飛驒高山游中 | ||
貫名菘翁(海屋) |
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水田渺渺稻花香, 匝匼濃嵐接莽蒼。 蓑袂笠檐時出沒, 一欄煙雨似瀟湘。 |
コースは基本的に飛騨川を遡った。 | その支流なのか。 |
ワイドビュー飛騨。三輛編成。 | 中橋にて。左奥の柳が老いた樹。 |
その柳。 | 昔の街並み(の復元?) |
地酒を売っていた。とても美味しい。 | 高山城は山に戻っていた。本丸跡を目指して。 |
水田渺渺 として稻花 香 し,
匝匼 たる 濃嵐は 莽蒼に接す。
蓑袂 笠檐 時に出沒すれば,
一欄の煙雨瀟湘 に似たり。
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◎ 私感註釈
※貫名菘翁:〔ぬきな すうをう〕(=貫名海屋)江戸時代後期の書家、絵師。安永七年(1778年)〜文久三年(1863年)。阿波の人。本姓は吉井。名は苞(しげる)。通称は泰次郎。号して、菘翁、海屋など。阿波の中井竹山に経学を学び、西宣行に書法を学ぶ。大坂の懐徳書院の塾頭となり、後、京都に住して須静塾を開いた。空海の影響を受け、また、内外先人の書を研究して唐様書の第一人者となり、貫名流を大成。
※飛騨高山游中:飛騨の国の高山に旅行中(の作)。 *窓外に広がる細雨の情景を絵画的に表現した詩。 ・飛騨高山:飛騨の国の高山。江戸時代の天領(幕府直轄地)で、現在も代官所跡や城下町の街並みが遺され、「飛騨の小京都」と呼ばれる。現・岐阜県高山市。この詩は、六十歳代に川上淇堂を高山に訪ねた時のものか。 ・游:旅行する。他国に行く。
※水田渺渺稲花香:水田は、広くはてしなく、稲の花は香り。 ・渺渺:〔べうべう;miao3miao3●●〕広くはてしないさま。水のはてしなくけむるさま。遠くかすかなさま。遥かで遠い。盛唐・劉長卿の『平蕃曲』に「渺渺戍煙孤,茫茫塞草枯。隴頭那用閉,萬里不防胡。」とあり、宋・蘇軾の『水調歌頭』快哉亭作に「落日繍簾卷,亭下水連空。知君爲我、新作窗戸濕紅。長記平山堂上,欹枕江南煙雨,渺渺沒孤鴻。認得醉翁語,山色有無中。」とあり、北宋・晏幾道の『鷓鴣天』に「醉拍春衫惜舊香,天將離恨惱疏狂。年年陌上生秋草,日日樓中到夕陽。 雲渺渺,水茫茫。征人歸路許多長。相思本是無憑語,莫向花箋費涙行。」とある。
※匝匼濃嵐接莽蒼:重なり繞(めぐ)る濃い山の気は、茫漠とした原野に接している。 *山にたちこめたガスが平野部にまで広がり、雨の降り出す前の光景を描写している。 ・匝匼:〔さふあん(そうあん);za1an3●●〕重なり繞(めぐ)るさま。=匼匝(あんさふ)。 ・濃嵐:濃い山の気。こまやかな山の気。 ・莽蒼:〔まうさう、ばうさう;mang3cang1●●〕草木の青々としたさま。近郊の野原の景色で遠くはぼうっとかすんで見えるところ。また近郊。墓場。「蒼」は基本的には〔さう;cang1○〕で、(韻脚でもあるが)、「莽蒼」の語で使われる場合は〔さう;cang1●〕ではないのか。
※蓑袂笠檐時出沒:蓑(みの)笠(かさ)姿の者が、時折姿を現している(情景は)。 ・蓑袂:みのの端を謂うか。 ・蓑:〔さ;suo1○〕みの。茅(かや)・菅(すげ)などで編んだ、雨・雪などを防ぐ外衣。 ・袂:〔べいmei4●〕たもと。そで。 ・笠檐:〔りふえん;li4yan2●○〕かさのひさし。かさのふち。
※一欄煙雨似瀟湘:一窓の窓外の霧雨の景は、中国南部(湖南省の絶景である)瀟湘(しょうしょう)一帯と似ている。 ・欄:てすり。欄干。おばしま。「一欄」は「窓越しの景」を謂うか。 ・煙雨:煙るように降る雨。きりさめ。 ・瀟湘:〔せうしゃう;Xiao1Xiang2○○〕瀟水(瀟江)と湘水(湘江)のこと。湖南省(旧国名・湘)を流れ、洞庭湖に注ぐ大河。現在、湘水は“湘江”という。瀟水と湘水は零陵で合流後、瀟湘ともいう。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)63−64ページ「南宋 荊湖南路 荊湖北路 京西南路」にある。唐・張若虚の『春江花月夜』に「春江潮水連海平,海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里,何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸,月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛,汀上白沙看不見。江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月,江月何年初照人。人生代代無窮已,江月年年祗相似。不知江月待何人,但見長江送流水。白雲一片去悠悠,青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子,何處相思明月樓。可憐樓上月裴回,應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去,擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞,願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度,魚龍潛躍水成文。昨夜鞨K夢落花,可憐春半不還家。江水流春去欲盡,江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」とあり、中唐・錢起の『歸雁』に「瀟湘何事等濶,水碧沙明兩岸苔。二十五弦彈夜月,不勝C怨卻飛來。」とあり、中唐・張謂の『同王徴君湘中有懷』に「八月洞庭秋,瀟湘水北流。還家萬里夢,爲客五更愁。不用開書帙,偏宜上酒樓。故人京洛滿,何日復同遊。」とあり、中唐・劉禹錫の『瀟湘~』に「斑竹枝,斑竹枝,涙痕點點寄相思。楚客欲聽瑤瑟怨,瀟湘深夜月明時。」とあり、晩唐・温庭筠は『瑤瑟怨』で「冰簟銀床夢不成,碧天如水夜雲輕。雁聲遠過瀟湘去,十二樓中月自明。」と使う。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「香蒼湘」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
平成24.11.6 11.7 |
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