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賦得古原草送別 | |
白居易 |
離離原上草,
一歳一枯榮。
野火燒不盡,
春風吹又生。
遠芳侵古道,
晴翠接荒城。
又送王孫去,
萋萋滿別情。
******
古原の草を賦し得て 送別す
離離たり 原上の草,
一歳に 一たび 枯榮す。
野火 燒けども 盡きず,
春風 吹きて 又生ず。
遠芳 古道を 侵し,
晴翠 荒城に 接す。
又 王孫の 去るを 送れば,
萋萋として 別情 滿つ。
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◎ 私感註釈
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)~846年(會昌六年)。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。
※賦得古原草送別:古原の草を賦しながら送別の意を表す。 *これは作者が十六歳の時の作品という。 ・賦得-:数人で詩題を指定したり、詠む部分を限ったりして作った場合、本来の詩題の前に「賦得-」と附ける。 ・古原草:古い原野の草。固有名詞ではない。 ・送別:別れていく人を見送る。
※離離原上草:ふさふさと生い茂る野原の草は。 ・離離:〔りり;li3li3●●(但し、現在では実際にこう発音されてはいない。「li2li2」と「離れる」意と同様に読んでいる)〕:ふさふさと。稲や麦の穂が伸びて垂れるさま。ここは「離れる」といった動詞ではない。『詩經・王風・黍離』「彼黍離離,彼稷之苗。行邁靡靡,中心搖搖。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。 彼黍離離,彼稷之穗。行邁靡靡,中心如醉。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。 彼黍離離,彼稷之實。行邁靡靡,中心如噎。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。」とある。
※一歳一枯榮:一年に一度、枯れたり生えたりする。 ・枯榮:〔こえい;ku1rong2○○〕かれると栄えると。衰えると栄えると。
※野火燒不盡:野火に焼かれても、尽きてしまうことはなく。 ・野火:のび。野を焼く火。野で燃やす火。曹植の『吁嗟篇』に「吁嗟此轉蓬,居世何獨然。長去本根逝,宿夜無休閑。東西經七陌,南北越九阡。卒遇回風起,吹我入雲間。自謂終天路,忽然下沈泉。驚飆接我出,故歸彼中田。當南而更北,謂東而反西。宕宕當何依,忽亡而復存。飄周八澤,連翩歴五山。流轉無恆處,誰知吾苦艱。願爲中林草,秋隨野火燔。糜滅豈不痛,願與根
連。」
とある。 ・燒不盡:焼き尽くせない。不可能を表現する。
※春風吹又生:春風が吹いてくれば(=春になれば)、また生えてくる。 ・又:またしても。再び。
※遠芳侵古道:(遠景は)遥か彼方までずっと続く芳しい春の草花は、古道をおおって。 ・遠芳:か彼方まで続く芳しい春の草花。 ・侵:(いつとはなしに、そろそろとひそかに)おかす。次第に入り込む。苔や草が次第に生えて道などに出てくる場合にも使う表現。 ・古道:古い道。あれた道。
※晴翠接荒城:(近景は(或いは更に遠景))晴れわたった空の下の緑の草木は、雑草に埋まった城壁まで続いている。 ・晴翠:晴れた空の下の緑の草木。 ・荒城:(上句=遠景:との関聯から)雑草に埋まった城壁。
※又送王孫去:またしても、王孫(旅する若者、貴公子)が旅立って行くのを見送れば。 ・王孫去:「王孫帰」の意。「家族と離れて旅立っている者が、親しい人のもとに帰って行く」という感じに使う。『王孫歸』を踏まえたものに、『憶王孫』
、南齊・謝脁の『王孫遊』「綠草蔓如絲,雜樹紅英發。無論君不歸,君歸芳已歇。」
としてよく使われる。もと、貴人の子弟の意で、『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊,蟪蛄鳴兮啾啾。」を指す。そこでの王孫とは、楚の王族である屈原のこと。劉希夷の『白頭吟(代悲白頭翁)』「公子王孫芳樹下,清歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」
や韋荘の『淸平樂』に「春愁南陌。故國音書隔。細雨霏霏梨花白。燕拂畫簾金額。 盡日相望王孫,塵滿衣上涙痕。誰向橋邊吹笛,駐馬西望消魂。」
や、晩唐・温庭
の『折楊柳』に「館娃宮外城西,遠映征帆近拂堤。繋得王孫歸意切,不關春草綠萋萋。」
、がある。王維は『送別』で「山中相送罷,日暮掩柴扉。春草明年綠,王孫歸不歸。」
と使う。 ・王孫:(本来は)貴族の子弟。帝王の子孫。
※萋萋滿別情:草木が盛んに生い茂って、別れの思いでいっぱいになってくる。本来の『王孫歸』の意味では、「故郷を離れている王孫は、草木が繁茂する春になって新しい季節が来た=月日が流れた=が、帰ることなく…」といった意味で「萋萋」を使う。 ・萋萋:〔せいせい;qi1qi1○○〕草が茂って伸びているさま。草が生えそろっているさま。『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊,蛄鳴兮啾啾。」や、王昭君の『昭君怨』に「秋木萋萋,其葉萎黄。有鳥處山,集于苞桑。養育羽毛,形容生光。既得升雲,上遊曲房。離宮絶曠,身體摧藏。志念抑沈,不得頡頏。雖得委食,心有徊徨。我獨伊何,來往變常。翩翩之燕,遠集西羌。高山峨峨,河水泱泱。父兮母兮,道里悠長。嗚呼哀哉,憂心惻傷。」
とあり、崔顥の『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡洲。日暮鄕關何處是,煙波江上使人愁。」
や、前出・晩唐・温庭
の『折楊柳』に「館娃宮外城西,遠映征帆近拂堤。繋得王孫歸意切,不關春草綠萋萋。」
、同・温庭
の『菩薩蠻』に「玉樓明月長相憶。柳絲
娜春無力。門外草萋萋。送君聞馬嘶。 畫羅金翡翠。香燭消成涙。花落子規啼。綠窗殘夢迷。」
とある。 ・別情:別れの思い。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」で、韻脚は「榮生城情」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●,(正確には:●●○●●)
●●●○○。(韻)
●●○●●,
○○○●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
2008.10.12 10.13 |
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