地球儀のスライス (ミステリ)
(森 博嗣 / 講談社文庫 2002)
森博嗣さんの第二短篇集。犀川&萌絵が登場する2篇を含む10篇が収められています。第一短篇集「まどろみ消去」と同様、本格謎解きから純粋ホラー、SF、ダーク・ファンタジー風味の作品まで、バラエティに富んでいます(どれがどのジャンルかを書くとネタバレになることもあるため、以下の記述では意図的にぼかしていることもあります)。
各作品を簡単にご紹介しましょう。
「小鳥の恩返し」:父親の急死により故郷へ帰った島岡清文医師は、かつて恋人関係にあった看護師・綾子と結婚し、父の病院を継ぐことになります。父は、夜中に運び込まれた錯乱した患者に殺され、犯人は行方不明のままでした。現場には、1羽の白い小鳥が残され、綾子と島岡はペットとして小鳥を可愛がります。数年後、島岡はみすぼらしい母子の訪問を受けますが、なんと母子は父を殺して逃亡した犯人の家族でした。その後、小鳥は逃げてしまいますが、さらに数年後、新たに採用した看護師・白坂美帆が清文に驚くべきことを言い出します。美帆は、あの小鳥の生まれ変わりで、恩返しをしに来たというのです。民話「鶴の恩返し」を現代的なミステリにうまくアレンジした作品。
「片方のピアス」:カオルは、恋人のトオルから双子の弟サトルを紹介されますが、顔や背格好はそっくりなのにふたりの印象が対照的なのに驚かされます。陽のトオルに対し陰のサトルと、表裏一体というイメージがぴったりでしたが、なぜかカオルはサトルに惹かれていきます。奇妙な三角関係は、やがて悲劇を生むことになりますが・・・。
「素敵な日記」:ある日記を手に入れた複数の人間のモノローグで構成される異色の作品。どうやら、この日記を手にした人は次々に死んでいくようなのですが・・・。日記に隠された秘密とは?
「僕に似た人」:タイトルは、ロアルド・ダールの「あなたに似た人」のもじりでしょうか。小学生のちょっと変わった男の子のモノローグで語られる、近所のちょっと変わった男の子の話。いくらでも深読みができそうな作品です。
「石塔の屋根飾り」:ある晩、西之園萌絵の部屋で開かれた晩餐会(名称は『黒窓の会』で、英語にするとアシモフの「黒後家蜘蛛の会」とアルファベット1文字しか違いません)で、犀川助教授が提出した謎は、古代インドの遺跡を写した1枚の写真でした。謎解きもともかく、アシモフファンなら歓喜するような趣向が凝らされており、途中で気付いたときには大喜びしてしまいました。この短篇集でいちばんのお気に入りです。
「マン島の蒸気鉄道」:学会のためイギリスに渡った犀川と同僚の喜多は、西之園家の別荘があるマン島を訪れます。萌絵や叔母の睦子、従兄弟の大御坊らも集合し、マン島観光としゃれ込むことになったわけですが、マン島名物の蒸気機関車にまつわる不思議な写真に、一同は首をひねります。謎の写真に秘められた真相は――。
「有限要素魔法」:記憶を失った男は、ライフルを抱えて、とある別荘に立てこもっています。部屋には、ピストルで頭を吹き飛ばされた見知らぬ男の死体が。一方、街角で謎めいた占い師と出会ったカップルの男性は、後日、恋人の目の前でピストルを取り出します。ふたつのストーリーが収斂する先に待つものは・・・。クロウリーが書きそうな黒魔術小説でもあります。
「河童」:都会化してすっかり変わってしまった故郷を訪れた淳哉は、フィアンセに10年前の出来事を語ります。神秘的な雰囲気をもった友人・其志朗と、下宿先の娘で女子高生の亜衣子。3人の微妙な関係が崩れるとき、悪夢が淳哉を訪れます・・・。読後感はデ・ラ・メアの恐怖小説。
「気さくなお人形、19歳」:語り手のレンムは、いかにも軽くて現代的な19歳。ただ、一人称が“僕”なのにスカートをはいていたり、合気道の達人だったり、最後まで性別がはっきりしません(笑)。突然、目の前に現れたロールスロイスのリムジンに乗っていた老紳士から、破格のバイト料で相手をしてくれないかと頼まれます。バイトの内容は、最初に考えたようないかがわしいものではなく、言われた服装をして(コスプレ?)、老人と食事をしたり話し相手になったり、高価な鉄道模型で遊んだりすること。どうやら、飛行機事故で死んだ孫娘の身代りをさせられているようでしたが・・・。
