壯事本無取, 老謀何所成。 人皆傳已死, 吾亦厭餘生。 潦倒封侯骨, 淹留混俗情。 百年堪一笑, 辛苦惜虚名。 |
事に感ず
壯事 本 取る無く,
老謀 何 の成る所ぞ。
人皆 已 に死せりと傳 ふ,
吾も亦 餘生を厭 ふ。
潦倒 たり 封侯の骨 ,
淹留 す 混俗の情。
百年 一笑するに堪 へ,
辛苦 して 虚名を惜 しまんや。
******************
◎ 私感訳註:
※元好問:金末の文学者。字は裕之。号して遺山。1190年〜1257年。太原の人。北魏の拓跋氏の家系。作者の時代は、金・モンゴル・南宋が勢力を競い合っていた。なお、当時の金は、満洲、華北、華中をおさえていたが、モンゴルによって亡ぼされた。
※感事:出来事に対して、深く心を動かされる。
※壮事本無取:若い頃にした事がらは、もともと取るに足るものがなく。 *「壮事本無取」「老謀何所成」は対になっている。 ・壮事:壮年時代にした事がら。また、盛大な事業・事跡。ここは、前者の意。 ・本:本来。もと。もともと。 ・無取:取るに足るものがない、取るに足らないの意。
※老謀何所成:年を取ってのはかりごと(も)、何も成就していない。 ・老謀:周到なはかりごと。また、老いてからのはかりごと。ここは、後者の意で使われる。 ・何所成:(一体)どこが成就したのか、の意。 ・何所:どんなところ(があるか)。どこ。盛唐・王維の『送別』に「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」とある。 ・所-:…ところ。…こと。動詞の前に附き、動詞を名詞化する。 ・成:なる。成功する。成就する。
※人皆伝已死:人々は、(わたしのことを)とっくに死んでしまっていると伝えているようだ(が)。 ・人:ここでは、(他の)人を謂う。 ・伝:…と、伝わる。 ・已死:とっくに死んだ。
※吾亦厭余生:わたしもまた、老後の人生をあきてしまった。 ・亦:…もまた。 ・厭:いやになる。嫌う。いやがる。あきる。いとう。 ・餘生:今まで過ごしてきて、まだ余っている人生。年老いてからの人生。
※潦倒封侯骨:諸侯に取り立てらる(べき)気骨も、老いさらばえた。 ・潦倒:〔らうたう;liao2dao3○●(潦:〔liao2、lao2〕)〕老衰のさま。落ちぶれたさま。態度や姿の優しくて穏やかなさま。また、落ちぶれる。零落する。尾羽を打ち枯らす。盛唐・杜甫の『登高』に「風急天高猿嘯哀,渚C沙白鳥飛廻。無邊落木蕭蕭下,不盡長江滾滾來。萬里悲秋常作客,百年多病獨登臺。艱難苦恨繁霜鬢,潦倒新停濁酒杯。」とある。 ・封侯:〔ほうこう;feng1hou2○○〕諸侯となる。諸侯に取り立てられる。貴族階級になる。盛唐・高適の『九曲詞』に「鐵騎行鐵嶺頭,西看邏逤取封侯。海只今將飲馬,黄河不用更防秋。」とあり、盛唐・王昌齡の『閨怨』に「閨中少婦不知愁,春日凝妝上翠樓。忽見陌頭楊柳色,悔ヘ夫壻覓封侯。」とあり、晩唐・曹松の『己亥歳』に「澤國江山入戰圖,生民何計樂樵蘇。憑君莫話封侯事,一將功成萬骨枯。」とあり、南宋・陸游の『訴衷情』「當年萬里覓封侯,匹馬戍梁州。關河夢斷何處?塵暗舊貂裘。胡未滅,鬢先秋,涙空流。此生誰料,心在天山,身在蒼洲!」とあり、南宋・陸游の『夜遊宮』記夢寄師伯渾に「雪曉C笳亂起。夢遊處、不知何地。鐵騎無聲望似水。想關河,雁門西,海際。 睡覺寒燈裏。漏聲斷、月斜紙。自許封侯在萬里。有誰知,鬢雖殘,心未死。」とある。 ・骨:〔こつ;gu3●〕こつ= ひとがら。品格。勢い。意気。動かしがたい気性。気骨。骨相。
※淹留混俗情:(しかしながら、)俗世間と交わって過ごしたいとの思いを、久しく抱いてとどまっている。 ・淹留:〔えんりう;yan1liu2◎○〕久しくとどまる。『楚辭』九辯「獨申旦而不寐兮,哀蟋蟀之宵征。時而過中兮,蹇淹留而無成。」とあり、東晋・陶淵明の『九日闍潤xに「世短意常多,斯人樂久生。日月依辰至,舉俗愛其名。露淒暄風息,氣K天象明。往燕無遺影,來雁有餘聲。酒能百慮,菊爲制頽齡。如何蓬廬士,空視時運傾。塵爵恥虚罍,寒華徒自榮。歛襟獨韆潤C緬焉起深情。棲遲固多娯,淹留豈無成。」とあり、同・陶潛の『飮酒』其十六に「少年罕人事,游好在六經。行行向不惑,淹留遂無成。竟抱固窮節,饑寒飽所更。弊廬交悲風,荒草沒前庭。披褐守長夜,晨鷄不肯鳴。孟公不在茲,終以翳吾情。」とある。 ・混俗情:俗世間にありたいとの思い。俗世間と交わって(いきたい)思い、の意。
※百年堪一笑:百年(=一生)を軽くあしらって微笑んで…できよう(か)。 ・百年:人の一生の長さ(の最大値)。 ・堪:…できる。…するに足る。堪え忍ぶ。こらえる。 ・一笑:軽くあしらう。軽く微笑む。「付一笑」で、わらいとばす意。
※辛苦惜虚名:苦労して、うわべだけの名声を大切にする(ことができよう(か))。 ・辛苦:苦労。 ・惜:惜しむ。大切にする。哀れむ。残念がる。 ・虚名:うわべだけ名高くて実質の伴わない名誉。うわべだけの評判。いつわりの名目。
◎ 構成について
2014.2.24 2.25 2.26 2.27 |