鳥山芝軒酔妓　日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Ribengushi


醉妓

	鳥山芝軒
酒豪自喚女靑蓮，日日陪歡公子筵。春醉有時禁不得，琵琶當枕臥花前。

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醉妓(すゐぎ )

酒豪　自(みづか)ら喚(よ)ぶ　　女(ぢょ)青蓮(せいれん)と，
日日(ひび)　歡に陪(ばい)す　　公子の筵(えん)。
春醉(しゅんすゐ)　時(とき)有りて　　禁(た)ふること得(ゑ)ず，
琵琶(びは)　枕に當(あ)てて　　花前(くゎぜん)に臥(ふ)す。

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◎　私感註釈

※鳥山芝軒：江戸時代前～中期の漢詩人。明暦元年(１６５５年)～正德五年(１７１５年)。山城(現・京都府)伏見の人。名は輔寛。字は碩夫。通称は佐太夫。号して芝軒、鳴春など。終生仕えることがなかった。漢詩を儒学から独立させた。

※酔妓：酔っぱらった妓女。

※酒豪自喚女青蓮：酒豪で、自（みずか）ら「女・李白」（＝女の酒中の仙（＝女の呑兵衛））と称（しょう）して。　・喚：呼（よ）ぶ。叫（さけ）ぶ。後出・杜甫の『飮中八仙歌』に「銜杯樂聖稱避賢。…天子呼來不上船，自稱臣是酒中仙。」と、「称」とするのが通常。ここは「○○●●●○○」とすべきところで、第四字めは、仄（●）とすべきところ。「称」（よぶ、となえる意）は平（○）であり、「喚」は仄（●）。それ故、ここでは「喚」を使った。　・青蓮：盛唐の詩人・李白の号。自ら青蓮居士と号した。字は太白。世に詩仙と称される。酒好きで、酒中仙と号す。と７０１年（嗣聖十八年）～７６２年（寶應元年）。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる安史の乱では苦労をし、後、永王が謀亂を起こしたのに際し、幕僚となっていたため、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。盛唐・杜甫の『飮中八仙歌』に「知章騎馬似乘船，眼花落井水底眠。汝陽三斗始朝天，道逢麴車口流涎，恨不移封向酒泉。左相日興費萬錢，飮如長鯨吸百川，銜杯樂聖稱避賢。宗之瀟灑美少年，舉觴白眼望青天，皎如玉樹臨風前。蘇晉長齋繡佛前，醉中往往愛逃禪。李白一斗詩百篇，長安市上酒家眠。天子呼來不上船，自稱臣是酒中仙。張旭三杯草聖傳，脱帽露頂王公前，揮毫落紙如雲煙。焦遂五斗方卓然，高談雄辨驚四筵。」とあり、同・盛唐・杜甫の『春日憶李白』に「白也詩無敵，飄然思不群。清新庾開府，俊逸鮑參軍。渭北春天樹，江東日暮雲。何時一尊酒，重與細論文。」とある。

※日日陪歓公子筵：日々、身分の尊い家の子息の歓（よろこ）びの宴のお供をしている。　・陪：お供をする。付き添う。　・歓：よろこび。　・公子：身分の尊い家の子息。貴族の子弟。　・筵：うたげ。＝宴。むしろ。ここで「宴」を使わないで「筵」を使うのは、「宴」は去声であって、「筵」は平声一先のため。ここは下平一先（蓮前とともに筵）を韻脚として、「筵」とした。

※春酔有時禁不得：春の（花見の）酒宴で、時には耐えられなくなって。　・有時：時々。時には。ある時（には）。　・禁不得：耐えられない。【〔動詞〕＋「不得」：…することができない、の意】。なお、現代語では「禁不住」「禁不起」と表現する。盛唐・杜甫の『哀江頭』に「少陵野老呑聲哭，春日潛行曲江曲。江頭宮殿鎖千門，細柳新蒲爲誰綠。憶昔霓旌下南苑，苑中萬物生顏色。昭陽殿裏第一人，同輦隨君侍君側。輦前才人帶弓箭，白馬嚼齧黄金勒。翻身向天仰射雲，一笑正墜雙飛翼。明眸皓齒今何在，血汚遊魂歸不得。清渭東流劍閣深，去住彼此無消息。人生有情涙霑臆，江草江花豈終極。黄昏胡騎塵滿城，欲往城南望城北。」とあり、北宋・王安石の『夜直』に「金爐香盡漏聲殘，翦翦輕風陣陣寒。春色惱人眠不得，月移花影上欄干。」とある。明治・夏目漱石の『山路觀楓』に「石苔沐雨滑難攀，渡水穿林往又還。處處鹿聲尋不得，白雲紅葉滿千山。」とある。　・禁：耐える。

※琵琶当枕臥花前：琵琶（びわ）を枕として、花の咲いているところで臥せっている。　・当枕：枕とする意。　・花前：花の咲いているところ。酒を飲むところでもある。盛唐・崔敏童の『宴城東莊』に「一年始有一年春，百歳曾無百歳人。能向花前幾回醉，十千沽酒莫辭貧。」とあり、北宋・歐陽脩の『別滁』に「花光濃爛柳輕明，酌酒花前送我行。我亦且如常日醉，莫敎弦管作離聲。」とあり、明・唐寅の『花下酌酒歌』に「九十春光一擲梭，花前酌酒唱高歌。枝上花開能幾日，世上人生能幾何。好花難種不長開，少年易過不重來。人生不向花前醉，花笑人生也是呆。」とある。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡ」。韻脚は「蓮筵前」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。

●○●●●○○，（韻）
●●○○○●○。（韻）
○●●○○●●，
○○◎◎●○○。（韻）