「僕は秋子に借りがある」:木元は、大学の食堂で目の前に座ったちょっと変わった女子大生・秋子に声をかけられます。うっとうしく思った木元ですが、秋子のペースに引き込まれ、午後のデートをすることに。木元のことを根掘り葉掘り尋ね、勝手に身の上話をする秋子。兄を火事で亡くしたという秋子に、自分も姉を交通事故で亡くしていた木元は共感を覚えます。しかし――。
オススメ度:☆☆☆
2007.1.16
鳥 (怪奇・幻想)
(ダフネ・デュ・モーリア / 創元推理文庫 2000)
ヒッチコック映画「鳥」や「レベッカ」の原作を書いた(ということでしか残念ながら知られていない)女流作家デュ・モーリアの短篇集です。様々な傾向の作品が含まれており、ジャンル分けをするのに非常に悩みました(あえてジャンルのレッテルを貼る必要もないわけですが、一応は当書庫の決まりですので(^^;)。創元さんはミステリ枠に入れておられますが、当書庫では「怪奇幻想」とさせていただきました。さらに言えば、ロアルド・ダールやジョン・コリアのような“奇妙な味”に分類されるのではないかという気がします。
初めて読んだわけですが、ミステリアスなロマンス小説から、伝奇小説、心理ホラー、皮肉な運命に翻弄される物語、大掛かりな叙述トリックが仕掛けられていて結末であっと言わされる作品まで、とにかくとても上手な作家だなあ、という印象を強く持ちました。
では、収録された8作品をご紹介していきます。
「恋人」:自動車修理工場で地道に働く主人公の青年は、ある日ふと訪れた映画館の案内嬢に心惹かれます。最終の上映が終わるのを待って、青年は彼女をデートに誘い、一緒にバスに乗って郊外へ出かけ、ミステリアスな彼女とどきどきするひと時を過ごします。翌日、給料をはたいて贈物を買った青年は、わくわくして夕方を待ちますが、彼女は――。途中から結末は予想できてしまうのですが、そうなってくれるなと祈るこちらの気持ちとは裏腹に訪れる切なく哀しいラストが深い余韻を残します。これまでに読んだ短篇小説の中でもベストテンに入る作品だと思います。
「鳥」:ヒッチコックの映画をテレビで見たのは小学生のときだったと思います。見終わってからしばらくの間、自宅で飼っていたカナリヤが怖くて仕方がありませんでした。この原作は映画以上に怖いかもしれません。イギリスの海辺の村で暮らす主人公は、夜中に小鳥の群れに襲われます。翌日、隣の農場や村のパブでそのことを話しますが、誰もとりあってくれません。海岸で異様な数のカモメを目撃した主人公は迫り来る危険を感じて、家族とともに準備を始めます。そして満潮とともに、無数の鳥が群がってきます。描かれるのは片田舎の村だけですが、1台のラジオが効果的に使われて、世界の運命が暗示される演出が絶妙です。
「写真家」:中流階級出身ながら貴族に嫁ぎ、今は侯爵夫人として何不自由ない生活をしている主人公。夫は仕事で忙しく、侯爵夫人はふたりの娘とその家庭教師とともに、海辺のリゾートで退屈な日々を過ごしていました。ふと町へひとりで散歩に出かけた侯爵夫人は、さえない写真館の店主と知り合い、彼が自分を崇拝の目で見つめるのを見て不思議な快感をおぼえます。家族写真を撮ってもらうという口実で写真家に接近した彼女は、やがて人気のない岬で写真家と逢引を繰り返すようになります。彼女はあくまでひと夏の情事のつもりでしたが、相手は違っていました。別れを切り出したとき、悲劇は起こります。
