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如夢令 秋夜 | |
清・納蘭常安 |
簾外月明誰共?
池上敗荷煙重。
何處作秋聲?
深巷疏砧風送。
吹動,吹動,
驚破棲鴉寒夢。
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如夢令秋夜
簾外 の月明 誰 と共 にかせん?
池上 の敗 荷 煙重 し。
何處 ぞ秋聲 を作 する?
深巷 の疏砧 風 送る。
吹動 し,吹動 し,
驚破 す棲鴉 の寒夢 を。
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◎ 私感註釈
※納蘭常安:清の詞人。満洲民族出身。葉赫納蘭(=葉赫那 拉・葉赫納喇=エホナラ)氏=満洲民族八大姓の一)の出で、字は覆坦。満洲・鑲黄旗の人。康熙三十二年(1693年)の挙人で、官は浙江巡撫に至る。
※如夢令 秋夜:秋の夜。 ・如夢令:詞牌の一。詳しくは「◎構成について」を参照。
※簾外月明誰共:窓の外の月の明るい(ひとときを、)誰だれとともに(過ごそうか)。 ・簾外:(窓の)カーテンの外。窓外。 ・月明:明るい月の光り。月の明るいこと。 ・誰共:だれとともにしようか、の意。中唐・劉商の『送王永』に「君去春山誰共遊,鳥啼花落水空流。如今送別臨溪水,他日相思來水頭。」とある。
※池上敗荷煙重:池の萎(しぼ)みなえたハスの花に、靄(もや)が重(おも)くかかっている。 ・池上:池のほとり。池の上。「…上」:ほとり。場所を指す。この用例には、金・完顏亮の『呉山』「萬里車書盡混同,江南豈有別疆封。提兵百萬西湖上,立馬呉山第一峰。」や盛唐・岑參の『與高適薛據同登慈恩寺浮圖』「塔勢如湧出,孤高聳天宮。登臨出世界,磴道盤虚空。突兀壓神州,崢嶸如鬼工。四角礙白日,七層摩蒼穹。下窺指高鳥,俯聽聞驚風。連山若波濤,奔走似朝東。靑松夾馳道,宮觀何玲瓏。秋色從西來,蒼然滿關中。五陵北原上,萬古靑濛濛。淨理了可悟,勝因夙所宗。誓將挂冠去,覺道資無窮。」
や中唐・白居易の『送春』「三月三十日,春歸日復暮。惆悵問春風,明朝應不住。送春曲江上,拳拳東西顧。但見撲水花,紛紛不知數。人生似行客,兩足無停歩。日日進前程,前程幾多路。兵刃與水火,盡可違之去。唯有老到來,人間無避處。感時良爲已,獨倚池南樹。今日送春心,心如別親故。」
や中唐・張籍の『征婦怨』「九月匈奴殺邊將,漢軍全沒遼水上。萬里無人收白骨,家家城下招魂葬。婦人依倚子與夫,同居貧賤心亦舒。夫死戰場子在腹,妾身雖存如晝燭。」
や元・楊維楨の『西湖竹枝歌』「蘇小門前花滿株,蘇公堤上女當壚。南官北使須到此,江南西湖天下無。」
がある。現代でも張寒暉の『松花江上』「我的家在東北松花江上,那裡有森林煤鑛,還有那滿山遍野的大豆高粱。我的家在東北松花江上,那裡有我的同胞,還有衰老的爹娘。」
がある。 ・敗:しぼみなえる。衰える。凋落する。 ・荷:ハスの花。 ・煙:霞(かすみ)や靄(もや)の類。 ・重:〔zhong4●〕おもい。なお、平仄上、「かさなる」〔chong2○〕の意はない。
※何処作秋声:どこで、秋の物寂しい音が起こっているのだろうか。 ・何処:どこ。 ・作:なす。 ・秋声:秋風のもの寂しげな音や、木の葉の散る音。秋の物寂しい風の音。両宋・張元幹の『石州慢』己酉秋呉興舟中作に「雨急雲飛,瞥然驚散,暮天涼月。誰家疏柳低迷,幾點流螢明滅。夜帆風駛,滿湖煙水蒼茫,菰蒲零亂秋聲咽。夢斷酒醒時,倚危檣淸絶。 心折,長庚光怒,群盗縱横,逆胡猖獗。欲挽天河,一洗中原膏血。兩宮何處?塞垣只隔長江,唾壺空撃悲歌缺。萬里想龍沙,泣孤臣呉越。」とあり、清・王士禛の『即目三首其三』に「白浪金山寺,靑山鐵甕城。故人今不見,楊柳作秋聲。」
とある。
※深巷疏砧風送:奥深い路地(から、)途切れ途切れに響く砧(きぬた)の音(を)風が運んでくる。 ・深巷:奥深い路地。 ・疏砧:途切れ途切れで、疏(まば)らに響く砧(きぬた)の音。中唐・白居易の『聞夜砧』に「誰家思婦秋擣帛,月苦風凄砧杵悲。八月九月正長夜,千聲萬聲無了時。應到天明頭盡白,一聲添得一莖絲。」とある。中唐・韋應物の『登樓寄王卿』に「踏閣攀林恨不同,楚雲滄海思無窮。數家砧杵秋山下,一郡荊榛寒雨中。」
とある。 ・砧:きぬた。槌(つち)で布を打ち柔らげるのに用いる木や石の台。ここでは、そこから発する音を指す。 ・風送:風が運んでくる、の意。
※吹動,吹動:(風に)そよいで、そよいで。 ・吹動:(風が)吹く。また、風にそよぐ。
※驚破棲鴉寒夢:ねぐらのカラスの寒い夜の夢を大いに驚かせている。 ・驚破:大いに驚かす。中唐・白居易の『長恨歌』に「漢皇重色思傾國,御宇多年求不得。楊家有女初長成,養在深閨人未識。天生麗質難自棄,一朝選在君王側。回眸一笑百媚生,六宮粉黛無顏色。…緩歌謾舞凝絲竹,盡日君王看不足。漁陽鼙鼓動地來,驚破霓裳羽衣曲。…」とある。 ・棲鴉:ねぐらのカラス。棲(す)みついているカラス。また、ねぐらに帰るカラス。ここは、前者の意。 ・寒夢:寒い夜の夢。
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◎ 構成について
如夢令 (憶仙姿、宴桃源、比梅、不見、古記、無夢令、如意令ともいう。)
三十三字。(単調)仄韻。韻式は「aaaara」。第六句は前句の畳句。如夢令の特徴は同様の旋律の繰り返しになっていることである。韻脚は「共重聲送動動夢」で、詞韻第一部仄声・上声一董(重動)、去声一送(送夢)、二宋(共)。ただし、「聲」は平声となる。
●●○○●,(仄韻)
●●○○●。(仄韻)
●●○○,
●●○○●。(仄韻)
○●,(仄韻)
○●,(畳句)(仄韻)
●●○○●,(仄韻)
2017.6. 7 6. 8 6. 9 6.10 |
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