憶陸軍大將乃木希典 | ||
大正天皇 |
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滿腹誠忠世所知, 武勳赫赫遠征時。 夫妻一旦殉明主, 四海流傳絶命詞。 |
京都市伏見区の乃木神社 明治天皇の御陵の側にある。 |
京都市伏見区の乃木神社 |
滿腹 の誠忠 世の知る所,
武勳 赫赫 たり遠征 の時。
夫妻一旦 明主 に殉 じ,
四海 流傳 す絶命 の詞。
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◎ 私感註釈
※大正天皇:第百二十三代天皇。明治十二年(1879年)〜大正十五年(1926年)。幼称は明宮(はるのみや)。諱は嘉仁(よしひと)。第百二十二代天皇・明治天皇の子で、第百二十六代・今上天皇の曾祖父。
※憶陸軍大将乃木希典:陸軍大将・乃木希典(のぎまれすけ)を思う。 *大正天皇には、外にも『哭乃木大將』「滿腹誠忠萬國知,武勳赫赫戰征時。勵精督學尤嚴肅,夫婦自裁情耐悲。」等がある。 ・憶:忘れない。思いやる。思う。 ・乃木希典(のぎまれすけ):軍人。長州藩出身。藩校明倫館に学び、戊辰戦争に参加、西南の役に従軍。明治十九年、渡独して軍制・戦術を研究し、帰国後陸軍の改革に着手。一時退役して半農生活を行うが、日清戦争に従軍。台湾総督を経て、日露戦争に第三軍司令官として、旅順を攻略、苦闘の末に陥落させ、戦勝に導いた。後、参議官、学習院院長を歴任。明治天皇大葬の日、静子夫人とともに殉死。嘉永二年(1849年)〜大正元年(1912年)。明治・竹添井井の『雙殉行』に「戰雲壓城城欲壞,腹背受敵我軍敗。聯隊旗兮臣所掌,爲賊所奪臣罪大。旅順巨砲千雷轟,骨碎肉飛血雨腥。二萬子弟爲吾死,吾何面目見父兄。山馳道連朱闕,萬國衣冠儼成列。靈輿肅肅牛歩遲,金輪徐輾聲如咽。弔砲一響臣事終,刺腹絶喉何從容。旁有蛾眉端坐伏,白刃三刺繊手紅。遺書固封墨痕濕,責躬誡世情尤急。言言キ自熱腸迸,鬼哭~恫天亦泣。嗚呼以身殉君臣節堅,舎生從夫婦道全。忠魂貞靈長不散,千秋萬古侍桃山。」とあり、杉浦重剛に『挽乃木將軍』「赤城熱氣存餘瀝,松下遺風傳不言。心事明明還白白,~州正氣ョ君尊。」がある。
※満腹誠忠世所知:全身の真心がこもった忠義の心は、世の中に広く知られていることであり。 ・満腹:≒満腔。ここを「満腔」としないで「満腹」としたのは、平仄上の問題を解決するため。 「満腔(●○)」は○○(●○)とすべきところで使い、「満腹●●」は●●とすべきところで使うため。この詩の起句は「●●○○●●○」とすべきところで、第一、二字目は●●とすべきところなので、「満腹」●●とした。・満腔:からだじゅう。全身。はらいっぱい。胸いっぱい。 ・誠忠:真心のこもった忠義。忠義ひとすじであること。
※武勲赫赫遠征時:遠方の敵を征伐しに行って戦場で立てた手柄は、明らかでさかんだ。 ・武勲:戦場で立てた手柄。=武功。 ・赫赫:〔かくかく;he4he4●●〕明らかでさかんなさま。また、日でりの厳しいさま。はやいさま。ここは、前者の意。 ・遠征:遠方の敵を征伐しにいくこと。乃木将軍は、日露戦争に第三軍司令官として、旅順を攻略、苦闘の末に陥落させ、戦勝に導いた。
※夫妻一旦殉明主:(乃木将軍と静子夫人)の夫妻は、或る朝、名君(の明治天皇)に殉じて。 ・夫妻:ここでは、乃木将軍と静子夫人。 ・一旦:ある朝。或る日にわかに。ここでは、明治天皇の大喪の礼の当日のことになる。 ・殉:〔じゅん;xun4;●〕死者の後を追って死ぬ。殉死する。したがう。ここでは、明治天皇の崩御で殉死をした乃木将軍と、夫(おっと)にしたがって自刃した静子夫人の行為。 ・明主:賢い天子。=名君、聖君。明治天皇を指す。
※四海流伝絶命詞:世界に辞世のうたが伝わった。 ・四海:四方のえびす。また、四方の海の内。四方の海。全国各地。ここは、前者の意。 *明治天皇の御製に「四方(よも)の海 みな同胞(はらから)と思ふ世に など波風の立ち騒ぐらむ」の御製があり、『論語』・顔淵に「司馬牛憂曰:人皆有兄弟,我獨亡。子夏曰:商聞之矣。死生有命,富貴在天。君子敬而無失,與人恭而有禮。四海之内,皆爲兄弟也。君子何患乎無兄弟也。」とあり、晩唐・杜牧の『長安雜題長句』に「觚稜金碧照山高,萬國圭璋捧赭袍。舐筆和鉛欺賈馬,贊功論道鄙蕭曹。東南樓日珠簾卷,西北天宛玉厄豪。四海一家無一事,將軍攜鏡泣霜毛。」とある。 ・流伝:世間に広く伝わる。 ・絶命詞:辞世のうた。辞世のことば。乃木将軍は:「うつし世を ~去りましゝ 大君の みあとしたひて 我はゆくなり」等で、乃木静子夫人の辞世の句には:「いでまして 歸ります日の なしと聞く 今日のみゆきに あふぞ悲しき」がある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「知時詞」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
○○●●●○●,
●●○○●●○。(韻)
令和2.11. 7 11. 8 11. 9 令和3. 7.18完 |
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