「モンテ・ヴェリタ」:ヨーロッパのある国に、モンテ・ヴェリタという山がありました。頂上近くには岩を掘り抜いて造られた修道院があり、サセルドテッサと呼ばれる神秘的な人々が暮らしていると言われています。時々、若い娘がサセルドテッサに“呼ばれて”行方不明になることがあるため、ふもとの村人は山上の住人を恐れ憎んでいます。山好きの若夫婦ヴィクターとアンナは、村人が止めるのも聞かずにモンテ・ヴェリタへ登ろうとしますが、昔から神秘的なところがあったアンナは、夜のうちに姿を消してしまいます。憔悴しきって戻って来たヴィクターは入院し、共通の友人である語り手にその話を語った後、退院して行方をくらませます。それから数十年、語り手はたまたま自分がモンテ・ヴェリタのすぐ近くに来たことを知り、登ることを決意しますが――。ミステリアスな結末が冒頭に提示され、フラッシュバックの手法でそもそもの始まりから事情が語られるという構成で、伝奇小説としての完成度が高まっています。
「林檎の木」:主人公は、3ヶ月前に妻を亡くしました。妻は口数が多く、いつもこせこせしていて、余計な言動で夫の気分を台無しにする名人だったので、彼はなかばほっとしています。屋敷の庭には3本の林檎の木がありましたが、ねじくれて枯れかけていた1本が、妻の死後に急に生き生きと枝を伸ばし始めたことに、主人公は気付きます。その林檎の木は焚き木や林檎の実をもたらしてくれましたが、焚き木は燃えず実は不味く、まるで悪意があるかのように主人公を苦しめます。ついに彼は木を処分してしまおうと決意しますが――。心理描写を積み重ねて徐々に不安を増幅させていくヘンリー・ジェイムズの手法を十分に生かした、無気味な一篇。
「番」:海辺の掘っ立て小屋にすみついた老夫婦の姿が、ある漁師のモノローグを通じて語られます。夫婦には4人の子供がいましたが、やがて悲劇が――。結末のショックは出色です。
「裂けた時間」:未亡人のミセス・エリスは、散歩から戻ると自宅が怪しげな見知らぬ男女に占拠されているのに気付きます。なじみのある家財道具は持ち出されたらしく、見知らぬ調度に囲まれて我が物顔で居座る人々に恐怖をおぼえますが、ミセス・エリスは気丈に警察を呼びます。ところが、警察署に連れて行かれた彼女は、警察が自分のことを狂人か記憶喪失の病人としか思っていないことを知り、愕然とします。電話帳にも彼女の名前や住所もなく、一人娘のスーザンがいるはずの寄宿学校にも、そういう名前の少女はいないと言われます。実は、読者はミセス・エリスの身に何が起きたか、サイエンス・ファンタジー的な真相に見当がつくのですが、1920年代のつつましい婦人であるミセス・エリスの常識と想像力では、思い当たるはずもありません。カレンダーの異状に気付いても「ひどい誤植ね」で済ませてしまうのですから。序盤にさりげなく記された伏線が生きて、ちゃんと結末ではループが閉じます。
「動機」:愛する夫の初めての子供を身ごもって、幸せの絶頂にいたはずの若妻メアリーが、突然ピストル自殺をします。思い当たる動機がまったくなかった夫は、私立探偵を雇って調査を依頼し、完璧主義者の探偵ブラックは、メアリーの過去を探り始めます。そして、運命に翻弄されたメアリーの思わぬ半生が明らかにされます。読んでいてマーガレット・ミラーの重厚な傑作「見知らぬ者の墓」を思い出しました。
オススメ度:☆☆☆☆
2007.1.23
死人花 (ホラー)
(長坂 秀圭 / 角川ホラー文庫 2003)
京都を舞台のホラー「彼岸花」の、アナザーストーリーです。というか、裏ストーリーと呼ぶ方が正しいでしょう。
※以降、作品の性格上、「彼岸花」のネタバレに触れざるを得ません。「彼岸花」を未読の方はご注意ください。ただ、両作品を読む順番はどちらが先でもかまわないと思います。
「死人花」のストーリーは、クライマックス直前まではそのまま「彼岸花」をなぞって展開します。ただし、視点が大きく異なっています。
のぞみ号の車内で知り合った3人の女子大生、有沙、融、菜つみは、目的地が同じ京都だということもあって、すぐに意気投合し、一緒に行動することになります。3人には他にも、変態趣味の持ち主だった恋人が死んだり行方不明になっているという共通点もありました。
