春日偶成 | ||
夏目漱石 |
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竹密能通水, 花高不隱春。 風光誰是主, 好日属詩人。 |
竹 密にして能 く水を通 じ,
花 高くして 春を隱 さず。
風光誰 か是 れ主 なる,
好日 詩人に属す。
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◎ 私感註釈
※夏目漱石:明治期の小説家。慶応三年(1867年)〜大正五年(1916年)東京出身。名は金之助。東大英文科卒。松山中学教諭、五高教授を経て、イギリスに留学、帰国後一高教授。『明暗』では、自我を越えた所謂「則天去私」の世界を志向した。
※春日偶成:春の日に、偶然にできた詩。 *この詩は其の二。 ・偶成:偶然にできた詩。ふとした思いつきでできた詩。絶句に多く見られる詩題。
※竹密能通水:竹がこみあって繁っている(ものの)、川の流れは通ってくることができ。 *北宋・王安石の『鍾山即事』に「澗水無聲繞竹流,竹西花草弄春柔。茅檐相對坐終日,一鳥不鳴山更幽。」とある。 ・密:こみあっている。びっしりつまっている。すきまが小さい。密である。しげし。 ・能:よく。できる。 ・通:とおす。*前出・王安石『鍾山即事』に「竹西花草弄春柔。」とある。 ・水:川の流れ。
※花高不隠春:花は高らかに咲き誇って、春になったことを隠そうとはしない。 ・不隠春:春になったことを隠そうとはしない意。
※風光誰是主:美しい自然のながめは、誰が(その)主(あるじ)なのかといえば。 ・風光:美しい自然のながめ。景色。また、草木が風に揺られて光ること。中唐・賈島の『三月晦日贈劉評事』に「三月正當三十日,風光別我苦吟身。共君今夜不須睡,未到曉鐘猶是春。」とあり、五代・梁・羅隱の『蜂』に「不論平地與山尖,無限風光盡被占。採得百花成蜜後,爲誰辛苦爲誰甜。」とある。 ・誰是:だれが…なのか。 ・主:あるじ。南宋・陸游の『卜算子・詠梅』に「驛外斷橋邊,寂寞開無主。已是黄昏獨自愁,更著風和雨。 無意苦爭春,一任羣芳妬。零落成泥碾作塵,只有香如故。」とある。
※好日属詩人:すばらしい日は、詩人のものである。 ・好日:よい日。吉日。 ・属:…のものである。帰属する。附く。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「春人」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○○●●,
●●●○○。(韻)
平成24.10.23 10.24完 平成28. 2. 5補 |
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