徳川光圀愁中遇春　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩


愁中遇春

	德川光圀
柳綫縈情結不舒，告春黄鳥却愁余。斯人亡矣吁如奈，唯恐阿誰補漢書。

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　愁中(しうちゅう)　春に遇(あ)ふ　　　　　　　　

柳綫(りうせん)　情に縈(まと)はり　　結びて舒(の)びず，
春を告ぐる黄鳥(くゎうてう)は　　却(かへ)って余を愁(うれ)へしむ。
斯人( しじん)　亡(ばう)じぬ　　吁(あゝ) 如奈(いかん)せん，
唯(た)だ恐る　阿誰(たれ)か　　『漢書(かんじょ)』を補(おぎな)はんを。

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◎　私感註釈

※徳川光圀：（とくがわみつくに）江戸前期の水戸藩主。寛永五年（１６２８年）～元禄十三年（１７００年）。頼房の三男。徳川家康の孫に当たり、字は子龍。号は梅里。幼名千代松。藩制創業を継ぎ、儒学を奨励し、彰考館を設けて『大日本史』編纂し、水戸学の基礎をつくった。藩士の規律、士風の昂揚を図り、水戸学の精神の基礎を定めた。名君の誉れ高く、後世『水戸黄門漫遊記』がつくられた。

※愁中遇春：悲しみの中にあって、春にであう。（太陰暦の正月に妹を亡くしたが、太陰暦の仲春・晩春二、三月には、本格的な春になってきて、亡くなった悲しみと万物が清明の躍動感浸っている時期との重なりに思いは複雑だ、ということ）。　＊この詩に註して：「是歳正月，妹淸雲院歿，故及之。」（是の歳正月，妹・淸雲院　歿す，故に之（これ）に及ぶ。）とある。（正月　妹淸雲院歿…この項、要再確認）。　・遇春：春にあう。

※柳線縈情結不舒：（春になれば真っ直ぐに伸びるはずの）ヤナギの枝が感情に絡（から）みついて、結ぼれて延べ拡げない。　・柳線：柳の枝、か。「柳糸」ではヤナギの枝の枝垂（しだ）れる形容、「柳条」・「柳枝」はヤナギの枝。平仄から見れば：「柳線」：●●、「柳糸」：●○、「柳条」：●○、「柳枝」：●○。なお、この句（起句）の第一字目・二字目は●●とすべきところで、これに適合しているのは：「柳線」：●●のみ。　・縈：〔えい；ying2○〕まとう。からみつく。めぐらす。めぐる。　・縈情：感情にまといつく、感情にからみつく意。　・結不舒：結ぼれて延べ拡げない、意。　・舒：延べ拡げる。

※告春黄鳥却愁余：春の到来を告げるウグイスは、（楽しいはずの春の気節が、）わたしには、かえって憂鬱なものになる。　・告春：春の到来を告げる。　・黄鳥：ウグイス。　・却：かえって。　・愁：うれえる。　・余：わたし。ここでは、作者を指す。

※斯人亡矣吁如奈：この人（＝妹の清雲院）は亡くなってしまった。ああ、どうしたらよいのだろう。　・斯人：この人。これらの人々。ここは、前者の意で、妹の清雲院を指す。　・亡矣：亡（な）くなった。　・斯人：この人。妹の清雲院を指す。　・亡矣：亡（な）くなった。　・-矣：〔い；yi3●〕…た。詠嘆・完了・限定・疑問・反語を表す句末の助字。　・吁：〔う；yu4●〕ああ。嘆き・驚き・疑い・あやしみ・憂いの時の声。　・如奈：いかん。どうしようか。対処の方法を問う。　・奈：いかん。

※唯恐阿誰補漢書：誰が『漢書（実は『大日本史』を指す）』の（編集作業を）助けてくれるのかだけを恐れている。　・唯恐：ただ…だけを恐れる。「唯恐」は「阿誰補漢書」にかかる。「唯恐〔阿誰（補漢書）〕」。　・阿誰：〔あすゐ；a1shui2○○〕だれ。誰。中唐・白居易の『楊柳枝詞』に「一樹春風千萬枝，嫩於金色軟於絲。永豐西角荒園裏，盡日無人屬阿誰。」とある。　・補：おぎなう。つくろう。たすける。　・漢書：後漢の章帝の時に、班固・班昭らによって編纂された前漢のことを記した歴史書。ここでは、これにかりて、自身が手がけた日本の歴史書・『大日本史』（だいにほんし）を指す。作者・光圀の死後も水戸藩の事業として二百数十年継続し、明治時代に完成した。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡ」。韻脚は「舒余舒」で、平水韻上平六魚。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●●○，（韻），
●○○●●○○。（韻）
○○○●●○●，
○●○○●●○。（韻）