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蕎麥歌 | ||
柏木如亭 |
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江都人世極樂國, 口腹何求不可得。 時新魚菜尚奢靡, 燕席爭供如奉勅。 昇平士女不知愁, 食前方丈擬公侯。 信山蕎麥無物敵, 相魚駿茄遜百籌。 |
江都 は人世 の極樂 の國,
口腹 何 を求めてか得 可 からざらん。
時新の魚菜奢靡 を尚 び,
燕席 爭ひ供して 勅を奉ずるが如し。
昇平の士女愁 ひを知らず,
食前 方丈 公侯 に擬 す。
信山 の蕎麥 は 物の敵する無く,
相魚 駿茄 遜 ること百籌 。
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◎ 私感註釈
※柏木如亭:江戸中期の漢詩人。宝暦十三年(1763年)~文政二年(1819年)名は昶。字は永日。通称は門作。号して如亭。小普請方大工棟梁の家に生まれた。市河寛斎の門下。吉原で家財を蕩尽し、江戸を離れて遊歴詩人としての生活を送った。美食家。旅先の美味の記した随筆に『詩本草』がある。
※蕎麦歌:そばの歌。
※江都人世極楽国:江戸の世の中は、極楽の国であり。 ・江都:江戸の異称。また、江都県(現・江蘇省江都にある県。長江の北岸に位置する。ここは、前者の意。 ・人世:〔じんせい;ren2shi4○●〕世の中。
※口腹何求不可得:口と腹(=食慾)が求める物は、得られない物がない。(何でも手に入る)。 ・口腹:口と腹。飲食の慾望を満たす部分。『孟子・告子上』に「口腹豈適爲尺寸之膚哉?」とある。 ・何…不…:どんな…が…しなかろうか。…て…ないものはない。すべてが…られる。いづれ(の)…か…を(せ)ざらん。反語の形式。
※時新魚菜尚奢靡:はしり物のさかなと野菜は、ぜいたくではでなことをたっとび。 ・時新:その時期で一番新しい物。はしり。はしり物。魚菜などのそれぞれの季節より早めに出るもの。中唐・元稹の『離思』に「紅羅著壓逐時新,吉了花紗嫩麴塵。第一莫嫌材地弱,些些紕縵最宜人。」とあり、両宋・李清照の『詞論』に「樂府聲詩併著,最盛於唐。開元天寶間,有李八郞者,能歌擅天下。時新及第進士,開宴曲江,榜中一名士,先召李,使易服隱姓名,衣冠故敞,精神慘沮,與同之宴所,曰:“表弟願與坐末。”衆皆不願。」とある。 ・魚菜:さかなと野菜。惣菜(そうざい)。 ・尚:たっとぶ。 ・奢靡:〔しゃび;she1mi2○○〕ぜいたくではでなこと。ぜいたく三昧。=奢華。
※燕席争供如奉勅:宴席で、争(あらそ)って供される(さま)は、天子の命令を受けるかのようだ。 ・燕席:宴席。「燕」は「さかもり」の意。=宴、醼、讌。 ・奉勅:天子の命令を受ける。
※昇平士女不知愁:平和な時代の男と女は、愁(うれ)いを知らないで。 ・昇平:世の中が穏やかに治まっていること。 ・士女:男と女。未婚の男女。
※食前方丈擬公侯:ご馳走が自分の前に一丈四方も並べられる贅沢な食事は、大名に擬(なぞら)えられる。 ・食前方丈:ご馳走が自分の前に一丈四方も並べられること。贅沢な食事。『孟子・盡心下』に「食前方丈,侍妾數百人,我得志弗爲也。」とある。 ・擬:なぞらえる。 ・公侯:大名。諸侯。また、公爵と侯爵。ここは、前者の意。
※信山蕎麦無物敵:信州の山の蕎麦(そば)には、かなうものが無く。 ・信山:信州の山、信濃(しなの)の山、の意。 ・無物:何もない。内容がない。「無物敵」で「かなうものが無い」意。
※相魚駿茄遜百籌:相模灘(さがみなだ)の魚や駿河(するが)の茄子(なすび)は、100ポイント(ほど)、劣る。 ・相魚:相模(さがみ)の魚、の意。「はしり物」である「相模灘の鰹」を指す。 ・駿茄:駿河(するが)の茄子、の意。 ・遜:ゆずる。劣る。 ・百籌:100ポイント。「籌」〔ちう;chou2○〕かずとり。数を数える竹の棒。
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◎ 構成について
韻式は、「aaaBBB」。韻脚は「國得勅 愁侯籌」で、平水韻入声十三職・下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●●●,(a韻)
●●○○●●●。(a韻)
○○○●●○○,
●●●◎○●●。(a韻)
○○●●●○○,(B韻)
●○○●●○○。(B韻)
●○○●○●●,
◎○●○●●○。(B韻)
平成27.11.22 11.23 11.24 11.26 12. 2 12. 3 |
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