黎錦光夜来香現代中華通俗詩詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩xiandaitongsushi

　
　           　　　
        夜來香　　
　　　　　　　　　　　　　         　黎錦光

那南風吹來淸涼，
那夜鶯啼聲悽愴。
月下的花兒都入夢，
只有那夜來香，
吐露著芬芳。
我愛這夜色茫茫，
也愛這夜鶯歌唱。
更愛那花一般的夢，
擁抱著夜來香，
吻著夜來香。
夜來香，我爲你歌唱，
夜來香，我爲你思量。
我爲你歌唱，我爲你思量。
夜來香，夜來香，夜來香。


左：夜来香　右：夜来木（『季節の花３００』より）

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夜來香

あの南風が　吹いて来て淸しくなり，
あの夜鶯の啼き聲は　もの寂しげである。
月下の花は　都（すべ）て　寝附いたが，
只だ　あの夜來香だけは　起きていて，
よい香りを　吐いている。
わたしはこの夜の風情が深まっていくのを愛し，
この夜鶯の歌をも愛する。
更にあの花と同様な夢を愛する，（それは）
夜來香に抱（いだ）かれ続け，
夜來香に口づけをされ続けている（ことだ）。
夜來香，わたしは　あなたのために　歌い，
夜來香，わたしは　あなたのために　思案する。
夜來香，わたしは　あなたのために　歌い，
夜來香，わたしは　あなたのために　思案する。
夜來香よ，夜來香よ，夜來香よ。

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◎　私感註釈

※『夜來香』（やらいかう；ye4lai2xiang1●○○「イエライシャン」）をこの「現代中国通俗詩」のページにに載せるのは適切かどうか疑問だが、他により適切なところがないのでここにした。日本の歌とも謂える。「夜来香」とは、夜になると香るガガイモ科の花の名のことだが、詩では妖艶な女性を暗示させる。戦前のもの。民国時代のものになる。

※那南風吹來淸涼：あの南風がさわやかに清々しく吹いてきて。　・那：あの。ここでは､語調を整える働きをもしている。　・吹來：吹いてくる。　・淸涼：すずしく清々（すがすが）しい。清らかで涼しい。さわやかである。

※那夜鶯啼聲悽愴：夜鴬（ようぐいす）の鳴き声がものさびしげである。　・夜鶯：ナイチンゲール。夜鴬（ようぐいす）。小夜（さよ）鳴き鳥。（雄は）夜に鳴く小鳥の一で、ツグミ類の褐色の鳥。　・啼聲：鳴き声。　・悽愴：寒々としたありさま。ものさびしいさま。また、ひどく悲しむ。非常に痛ましいさま。ここは、前者の意。

※月下的花兒都入夢：月下の花は、すべて寝附いた（が）。　・的：の。　・花兒：花。　・-兒：接尾辞で語尾に附いて、愛らしさ小ささを表す働きがあるが、対応する日本語は特にない。口語表現。　・都：〔つ；dou1○〕すべて。みんな。　・入夢：寝付く。

※只有那夜來香：ただあの夜来香だけが（起きて）おり。　・只有：ただ…だけがある。

※吐露著芬芳：かぐわしい香りを吐き出している。　・吐露：〔とろ；tu3lu4●●〕（実情や心情を）包み隠さないで話す。心を打ち明けること。　・-著：…ている。動詞の後に附いて、動作の進行、継続を表す。現在の中国では「着」字を使う。　・芬芳：〔ふんはう；fen1fang1○○〕かぐわしい。

※我愛這夜色茫茫：わたしは、この夜の景色がぼうっとして涯（はて）しないさまが好きだ。　・我：わたし。主格を表す代詞。なお後出「儞」が「あなた」であり、義対になる。　・愛：愛する。　・這：この。文語の「此」に近い働きをする。　・夜色：夜の景色。夜景。　・茫茫：〔ばうばう；mang2mang2◎◎〕ぼうっとしてとりとめのないさま。はてしなく広がるさま。広々としてはてしないさま。

※也愛這夜鶯歌唱：（涯しない夜景も好きであり）この夜鴬の歌声も、好きである。　・也：…もまた。　・歌唱：歌う。讃える。動詞。蛇足になるが、「歌を唱う」は“唱歌”という。

※更愛那花一般的夢：その上さらに好きなのは、あの花の夢と同様に。　・更：さらに。その上。　・一般：同様の。

※擁抱著夜來香：夜来香に包まれていて。　*「擁抱著夜來香」の言い方は、この句だけを見た場合「（わたしは）夜来香を抱き続ける」となるが、それでは余りにもリアルすぎる…。　・擁抱：抱擁する。抱く。

※吻著夜來香：夜来香に口づけされ続けている（のが好きだ）。　*この聯は（わたしは）夜来香を抱き続け、夜来香に口づけし続けている（のが好きだ）の意。　・吻：口づけをする。動詞。

※夜來香，我爲你歌唱：夜来香よ、わたしはあなたのために歌う。　・我：ここでは、作詩者のことであり、「夜鴬」のことでもある。　・爲你：あなたのために。　・你：あなた。

※夜來香，我爲你思量：夜来香よ、わたしはあなたのために思いに耽る。　・思量：思う。心にかける。思案する。

※我爲你歌唱，我爲你思量：わたしはあなたのために歌い、わたしはあなたのために思いに耽る。

※夜來香，夜來香，夜來香：夜来香よ、夜来香よ、夜来香よ。

◎　構成について

韻式は「ＡＡＡＡＡａＡＡＡａＡＡａＡＡＡＡ」。韻脚は「涼愴香芳茫（唱）香香香（唱）香*量（唱）*量香香香」（*：両韻）で、平水韻でいえば下平七陽が主。但し、平韻と仄韻とに亘っており、（偶然だろうが結果として）元曲の韻の一に似ている。現代語韻の－ａｎｇ韻。次の平仄はこの作品のもの。

●○○○○○○（韻），
●●○○○○○（韻）。
●●●○○○●●，
●●●●○○（韻），
●●●○○（韻）。
●●●●●○○（韻），
●●●●○○●（韻）。
●●●○●○●●，
○●●●○○（韻），
●●●○○（韻）。
●○○（韻），　●●●○●（韻），
●○○（韻），　●●●○◎（韻）。
●●●○●（韻），　●●●○◎（韻）。
●○○（韻），　●○○（韻），　●○○。（韻）。