楚臺應望更應攀, 半夜玉牀愁夢顏。 花綻一莖梅樹下, 凌波仙子繞腰間。 |
楚臺 應(まさ)に望むべく 更に應(まさ)に攀(よ)づべし,
半夜 玉牀(ぎょくしゃう) 愁夢(しうむ)の顏。
花は綻(ほころ)ぶ 一莖 梅樹の下,
凌波の仙子 腰間を 繞(めぐ)る。
◎ 私感註釈 *****************
※一休宗純:室町中期の臨済宗の僧。應永元年(1394年)〜文明十三年(1481年)。諱は宗純。号して狂雲子。後小松天皇の落胤という。五山の禅林が頽廃していくのに対して、諸国を遍歴する。後に、勅をうけて大徳寺の住持となる。詩歌、書画に秀でるとともに、禅僧でありながら酒や女性を愛して、形式や規律を否定した反骨的で奔放な叛逆の人生を送った。無念の思いがあったのだろう、そのための奇行は、やがて伝説化されて、「一休咄(いつきうばなし)」が作りだされ、現在に至るも「一休さん」として、広く親しまれている。
※美人陰有水仙花香:美女の陰部は、水仙の花の香りがする。北宋・黄庭堅の『王充道送水仙花五十枝欣然會心爲之作詠』「凌波仙子生塵襪,水上輕盈歩微月。背誰招此斷腸魂,種作寒花寄愁絶。含香體素欲傾城,山礬是弟梅是兄。坐對眞成被花惱,出門一笑大江。」の影響を受けている。 *『玉臺新詠』、香奩体、婉約詞の系統の詩である。 ・美人:美女。また、立派な人物。官職名。ここは、前者の意。 ・陰:ここでは陰部のことをいう。ほと。 ・水仙花:スイセンの花。皮日休の『詠白蓮』「膩於瓊粉白於脂,京兆夫人未畫眉。靜婉舞偸將動處,西施顰效半開時。通宵帶露妝難洗,盡日凌波歩不移。願作水仙無別意,年年圖與此花期。」とある。
※楚臺應望更應攀:(美女の多かった)楚王の台(=ここでは女性の体のことをいう。)は眺めるべきであり、さらに、攀(よじのぼ)るべきである。 ・楚臺:春秋・楚の地の建物の台。また楚の霸王・項羽が駐留した高台をも謂う。ここは、前者の意。ここでは、女体をいう。李白の『江上吟』「木蘭之竝ケ棠舟,玉簫金管坐兩頭。美酒尊中置千斛,載妓隨波任去留。仙人有待乘黄鶴,海客無心隨白鴎。屈平詞賦懸日月,楚王臺空山丘。興酣落筆搖五嶽,詩成笑傲凌滄洲。功名富貴若長在,漢水亦應西北流。」や、辛棄疾の『滿江紅』「漢水東流,キ洗盡、髭胡膏血。人盡説、君家飛將,舊時英烈。破敵金城雷過耳,談兵玉帳冰生頬。想王カ、結髮賦從戎,傳遺業。 腰間劍,聊彈鋏。尊中酒,堪爲別。況故人新擁,漢壇旌節。馬革裹屍當自誓,蛾眉伐性休重説。但從今、記取楚臺風,樓月。」とある。 ・應:当然…であろう。まさに…べし。 ・更:その上。一層。更に。 ・攀:〔はん;pan1○〕よじる。よじのぼる。すがる。
※半夜玉牀愁夢顏:夜半の立派な寝床に、もの悲しげな(女性の)顔(がある)。 ・半夜:夜半。 ・玉牀:立派な寝床。ベッドの美称。 ・愁夢:岑参に『胡笳歌送顏真卿使赴河隴』「君不聞胡笳聲最悲,紫髯濠瘡モ人吹。吹之一曲猶未了,愁殺樓蘭征戍兒。涼秋八月蕭關道,北風吹斷天山艸。崑崙山南月欲斜,胡人向月吹胡笳。胡笳怨兮將送君,秦山遙望隴山雲。邊城夜夜多愁夢,向月胡笳誰喜聞。」 とある。
※花綻一莖梅樹下:(水仙の)一輪の花が、梅の木の下に咲き綻ぶ。また、(可憐な水仙の)花が一本の(男性の)茎で綻んだ(。それは梅の木(=男性)の下にあるものだ)。 *「花綻一莖梅樹下」という表現では、「花」は梅を指さない。「梅樹下有一莖花」のことであり、梅の木の下に生えている水仙の花のことになる。梅の花を謂う場合は、「一莖」ではなく、「一枝」「一剪」となる。「花綻一莖梅樹下」の「花」は女性を指し、「梅樹」は一休自身を指すか。勿論、黄庭堅の『王充道送水仙花五十枝欣然會心爲之作詠』「山礬是弟梅是兄。」を踏まえている。 ・綻:〔たん;zhan4●〕ほころびる。花が咲きかける。晩唐・蜀・韋莊『浣渓沙』「C曉妝成寒食天,柳球斜嫋間花鈿,捲簾直出畫堂前。 指點牡丹初綻朶,日高猶自凭朱欄,含顰不語恨春殘。」とある。 ・一莖:一本。一茎(ひとくき)。この語、フロイトか『玉臺新詠』風に色々と考えられ、男性自身のものともとれる。中唐・白居易の『聞夜砧』に「誰家思婦秋擣帛,月苦風凄砧杵悲。八月九月正長夜,千聲萬聲無了時。應到天明頭盡白,一聲添得一莖絲。」とある。
※凌波仙子繞腰間:水仙の花の精のような水の女神が、腰の周りを繞(めぐ)っている。 ・凌波仙子:水仙の花のこと。また、洛水の女神。前出・黄庭堅『王充道送水仙花五十枝欣然會心爲之作詠』「凌波仙子生塵襪,水上輕盈歩微月。背誰招此斷腸魂,種作寒花寄愁絶。含香體素欲傾城,山礬是弟梅是兄。坐對眞成被花惱,出門一笑大江。」とあり、この詩(黄庭堅の詩)自身が曹植の『洛~賦』に則っているため。 ・凌波:波に乗る。波を押し退ける。衣裳に皺が寄って波打っているさまを謂う。李白の『贈段七娘』に「羅襪凌波生網塵,那能得計訪情親。千杯克何辭醉,一面紅妝惱殺人。」とある。 ・仙子:仙女。白居易の『長恨歌』に「樓閣玲瓏五雲起,其中綽約多仙子;中有一人字太真,雪膚花貌參差是。」とある。 ・繞:〔ぜう;rao4〕めぐる。 ・腰間:腰。前出・辛棄疾の『滿江紅』「漢水東流,キ洗盡、髭胡膏血。人盡説、君家飛將,舊時英烈。破敵金城雷過耳,談兵玉帳冰生頬。想王カ、結髮賦從戎,傳遺業。 腰間劍,聊彈鋏。尊中酒,堪爲別。況故人新擁,漢壇旌節。馬革裹屍當自誓,蛾眉伐性休重説。但從今、記取楚臺風,樓月。」とある。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「攀顏間」で、平水韻上平十五刪。次の平仄はこの作品のもの。
●○○◎●○○,(韻)
●●●○○●○。(韻)
○●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
平成19.8.15完 平成22.3.25修 |
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