半世功名一芥輕, 振衣只要赴歸耕。 靑山不負舊時約, 竹雨松風入夢淸。 ![]() |
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山居を 夢む
半世の 功名 一芥 輕く,
衣を 振り 只だ 歸耕に赴くを 要す。
靑山は 負かず 舊時の約,
竹雨 松風 夢に入りて 淸し。
◎ 私感註釈 *****************
※中華若木詩抄:室町末期の禅僧、如月寿印( ~天文二年:1533年)が、和漢の作品に註釈を施したもの。『中華若木詩抄』の意は、「『中華』と『若木』の詩集抄」になり、「中華」は唐土、「若木」は扶桑・日本を指す。「和漢詩抄」の意になる。「若木」は、李白の『上雲樂』「西海栽若木,東溟植扶桑。別來幾多時,枝葉萬里長。中國有七聖,半路頽鴻荒。」に因る。
※仲芳:仲方ともする。建仁寺長慶院を創設。( ~應永二十年:1413年)。絶海中津に従き、学を修める。
※夢山居:隠棲を夢にみる。陶淵明の『歸去來兮辭』「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫,知來者之可追。實迷途其未遠,覺今是而昨非。舟遙遙以輕,風飄飄而吹衣。問征夫以前路,恨晨光之熹微。」
や『歸園田居五首』「少無適俗韻,性本愛邱山。誤落塵網中,一去三十年。羈鳥戀舊林,池魚思故淵。開荒南野際,守拙歸園田。方宅十餘畝,草屋八九間。楡柳蔭後簷,桃李羅堂前。曖曖遠人村,依依墟里煙。狗吠深巷中,鷄鳴桑樹巓。戸庭無塵雜,虚室有餘閒。久在樊籠裡,復得返自然。」
の影響があろう。
※半世功名一芥輕:半生の功名も微細で価値があまりないもので。 ・半世:人の一生の半分。十五年。 ・功名:てがらをたて、名をあげること。 ・一芥:微細なもの。わずかなこと。 ・芥:〔かい;jie4●〕あくた。ごみ。微細なもの。価値のないもの。 ・輕:(自分の半生の功名は、塵のように)軽いものである。
※振衣只要赴歸耕:俗世間の塵を払って、ただ田園に帰って農作業に従事したい。 ・振衣:俗世間の塵を払う。俗塵を落とす。西晉の左思『詠史詩』八首之五に、「皓天舒白日,靈景耀神州。列宅紫宮裏,飛宇若雲浮。峨峨高門内,靄靄皆王侯。自非攀龍客,何爲來游。被褐出
闔,高歩追許由。振衣千仞岡,濯足萬里流。」
にある。 ・只要:…しさえすれば。 ・赴歸耕:前出陶淵明の『歸去來兮辭』「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。」
や、『歸園田居五首』「少無適俗韻,性本愛邱山。誤落塵網中,一去三十年。羈鳥戀舊林,池魚思故淵。開荒南野際,守拙歸園田。」
と同義になる。
※靑山不負舊時約:故郷の山は昔の約束を違(たが)えないで。 ・靑山:故郷の山。青い樹木の生え茂っている山。墓所とすべき山。 ・不負:嘘をつかない。背かない。 ・舊時:むかし。以前。 ・約:約束。
※竹雨松風入夢淸:(故郷の)竹林に降りかかる雨や松を吹き抜ける風が、夢に出てきて、さわやかだった。 ・竹雨松風:竹林に降りかかる雨に、松を吹き抜ける風。隠棲する場の環境をいう。 ・入夢:夢に出てくる。 ・淸:すがすがしい。清らかである。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「輕耕淸」で、平水韻下平八庚。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
◎○●●●○○。(韻)
○○●●●○●,
●●○○●●○。(韻)
平成16.8.12 8.13 |
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