徳川斉昭弘道館賞梅花日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩ribengushi

　
　　　　
　　　　弘道館賞梅花
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　德川齊昭

弘道館中千樹梅，
淸香馥郁十分開。
好文豈謂無威武，
雪裡占春天下魁。

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弘道館に　梅花を賞す

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
弘道館中　　千樹の梅，
淸香　馥郁（ふくいく）として　　十分に開く。
好文　豈（あに）謂（い）ふ　　威武　無からんと，
雪裡に　春を占む　　天下の魁（さきがけ）。

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◎　私感註釈

※德川齊昭：寛政十二年（１８００年）～萬延元年（１８６０年）水戸徳川家の第九代藩主。字は子信。号は景山。諡号は烈公。藩政改革に尽力朱子学的な尊皇攘夷の行動が幕府に嫌われ、謹慎を命ぜられた。

※弘道館：水戸藩の藩校。水戸徳川家第九代藩主の徳川齊昭によって創設される。藩政改革の一環として、有為な人材登用のための綜合的な教育機関。天保十二年（１８４１年）に開館。設立の趣旨は前出、徳川齊昭『弘道館記』に「弘道者何。人能弘道也。道者何。天地之大經。而生民不可須臾離者也。」とあり、藤田東湖の『弘道館記述義』にはその解説が「臣彪謹案：上古世質人朴，未有書契。所謂道者亦寞然靡聞焉。然則道固不原於上古乎。曰：奚其然當時特無其名耳。」というふうに書かれており、日本古来の倫理や精神を基本として、儒教道徳を採りいれたものになっている。後に水戸学と称されるようになった。

※弘道館中千樹梅：藩校の弘道館には千本もの梅の木があって。　・弘道館中：弘道館に。（-で　-の　-の中の）。　・千樹梅：千本の梅。梅には君子の徳があるとして、古来尊ばれた。陸游の『卜算子』「詠梅」「驛外斷橋邊，寂寞開無主。已是黄昏獨自愁，更著風和雨。　　無意苦爭春，一任羣芳妬。零落成泥碾作塵，只有香如故。」や林逋：九六七～一〇二八年。浙江省錢塘（現・杭州）の人。梅を妻とし、鶴を子とし、独身を通した。死後、和靖先生とも呼ばれた。秋瑾の詩『梅』にも出てくる。毛沢東も『卜算子』に『詠梅・讀陸游詠梅詞，反其意而用之』「風雨送春歸，飛雪迎春到。已是懸崖百丈冰，犹有花枝。　　也不爭春，只把春來報。待到山花爛漫時，在叢中笑。』がある。

※淸香馥郁十分開：清らかな香りがたかくたちこめて、（花が枝に）満ち足りて咲いている。　・淸香：清いにおい。良い香り。宋の蘇軾の『春夜』に「春宵一刻値千金，花有淸香月有陰。歌管樓臺聲細細，鞦韆院落夜沈沈。」がある。　・馥郁：〔ふくいく；fu4yu4●●〕かおりのたかいさま。芳しいさま。　・十分：満ち足りること。じゅうぶんに。完全に。李建勛の『惜花』に「白髮今如此，紅芳莫更催。預愁多日謝，翻怕十分開。」とあり、北宋・戴益の『探春』に「歸來試把梅梢看，春在枝頭已十分。」などと使われている。　・開：ひらく。（花が）咲く。

※好文豈謂無威武：好文木とも呼ばれる（「文」の象徴である）梅だが、どうして雄々しく勇ましい力が無い、と謂えようか。　・好文：梅の異名。好文木のこと。晋の武帝が学問に親しめば梅が開き、学問を廃すれば梅が開かなかったという故事に基づく。『東見記』「梅云好文木，故事在晉起居注：晉武好文則梅開，廃學則梅不開」。或いは武帝ではなく、哀帝のこととする（『謠古抄』）。　・豈：どうして……になろうか。あに……や。反語。　・謂：いう。思う。　・威武：雄々しく勇ましい力。

※雪裡占春天下魁：（勇敢にも、厳しい環境の）雪の中で、（やがて、待ち望んでいたすばらしい春の来ることを告げるために、）早春を独占して、世の中の（時代の変化の）さきがけとなっているではないか。　・雪裡：雪の中で。「雪中」としないのは、「雪裡」は●●で、「●●」とすべきところで使い、「雪中」は●○で、「○○」とすべきところで使うため。ここは「●●○○●●○」で、「●●」とすべきところ。　・占春：春を独占する。　・魁：一群の上に立って、これを率いていく人。さきがけ。まっさき。第一。ここでは、百花に先駆けて咲く梅のさまをいい、そのような意での「さきがけ」を「魁」字（語）に托していう。杜牧の『題茶山』に「山實東呉秀，茶稱瑞草魁。」とある。後世、明治の新島襄は『寒梅』で「庭上一寒梅，笑侵風雪開。不爭又不力，自占百花魁。」と使う。

◎　構成について

韻式は「AAA」。韻脚は「梅開魁」で、平水韻上平十灰。次の平仄はこの作品のもの。

○●●○○●○，（韻）
○○●●○●○。（韻）
●○●●○○●，
●●●○○●○。（韻）