「彼岸花」では、偶然、同じ車両に乗り合わせたことになっていた3人ですが、実はそう仕向けたのは有沙でした。有沙は1年前に、恋人だった紀氏亨が舞妓姿の女に日本刀で首を切断されて殺される現場を目撃していました。なぜか事件はなかったことにされ、有沙は亨の遺品から、殺人犯は融と菜つみのどちらかだと推理し、3人が一緒に行動することになるよう仕向けて、自分で犯人を突き止めて復讐しようと考えていたのです。ところが、そう考えていたのは有沙だけではありません。菜つみもまた、現在の恋人で、首なし殺人事件を捜査する警視庁刑事・柚木の頼みを受け、昔の恋人を殺した犯人を突き止めようとしていたのです。
京都に着いた3人は、菜つみの発案で京都怪奇スポットめぐりを始めますが、行く先々で彼岸花の模様の振袖をまとった女性(タクシーの運転手は、それは過去に非業の死を遂げた“お篠さま”という幽霊だと話します)と、白いマフラーの青年、そして菜つみに指示を出しつつ行動する柚木に出会います。
やがて、紀氏亨が殺された現場と思われる幻の古寺“鬼谷寺”にたどりついた3人は、今は民宿となっている“鬼谷寺”に泊まることになりますが、そこには柚木の手で様々なからくりが施されていました。ところが、柚木以外にも事態を動かす謎の存在がいることが明らかとなり、3人は友情が深まるとともに、怪異に出会って疑心暗鬼に陥っていきます。
紀氏亨が生前に探っていた、“鬼谷寺”に秘められた謎“187”とは何か――。それが明らかにされるとき、物語は「彼岸花」とは異なる戦慄の結末を迎えることになります。
「弟切草」はサウンドノベルゲームを小説化したものでしたが、逆に「彼岸花」は小説を元にサウンドノベルとしてゲーム化され、エンディングはおびただしい数(ネタバレになるかもしれませんので具体的には伏せます)に及ぶそうです。作者あとがきによれば、それらのエンディングのすべてを越えたラストとのこと。たしかに脱力させた後で恐怖が押し寄せてくる演出は職人芸です。
なお、あとがきで長坂さんは「これは『ミステリー小説』である」(つまり、ホラーじゃない)と断言していますが、その発言自体もホラ(語尾を延ばさない)ではないかと考えた方がいいような気がします。
オススメ度:☆☆☆☆
2007.2.4
「妖奇」傑作選 (ミステリ・アンソロジー)
(ミステリー文学資料館:編 / 光文社文庫 2003)
戦後間もない昭和20年代に刊行されていた探偵小説雑誌を紹介する『甦る推理雑誌』シリーズ第4巻。今回は、1947年から5年半にわたって続いた「妖奇」(後に「トリック」と改題)。
「妖奇」というタイトルから想像されるとおり、巻末に載っている収録作品リストをながめると、エログロをイメージした猟奇的なタイトルの作品が並んでいます。また、ひとつの特徴として、戦前の作品の再録が多く(当時は著作権なんかなかったんですよね)、夢野久作・小酒井不木・甲賀三郎など、刊行時には故人となっている作家の作品も目立ちます。それと同時に、無名作家の名前も並んでおり、ここにも戦後の出版界の混沌とした状態がうかがえます。
さて、この巻に収録されているのは、短篇が4つと300ページを越える長篇「生首殺人事件」。簡単に紹介していきましょう。
「化け猫奇談 片目君捕物帳」(香住 春作):時代小説的なタイトルですが、中身は現代もの。素人探偵の片目(別に隻眼というわけではなく、こういう名字なのだそうです)が、近所で起きた不思議な強盗事件を解決する話。一人息子の留守中に、道に迷ったという見知らぬ娘を泊めることになった老夫婦。その晩、強盗が押し入りましたが、娘の部屋へ踏み込んだとたん、悲鳴をあげて逃げ出してしまいます。その顛末は――? 捕物帳という副題のとおり、人情味あふれるオチとなっています。
「初雪」(高木 彬光):私生児として生まれた薄幸の少女・雪枝を育て上げた老家政婦・静のモノローグ。年頃の娘に成長した雪枝は、土地の名家の息子・白石と恋をしますが、身分の違いからその恋はかなわず、白石は親の決めた相手と結婚してしまいます。悲しみに沈む雪枝を見かねた静は――。
