うつ。　・酒觥：杯。　・觥：〔くゎう；gong1○〕（犀の角で作った）杯。つのさかずき。

※満地彩霞凝不散：地面いっぱいの色ののきれいな雲は、凝（こ）り固まって散ってゆかないで。　・彩霞：（朝焼けや夕焼けなど）色のきれいな雲。　・凝不散：凝（こ）り固まって散らない、意。

※半庭香雪坐来清：庭の半分には、かおりある白い花は、何もせずとも清々（すがすが）しい。　・香雪：花吹雪。かおりある白い花の喩え。茶の別名。ここでは、散り敷いた白い花びらことになる。南宋・王從叔の『昭君怨』に「門外春風幾度？馬上行人何處？休更卷珠簾。草連天。　　　立盡海棠花月。飛到荼蘼香雪。莫恨夢難成。夢無憑。」とある。　・坐来：居ながらにして。何もせずに。みすみす。坐っていると、の意か。

※人生豈有百年好：人が生まれてより、百年の齢（よわい）のすばらしさがどうしてあろうか。　・人生：人が生まれ（てより）。　・豈有：どうしてあろうか。

※花発長無三日晴：花が咲いても、三日も晴れが続くことはない。　・発：花が咲く。　・長無：常には無い、意。

※試問除非開口笑：お尋ねするが、口を開けて笑うことをしないのならば。　・試問：おたずねしますが。こころみに　とう。　・除非-：…を除いては。…以外は。「口を開けて（笑う）以外は」。もし…でなければ。…より外には。…でなければ…ない。ただ…にあらざれば。宋・范仲淹『蘇幕遮』「碧雲天，黄葉地，秋色連波，波上寒煙翠。山映斜陽天接水，芳草無情，更在斜陽外。黯鄕魂，追旅思，夜夜除非，好夢留人睡。明月樓高休獨倚，酒入愁腸，化作相思涙。」とあり、南宋・李清照の『菩薩蠻』に「風柔日薄春猶早，夾衫乍着心情好。睡起覺微寒，梅花鬢上殘。　　　故鄕何處是？忘了除非醉。沈水臥時燒，香消酒未消。」とあり、唐の耿の『秋日』「返照入閭巷，憂來誰共語。古道少人行，秋風動禾黍。」、南宋・陸游の『小舟遊近村捨舟歩歸』「斜陽古柳趙家莊，負鼓盲翁正作場。身後是非誰管得，滿村聽説蔡中郞。」とある。

※此時争奈惜春情：（今）この時、過ぎ行く春を惜しみ悲しむ心をどのようにしたらよいのか。　・争奈：どうして…になろうか。いかんせん。いかでか。南宋・李清照の『菊』に「鐵骨霜姿有傲衷，不逢彭澤志徒雄。夭桃枉自多含嫉，爭奈黄花耐晩風。」とある。　・惜春：過ぎ行く春を惜しむ。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡＡＡ」。韻脚は「英觥清晴情」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。

○○○●●○○，（韻）
●●○○●●○。（韻）
●●○○○●●，
●○○●●○○。（韻）
○○●●●○●，
○●○○○●○。（韻）
●●○○○●●，
●○○●●○○。（韻）