擬送人從軍 | ||
頼春水 |
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滄海爲池山是城, 艨艟報警曷須驚。 請看昔日鯨魚腹, 葬得胡人十萬兵。 |
滄海 は 池と爲 し 山は是 れ 城,
艨艟 警を報ずるも曷 ぞ驚くを須 ゐん。
請 ふ 看よ 昔日鯨魚 の腹 ,
葬 り得たり 胡人 十萬の兵を。
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◎ 私感註釈
※頼春水:江戸中期の儒者。1746年(延享三年)〜1816年(文化十三年)。山陽の父。杏坪の兄。名は惟寛、字は千秋、通称は弥太郎、号して春水。安芸の豪商の子。大坂に出て片山北海に学び、大坂江戸堀に塾を開いた。のち、広島藩儒員となり、士分にとりたてられた。
頼山陽の日本樂府『蒙古來』
※擬送人従軍:従軍して旅立つのを見送ることに詩題を借りて作った詩。 *後世、息子の頼山陽は、日本樂府『蒙古來』で「筑海颶氣連天K,蔽海而來者何賊。蒙古來 來自北,東西次第期呑食。嚇得趙家老寡婦,持此來擬男兒國。相模太カ膽如甕,防海將士人各力。蒙古來 吾不怖,吾怖關東令如山。直前斫賊不許顧,倒吾檣 登虜艦。擒虜將 吾軍喊。可恨東風一驅附大濤 不使羶血盡膏日本刀。」(写真:右)と詠い、梁川星巌は『松永子登宅觀阿束冑歌』で「筑紫之北海之,有石百丈可爲。我欲因之陵溟渤,周覧八覘九。杳杳天低卑於地,魚龍出沒浪崔嵬。落日倒銜高句驪,滞冤流鬼渺悠哉。我時魂悸不能進,屏氣且息覇家臺。覇家臺下三千戸,鐘鼓饌玉稱樂土。中有松生磊人,招我滿堂羅尊俎。酒酣笑出阿束冑,妖鐵不死兀顱古。塞垣光景忽在目,搖搖風鶏秩B嵯哉生乎何從得,如斯之器世未覩。憶昔大寇薄此津,旌旗慘憺金革震。是時天靈佐我威,叱咤雷車走輪。須臾萬艦飛塵滅,能生還者僅三人。此冑無乃其所遺,古血模糊痕未泯。方今承平日無事,擧國銷兵鋳農器。雖然邊謀豈可疎,瀕海ゥ鎭嚴武備。異時蠢兒重伺我,請君手掲此冑示。作歌大笑倚欄角,風聲駕潮如鐃吹。」とする。 ・擬:なぞらえる。似せて(詩を作る)。
※滄海為池山是城:(神州日本の護りは、天然の)青海原を(城郭の)周濠となして、(大自然の)山々を城塞としており。 ・滄海:あおうなばら。また、東海。渤海。ここは、前者の意。 ・為:…となす。…となる。…である。 ・池:ここでは城郭の四周を囲む濠のことを謂う。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・城:ここでは、城郭、城塞。
※艨艟報警曷須驚:(敵の)軍艦(の来襲)という非常事態(を知らせること)があっても、驚き(うろたえる)必要はない。 ・艨艟:〔もうしょう;meng2chong1○○〕いくさぶね。軍艦。衝突して、相手の船を沈没させるいくさ船。ここでは、外敵の侵寇してきた軍艦を謂う。この語、「もうしょう」と読み、中国語では〔meng2chong1〕と言う。これをもしも、「もうどう」と読む(「もうどう」と読むのが主。)ならば(「艟」は多音字)がそれに該るものの、中国語では「meng2tong2」ということになるが、中国語ではそのような言い方はしない。中国語では、前者の〔meng2chong1〕「艨艟」=「艨衝」と言う。後世、幕末の吉田松陰は『磯原客舍』で「海樓把酒對長風,顏紅耳熱醉眠濃。忽見雲濤萬里外,巨鼇蔽海來艨艟。我提吾軍來陣此,貔貅百萬髮上衝。夢斷酒解燈亦滅,濤聲撼枕夜鼕鼕。」とする。 ・報警:非常を知らせる。警戒を要することを知らせる。 ・曷須:=何須:…する必要はない。何ぞ須(もち)ゐん。≒不須。 なんぞすべからく。=何須。『全唐詩』(康煕揚州詩局本・木版の影印)盛唐・王之渙の『涼州詞』に「黄河遠上白雲間,一片孤城萬仞山。羌笛何須怨楊柳,春光不度玉門關」とあり、盛唐・杜甫の『貧交行』に「翻手作雲覆手雨,紛紛輕薄何須數。君不見管鮑貧時交,此道今人棄如土。」とある。 ・曷:なんぞ。反語・疑問の辞。 ・須:もちいる。(…の)必要がある。
『日本外史』卷之四 北條氏
※請看昔日鯨魚腹:(我が神国には、天佑神助があることを思い起こして)どうか、昔(元の来寇の折)の鯨魚の腹中を見てほしいものだ。 ・請看:どうか見て下さい。・請-:どうぞ(…て下さい)。なにとぞ(…て下さい)。相手に頼み勧める。また、お願いする。頼む。請(こ)う。ここは、前者の意。 ・看:(積極的に)みる。 ・昔日:むかし。ここでは1274年(文永十一年)と1281年(弘安四年)の元寇(写真右:『日本外史』卷之四 北條氏 弘安四年)のことを指す。 ・鯨魚:くじら。 ・腹:腹中。魚腹。
※葬得胡人十万兵:西方異民族の十万の兵士が(神風のために、鯨魚の腹中に)葬られている(ことを見てほしいものだ)。 ・-得:動詞の後に置き、その行為の結果や程度を表す語を導く。 ・胡人:西方や北方の異民族。 ・十万兵:元寇の軍勢の数。『日本外史』卷之四 北條氏に「合漢胡韓兵凡十餘萬人以范文虎將之」、「虜兵十萬脱歸者纔三人」(写真:右上)とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「城驚兵」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○○●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●◎●●○○●,
◎●○○●●○。(韻)
平成24.9.7 9.8 |
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