「煙突綺譚」(宇 桂三郎):不倫を清算するため、計画的に愛人を殺した主人公。完全犯罪を目論んだはずが、思わぬ目撃者がいたことに気付きます。新たな殺人計画を実行に移す主人公ですが・・・。
「電話の声」(北林 透馬):著名な作家・小栗の自宅から、警察に電話が入ります。若い女性の声が助けを求めた後、電話は切れ、駆けつけた警察官は、小栗の愛人・せい子の他殺死体を発見します。現場にいた若い娘・可恵(彼女も小栗の愛人でした)に嫌疑がかかりますが、事件は一筋縄ではいきません。小栗本人に、小栗の正妻・麻利子、せい子の夫・加山など、関係者はいずれも怪しく、しかし決め手がありません。被害者の解剖を担当した法医学者・藤田博士はある事実に気付き、犯人のアリバイトリックを見破ります。
「生首殺人事件」(尾久木 弾歩):名探偵・江良利久一は、妻の千鶴子の友人である菊岡家のクリスマスパーティーに招待されます。菊岡家の当主は銀行の頭取で、広島有数の資産家。しかし、家族の間には複雑な人間関係があり、招待客を含めて愛憎が渦巻いています。そんな中、ピアノの鍵盤の隙間から無気味な殺人予告のカードが発見され、パーティ参加者が麻雀に興じている間に、当主の長男が密室で首無し死体となって見つかります。江良利の叔父である県警の佐藤警部が指揮する捜査員が駆けつけ、捜査が始まりますが、それを嘲笑うように第二の予告状が見つかり、その通りに再び密室で首無し死体が――。
愛憎渦巻く金持ちの邸宅が舞台という点では「Yの悲劇」、首無し連続殺人という点では「エジプト十字架の謎」という、いずれもエラリー・クイーンの代表作がありますが、探偵役の名前といい、作者はクイーンをかなり意識しているようです。冒頭にいきなり「災厄の町」のネタバレがあるのにもびっくり(笑)。中盤で早くも「読者への挑戦」が挿入されるなど、クイーンばりの本格謎解きミステリと、江戸川乱歩的なおどろどろしい猟奇犯罪小説を融合させようという、作者の意気込みが微笑ましく、エロチック風味と大時代的な展開も、レトロな味をかもし出していて楽しいです。
オススメ度:☆☆☆
2007.2.7
超重族レティクロン (SF)
(ウィリアム・フォルツ&H・G・エーヴェルス / ハヤカワ文庫SF 2007)
『ペリー・ローダン・シリーズ』の第332巻。
前半部を新(とは言っても30年前)プロット作家のフォルツが書いており、物語は転換点を迎えます。
前巻で、ローダンが処刑したはずのアトランが生きていたことがラール人に露見し、攻撃を恐れた太陽系は30年前と同じ手段で宇宙から身を隠すこととなりました。しかし一方、この事実は銀河系にいる無数の独裁者にとっては、自らがローダンに代わってラール人に認められ、銀河系の第一ヘトラン、すなわち支配者になる千載一遇のチャンスでした。カルスアル同盟や中央銀河ユニオンに属するテラナーをはじめ、スプリンガー、アコン人、アルコン人、アンティ、ブルー族など、野望に満ちた面々が、我こそはとラール艦隊へと馳せ参じます。その中でも、超重族のレティクロンは際立っていました。
超重族はシリーズでは歴史の深い存在ですが、最近は――というより50巻を越えた頃から、取るに足りないチョイ役になってしまっていました。久しぶりに登場した存在感のある悪役(?)がレティクロンです。怪力にものを言わせるだけでなく、リバルド・コレッロに匹敵する超能力とイラチオ・ホンドロをはるかにしのぐ冷酷さと狡猾さの持ち主。彼が、第一ヘトランの座をめぐってライバルたちを死闘を繰り広げる展開は、1話にとどめてしまうには惜しいほどの迫力です。特に最後の戦いの相手となるノス・ガイモルは、この1話で退場してしまうのがもったいないほど。
また、『公会議』を構成する新たな種族、不定形の集合知性体ヒュプトンも銀河に飛来し、今後の展開にどうからんでくるのか楽しみです。
<収録作品と作者>:「超重族レティクロン」(ウィリアム・フォルツ)、「時間トンネル」(H・G・エーヴェルス)
オススメ度:☆☆☆
2007.2.12