醉餘口號 | ||
伊達政宗 | ||
四十年前少壯時, 功名聊復自私期。 老來不識干戈事, 只把春風桃李巵。 |
伊達政宗の胸像(仙台城三の丸跡南側) | 伊達政宗の騎馬像(仙台城本丸跡南側) |
涅槃門 この中が伊達政宗の霊廟・瑞鳳殿 | 謁瑞鳳殿政宗公霊位 |
四十年前 少壯 の時,
功名 聊 か復 た自 ら私 に期 す。
老 い來 りて識 らず干戈 の事,
只 だ把 る春風 桃李 の巵 を。
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◎ 私感註釈:
※伊達政宗:安土桃山時代〜江戸初期の武将。1567年(永禄十年)〜1636年(寛永十三年)。仙台藩主。徳川方に属し、仙台六十二万石の基礎を築く。
※酔餘口号:酒に酔った後、心に思い浮かぶままに吟じた詩。 *仙台城三の丸跡にある仙台市博物館の伊達政宗の肖像画には、『醉餘口號』詩一「馬上少年過,世平白髮多。殘躯天所赦,不樂是如何。」が書き添えられている。但し、詩題は無い。有名な人物の有名な詩なので、色々な解釈も生まれてこようが、中国の古典詩(旧(体)詩)と同様の扱いをして、語義(字義)に則って解釈していく。 ・酔餘:酒に酔った後。酒に酔ったあげく。 ・口号:〔こうがう;kou3hao4●●〕文字には書かず、心に思い浮かぶままに吟じられた詩。蛇足になるが、現代語では、スローガンの意。
※四十年前少壮時:四十年前の若くて意気盛んな頃。 ・四十年前:桃山時代初期で、作者・伊達政宗が領土を切りとっていた時代。年表から見ると、天正十二年(1584年)に家督を相続後、出羽米沢を根拠として、数多くの出兵と戦闘で勢力を伸長させ、東北地方の中央部から東部(現在の山形県米沢地方から福島県の大半と宮城県)に亘る大領土を築いた頃(天正十二年(1584年)〜天正十八年(1590年)頃)のことになる。 ・少壯:〔せうさう;shao4zhuang4●●〕若くて意気盛んな。
※功名聊復自私期:手柄を、いささか自分では、心秘かにあてにしていた。 ・功名:手柄。手柄を立てて、名をあげること。 ・聊復:いささかまた。語句(字句)をそろえるための辞。東晉・陶潛の『飮酒二十首』其七に「秋菊有佳色,裛露掇其英。汎此忘憂物,遠我遺世情。一觴雖獨進,杯盡壺自傾。日入羣動息,歸鳥趨林鳴。嘯傲東軒下,聊復得此生。」とある。 ・聊:いささか。ほぼ。しばらく。 ・復:また。言葉の調子を整える働き(特に前出・東晉・陶淵明の時代では)をする。 ・自私:みずから秘かに。なお、蛇足になるが、現代語では、自分勝手、利己的である、の意。 ・私:ひそかに。こっそり。 ・期:待ちもうける。あてにする。願う。決める。決心する。
※老来不識干戈事:年をとってからこのかた、戦争というものを知らずにきて。 ・老來:年をとる。年をとってからこのかた。 ・来:…このかた。…てくる。動詞の(前)後に置いて、動作の主体物が説話者に近接する意味を添え表す助字。 ・不識:知らない。理解しない。 *「不識」と「不知」の違いは「見知っていない」「(考えても)分からない」という意味だけではなく、平仄上の問題がある。本来、●●とすべきところで使うのは「不識」であって、○○とすべきところで使うのは「不知」(●○)。この句「老来不識干戈事」は、「○○●●○○●」とすべきところで、適切に使われている。その場所(第三、四字め)では、「不知」は使えない。敢えて「不知」を使いたいのならば、「不知老去干戈事」と語順を変え、「老来」を「老去」と変更して、平仄の整備が必要となる。(意味合いも微妙に変わるが)。 ・干戈:〔かんか;gan1ge1○○〕戦い。武力の意。本来は「干」(たて)と「戈」(ほこ)で、武器の意。
※只把春風桃李巵:ただ、春風の中で、桃の花や李(すもも)の花を見ながら(手にする)杯だけを手にとっている。(=平穏裏に過ごしている)。 ・只把:ただ…だけを手にとる。「只把」の後には名詞(名詞句)がくるため、「春風桃李巵」で一つの名詞句(「春風 桃李の巵(し)」(春風の中での桃の花や李(すもも)の花を見ながら(手にする)杯)とみる必要がある。現代・毛沢東は『卜算子・詠梅』で「風雨送春歸,飛雪迎春到。已是懸崖百丈冰,犹有花枝俏。 俏也不爭春,只把春來報。待到山花爛漫時,她在叢中笑。」と梅の気節を詠うが、「把」の意味(品詞)が異なる。 ・只:ただ…(だけ)。 ・把:〔は;ba3●〕…を持つ。手に持つ。(手に)とる。にぎる。 ・桃李:モモとスモモ。 ・巵:〔し;zhi1○〕さかづき(さかずき)。古代の円底の酒杯。大杯。=卮(正字)。 *さかづき(さかずき)に該る漢語(漢字)は多いが、ここで「巵」を使ったのは、・巵〔し;zhi1○〕を韻脚とするため(平水韻上平四支(時期巵))。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「時期巵」で、平水韻上平四支(時期巵)。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
●○●●○○●,
●●○○○●○。(韻)
平成23.10.24 10.25 |
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