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丁丑昏初錄壽筵舊製絶句

宮原節庵

董帷七十歳星更,
老懶自甘無所成。
猶有育村情未竭,
伊吾声裏送餘生。
    
        丁丑昏初録壽筵舊製絶句 潛叟宮原龍

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      丁丑(ていちう)(くれ) 初めて壽筵(じゅえん)の旧製の絶句を(ろく)

董帷(とう ゐ ) 七十  歳星(さいせい) (かは)り,
老懶(らうらん) (みづか)(あま)んず  ()(ところ) ()きに。
()ほ 村を(はぐく)む 有りて  情 未だ()きず,
伊吾(いご) 声裏(せい り )に  餘生を送らん。

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◎ 私感註釈

※宮原節庵:江戸後期〜明治前期の儒者。文化三年(1806年)〜明治十八年(1885年)。備後(広島県)尾道の人。頼山陽の門人。昌平黌に学び、京都に塾を開いた。名は龍。字は士淵。通称は謙蔵。号して潜叟、節庵・節菴、易安、栗村など。

※丁丑昏初録寿筵旧製絶句:明治十年(1877年)のひのとうしの歳の暮れになって、(一年余り前の)古稀を祝う宴会の旧作を初めて書きしるした。 *伊勢丘人先生よりの釈文・情報提供に因る。 ・丁丑:ひのとうし。ここでは明治十年(1877年)のことになる。干支による歳次の表記法。干支とは、十干と十二支の組み合わせのことで、十干とは、甲乙丙丁戊己庚辛壬癸のことをいい、十二支とは子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥のことをいう。 干支は、この十干と十二支の組み合わせによる序列表示をいい、十干のはじめの「甲」、十二支のはじめの「子」から順次、次のように組み合わせていく。 甲子、乙丑、丙寅、丁卯、戊辰、己巳、庚午、辛未、壬申、癸酉、(以上、10組で、ここで十干は再び第一位の「甲」に戻り、11組目が始まる)甲戌、乙亥、……(ここで、十二支は「子」に戻り、13組目は)丙子、14組目が
丁丑…となって、合計60組になる。これで、1から60までの順を表し、年月日の表示などにに使われる。なお、61番目は、1番目の甲子にもどる。還暦である。 ・昏:暮れ。 ・録:記録する。 ・寿筵:〔じゅえん;shou4yan2●○〕長生きを祝う宴会。作者は文化三年(1806年:丙寅)の生まれで、丁丑年は明治十年(1877年)で、前年の明治九年が古稀になろう。古稀の宴の時の作か。 ・旧製:旧作。

※董帷七十歳星更:教育に従事して七十年が移りすぎ。 ・董帷:〔とうゐ;dong3wei2●○〕講義・授業をすること、講義・授業をするところの意。
(仲舒)の(とばり)。前漢・武帝の時代の学者・仲舒が、(とばり)を下ろして講義・授業をしたことに因る。『漢書・董仲舒傳』(卷五十六・仲舒傳第二十六・二四九五頁・中華書局版637ページ)「仲舒少治春秋,孝景時爲博士。下帷講誦,弟子傳以久次相授業,或莫見其面,蓋三年不窺園,其精如此。進退容止,非禮不行,學士皆師尊之。」とある。 ・歳星:木星。十二年で天を一周するのを標準にして一年を決めたのによる。 ・更:あらたまる。変える。ここでは、歳月が移り変わる。

※老懶自甘無所成:年をとって、体を動かすのも懶(ものう)くなって、成就するところが無かったことにみずからあまんじている。 ・老懶:〔らうらん;lao3lan3●●〕年をとって体を動かすのが懶(ものう)い。 ・自甘:みずからあまんじる。 ・無所成:成就することが無かった。成功するところが無かった。 ・所-:…すること。…するところ。動詞の前に附き、動詞を名詞化する。

※猶有育村情未竭:ただ、今でもずっと続いているのは、村(民)を育成することで、その情熱は尽きてはいない。 ・猶有:今までずっと続いてある。中唐・錢起の『江行無題』に「咫尺愁風雨,匡廬不可登。祗疑雲霧窟,
猶有六朝僧。」とあり、南宋・陸游の『書事』に「關中父老望王師,想見壺漿滿路時。寂寞西溪衰草裏,斷碑猶有少陵詩。」とある。 ・竭:〔けつ;jie2●〕つきる。尽くす。あるかぎりを出す。

※伊吾声裏送余生:書を読む声の環境の中で(=教鞭を執っているうちで)、余生を送り(たい)。 ・伊吾:〔いご;yi1wu2○○〕読書の声。書を読む声。言語の不明瞭なさま。むにゃむにゃいうこと。=咿唔。 ・-裏:…(の内)に。…(の内)で。 ・余生:今まで過ごしてきてまだ余っている人生。年老いてからの人生。余年、余命。

※潜叟宮原龍:潜叟(:号)、 宮原(:姓)、 龍(:名)。自署は、広い対象の場合「号+姓+名」または「姓+名」。他者を表記する場合は「姓+号」。


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◎ 構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「更成生」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。

●○●●●○○,(韻)
●●●○○●○。(韻)
○●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
平成23.6.10



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