王禹偁村行　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 Wang Yucheng

村行
	北宋・王禹偁

馬穿山徑菊初黄，
信馬悠悠野興長。
萬壑有聲含晩籟，
數峯無語立斜陽。
棠梨葉落胭脂色，
蕎麥花開白雪香。
何事吟餘忽惆悵，
村橋原樹似吾鄕。

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村行 (そんかう)

馬は　山徑(さんけい)を穿(うが)ちて　　菊初めて黄ばみ，
馬に信(まか)せて　悠悠(いういう)　　野興(やきょう) 長し。
萬壑(ばんがく)　聲有りて　　晩籟(ばんらい)を含み，
數峯(すうほう)　語(ことば)　無くて　　斜陽(しゃやう)に立つ。
棠梨(たうり )　葉は落とす　　胭脂(えんじ )の色，
蕎麥(けうばく)　花開きて　　白雪(はくせつ) 香(かを)る。
何事(なにごと)ぞ　吟餘(ぎんよ )　　忽(たちま)ち惆悵(ちうちゃう)たるは，
村橋(そんけう)　原樹(げんじゅ)　　吾(わ)が鄕(きゃう)に似たり。

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◎　私感註釈

※王禹偁：北宋の人。９５４年～１００１年。字は元之。巨野（現・山東省内）の出身。太平興國八年（９８３年）の進士。長洲（現・蘇州市）知県、右拾遺、翰林学士等を歴任、後に知黄州に左遷される。

※村行：村を行く。

※馬穿山径菊初黄：馬で山道を通り抜けると、菊が初めて黄色くなったばかりで。　・穿：通り抜ける。うがつ。　・山径：山道。　・初：初めて…したばかり。副詞。　・黄：黄色くなる。黄ばむ。＊ここでの「黄」は、名詞ではない。

※信馬悠悠野興長：馬に任せて、ゆったりとして落ち着いて（行けば）、いなかのおもむきが続く。　・信馬：（走る方向を）馬に任せる。中唐・白居易の『長恨歌』に「天旋地轉迴龍馭，到此躊躇不能去。馬嵬坡下泥土中，不見玉顏空死處。君臣相顧盡霑衣，東望都門信馬歸。」とあり、同・白居易の『魏王堤』に「花寒懶發鳥慵啼，信馬閒行到日西。何處未春先有思，柳條無力魏王堤。」とあり、金・元好問の『出都』に「春閨斜月曉聞鶯，信馬都門半醉醒。官柳靑靑莫囘首，短長亭是斷腸亭。」とある。　・悠悠：〔いういう；you1you1○○〕ゆったりとして落ち着いているさま。ひまのあるさま。また、遠くはるかなさま。限りないさま。長く久しいさま。うれえるさま。行くさま。ここは、前者の意。『詩經・王風』の『黍離』に「彼黍離離，彼稷之苗。行邁靡靡，中心搖搖。知我者，謂我心憂，不知我者，謂我何求。悠悠蒼天，此何人哉。」とあり、『詩經』・周南』の『關雎』に「關關雎鳩，在河之洲。窈窕淑女，君子好逑。　　參差荇菜，左右流之。窈窕淑女，寤寐求之。求之不得，寤寐思服。悠哉悠哉，輾轉反側。　　參差荇菜，左右采之。窈窕淑女，琴瑟友之。參差荇菜，左右芼之。窈窕淑女，鐘鼓樂之。」とあり、『古詩十九首之十一』に「廻車駕言邁，悠悠渉長道。四顧何茫茫，東風搖百草。所遇無故物，焉得不速老。盛衰各有時，立身苦不早。人生非金石，豈能長壽考。奄忽隨物化，榮名以爲寶。」とあり、盛唐・高適の『宋中』に「梁王昔全盛，賓客復多才。悠悠一千年，陳迹惟高臺。寂寞向秋草，悲風千里來。」とあり、崔顥（さいかう：Cui1Hao4）の七律『黄鶴樓』に「昔人已乘白雲去，此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返，白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹，芳草萋萋鸚鵡州。日暮鄕關何處是，煙波江上使人愁。」とある。　・野興：いなかのおもむき。

※万壑有声含晩籟：方々の谷間から、夕暮れ時の自然の色々な物音が聞こえる（が）。　・壑：〔がく；he4●〕谷。　・晩籟：夕暮れ時の自然の色々な音。　・籟：〔らい；lai4●〕響き。風が吹き通って発する音。本来は、ふえの一。簫の別名。ここは、前者の意。「萬籟無聲」：一切が平静で何の音もない、意の成語。

※数峰無語立斜陽：幾つかの峰は音もなく、西に傾いた太陽の中に立っている。　・斜陽：日没前の西に傾いた太陽。夕日。入り日。

※棠梨葉落臙脂色：棠梨（とうり）の葉は、べに色の葉を落とし。　・棠梨：〔たうり；tang2li2○○〕コナシ。ズミ。ヒメカイドウ。ヤマカイドウ。　・臙脂（色）：〔えんじ；yan1zhi0○○〕濃い紅色。えんじ色。べに。燕支山（現・甘肅省中北部）が紅花の産地であったことに因む。

※蕎麦花開白雪香：ソバの花は、白い雪が香るかのように見える。　・蕎麦：〔けうばく；qiao2mai4○●〕ソバ。　・白雪香：降り積もった白い雪のように見える香るソバの花、の意。

※何事吟餘忽惆悵：どうして、詩を作った後なのに、憂え悲しむ気持ちになるのだろうか。＊問いかけの句。　・何事：どうして。何ゆえ。　・吟餘：詩を作った後/詩を吟じた後。　・忽：にわかに。たちまち。突然。覚えず。知らぬ間に。　・惆悵：〔ちうちゃう；chou2chang4○●〕怨み嘆くさま。失意のさま。憂え悲しむさま。中唐・白居易の『三月三十日題慈恩寺』に「慈恩春色今朝盡，盡日裴回倚寺門。惆悵春歸留不得，紫藤花下漸黄昏。」とあり、晩唐・杜牧の『歎花』に「自是尋春去校遲，不須惆悵怨芳時。狂風落盡深紅色，綠葉成陰子滿枝。」とあり、北宋・梅堯臣の『八月二十二日廻過三溝』に「不見沙上雙飛鳥，莫取波中比目魚。重過三溝特惆悵，西風滿眼是秋蕖。」とあり、北宋・葉夢得の『點絳脣・紹興乙卯登絶頂小亭』に「縹緲危亭，笑談獨在千峰上。與誰同賞。萬里橫煙浪。　　　老去情懷，猶作天涯想。空惆悵。少年豪放。莫學衰翁樣。」とある。

※村橋原樹似吾郷：（それは、）田舎の橋や野原の木が、わたしのふるさとに似ているからなのだ。＊答えている句。　・村橋：田舎の橋。　・原樹：野原の木。　・吾郷：わたしのふるさと、の意。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡＡＡ」。韻脚は「黄長陽香郷」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。

●○○●●○○，（韻）
●●○○●●○。（韻）
●●●○○●●，
●○○●●○○。（韻）
○○●●○○●，
○●○○●●○。（韻）
○●○○●○●、
○○○●●○○。（韻）