生麥役 | ||
山階宮晃親王 |
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薩州老將髮衝冠, 天子百官免危難。 英氣凛凛生麥役, 海邊十里月光寒。 |
薩州 の老將 髮 冠を衝 き,
天子 百官危難 を免 る。
英氣凛凛 生麥の役 ,
海邊 十里 月光 寒し。
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◎ 私感註釈
※山階宮晃親王:(やましなのみや あきらしんわう(=しんなう)幕末〜明治期の皇族。伏見宮邦家親王の第一王子。文化十三年(1816年)〜明治三十一年(1898年)初名は清保。曾て不祥事を起こし、伏見宮より除籍されるが、後に伏見宮に復し、山階宮の宮号を賜る。その後は、国事御用掛として幕末の政界で活躍する。その頃の詩。同時代(文久二年(1862年)の攘夷の詩に、高杉晉作の『壬戌八月廿七日亡命櫻邸』「官祿於吾塵土輕,笑抛官祿向東行。見他世上勤王士,半是貪功半利名。」がある。
※生麦役:生麦事件。生麦での戦い。 ・生麦:地名。なまむぎ。武蔵国橘樹郡生麦村(現・横浜市鶴見区生麦)。幕末の文久二年(1862年)八月に、武蔵国の生麦村(現・神奈川県横浜市鶴見区生麦)附近)で起こった、薩摩藩士がイギリス人を殺傷した事件。当時、薩摩藩主の父・島津久光の攘夷の行動と称された。壬戌八月廿七日亡命櫻邸 高杉晉作 官祿於吾塵土輕, 笑抛官祿向東行。 見他世上勤王士, 半是貪功半利名。 ・役:いくさ。つとめ。仕事。
※薩州老将髪衝冠:薩摩の国の国父(島津久光)の髪は(憤怒のために)逆立って、冠を衝き上げて。 ・薩州:薩摩の国。 ・老将:太守。ここでは、島津久光を指す。 ・髪衝冠:(憤怒のため)髪が逆立って、冠を衝き上げること。岳飛の『滿江紅』「怒髮衝冠,憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯,壯懷激烈。三十功名塵與土,八千里路雲和月。莫等閨A白了少年頭,空悲切。」とある。『史記』卷八十六・刺客列傳第二十六には、その場面を次のように記す:「太子及賓客知其事者,皆白衣冠以送之。至易水之上,既祖,取道,高漸離撃筑,荊軻和而歌,爲變徴之聲,士皆垂涙涕。又前而爲歌曰:『風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還!』復爲偵゚慷慨,士皆瞑目,髮盡上指冠。於是荊軻就車而去,終已不顧。」(羽声:音楽用語。五音の一。)とある。
※天子百官免危難:天子や多くの役人が危ういめに遭(あ)うことを免れた。 ・百官:多くの役人。=百司、百僚。 ・危難:〔きなん;wei1nan4○●〕人や国が危ういめに遭(あ)うこと。「難」は、〔なん;nan2○〕と〔なん;nan4●〕があり、前者の意は、形容詞「むつかしい」。後者は名詞「わざわい」の意で、危難・災難・苦難・受難等の「難」。ここでは韻脚として、平水韻上平十四寒として使いたい。
※英気凛凛生麦役:すぐれた気性で勇ましいさまの生麦での戦い(であることよ)。 ・英気:すぐれた才気。すぐれた気性。 ・凛凛:〔りんりん;lin3lin3●●〕おそれつつしむさま。寒いさま。勇ましいさま。畏敬の念を起こさせるさま。りりしいさま。
※海辺十里月光寒:40キロメートルに亘る海辺は、月の光が(刀の光のように)寒々しい。 ・海辺:うみべ。前出・生麦村一帯を謂う。 ・月光寒:月の光が寒々しい。ここでは、「寒光」(刀の光。また、寒々とした景色。冬の景色。月光。ここは、前者の意で、生麦事件での刀剣の輝き)を謂う。なお、生麦事件は、文久二年八月二十一日(1862年九月十四日)に起こり、秋。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「冠難寒」で、平水韻上平十四寒。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●○○,(韻)
○●●○●○●。(韻)
○●●●○●●,
●○●●●○○。(韻)
平成24.4.17 4.19 4.20 4.21 |
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