倪瓉題秋江図　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 Ni Zan

題秋江圖
	元・倪瓉

長江秋色渺無邊，
鴻雁來時水拍天。
七十二灣明月夜，
荻花楓葉覆漁船。

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秋江の圖に題す

長江の秋色　　渺(べう)として邊(へん) 無く，
鴻雁(こうがん)　來(きた)る時　　水(みづ) 天を拍(う)つ。
七十二灣　　明月の夜(よる)，
荻花(てきくゎ)　楓葉(ふうえふ)　　漁船を覆(おほ)ふ。

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◎　私感註釈

※倪瓉：〔げいさん；Ni2 Zan4〕元代の画家。詩にも長じた。元・大徳五年（１３０１年）～明･洪武七年（１３７４年）。字は元鎮、号は雲林。無錫(現・江蘇省無錫)の人。元末四大家の一。

※題秋江図：秋の川の絵について、詩を作る。　・秋江図：秋の川の絵。作者自身のものか。

※長江秋色渺無辺：長江の秋の景色は、遥か広々として果てしがなく。　・秋色：秋の景色。秋の気配。　・渺：〔べう；miao3●〕遥か。水が広々として果てしないさま。東晉・陶淵明（陶潜）の『始作鎮軍參軍經曲阿作』に「弱齡寄事外，委懷在琴書。被褐欣自得，屡空常晏如。時來苟宜會，宛轡憩通衢。投策命晨旅，暫與園田疎。眇眇孤舟遊，綿綿歸思紆。我行豈不遙，登降千里餘。目倦川塗異，心念山澤居。望雲慚高鳥，臨水愧遊魚。眞想初在襟，誰謂形迹拘。聊且憑化遷，終反班生廬。」とあり、中唐・韋應物の『聞雁』に「故園眇何處，歸思方悠哉。淮南秋雨夜，高齋聞雁來。」とあり、晩唐・趙嘏の『江樓書感』に「獨上江樓思渺然，月光如水水連天。同來翫月人何處，風景依稀似去年。」とあり、北宋・寇準の『江南春』に「波渺渺，柳依依。孤村芳草遠，斜日杏花飛。江南春盡離腸斷，蘋滿汀洲人未歸。」とあり、北宋・蘇軾の『水調歌頭』快哉亭作に「落日繍簾卷，亭下水連空。知君爲我、新作窗戸濕靑紅。長記平山堂上，欹枕江南煙雨，渺渺沒孤鴻。認得醉翁語，山色有無中。」とある。　・無辺：広々として果てしないこと。

※鴻雁来時水拍天：カリが来る季節は、川の波が空を打つ（かのように水が増えている）。　・鴻雁：〔こうがん；hong2yan4○●〕かり。がん。大を「鴻」、小を雁という。　・来時：インターネット上で「鴻雁來水拍天」というのを見た。これは「鴻雁來時水拍天」か「鴻雁歸來水拍天」かのようにしなければ…。　・水拍天：川の波が空を打っている。前出・趙嘏の『江樓書感』に「獨上江樓思渺然，月光如水水連天。同來翫月人何處，風景依稀似去年。」とあり、北宋・范仲淹の『蘇幕遮』に「碧雲天，黄葉地，秋色連波，波上寒煙翠。山映斜陽天接水，芳草無情，更在斜陽外。　　　黯鄕魂，追旅思，夜夜除非，好夢留人睡。明月樓高休獨倚，酒入愁腸，化作相思涙。」とある。

※七十二湾明月夜：多くの入り江では、明るい月の夜に。 *晩唐・杜牧の『寄揚州韓綽判官』に「靑山隱隱水遙遙，秋盡江南草木凋。二十四橋明月夜，玉人何處敎吹簫？」とある。　・七十二湾：多くの湾を謂う。

※荻花楓葉覆漁船：オギの花と楓の葉で漁をする船を覆い隠している。　・荻花：〔てきくゎ；di2hua1●○〕オギの花。 *荻花も楓葉も、秋を象徴する風物。中唐・白居易の『琵琶行』に「潯陽江頭夜送客，楓葉荻花秋瑟瑟。主人下馬客在船，舉酒欲飮無管絃。醉不成歡慘將別，別時茫茫江浸月。忽聞水上琵琶聲，主人忘歸客不發。尋聲闇問彈者誰，琵琶聲停欲語遲。移船相近邀相見，添酒迴燈重開宴。千呼萬喚始出來，猶抱琵琶半遮面。」とある。　・覆：おおう。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「邊天船」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。

○○○●●○○，（韻）
○●○○●●○。（韻）
●●○○○●●，
●○○●●○○。（韻）