●地球圏: 『未完兵装ルナシャフト』の舞台となる西暦2200年代初頭、
人類の主な活動範囲は地球・月・火星であり、
これを「地球圏」とよんでいる。
また全人類を統御・管理する組織の名前も
地球統合機構(IEO:Integrated Earth Organization)
さらに人類唯一の軍隊組織の名前も
地球統合宇宙軍(IESA:Integrated Earth Space Army)
と共に「地球」が冠につけられたものであり、
これはつまり、「宇宙時代」とは呼ばれても
どの惑星に生活する人間も常に、“地球”という言葉を
意識せずにはいられないということである。

●政治: 2050年前後に人類が陥った絶滅の危機は
既存の国家の枠組みさえも危うくし、
この未曾有の事態に人類は結束、新たな希望を「宇宙」に求めた。
この過程で生まれたのが
地球統合機構(IEO:Integrated Earth Organization)
とその下に連なる自治体(旧国家)群であり、
そして(表向き)人類の最高意思決定機関、IEO最高評議会である。

しかしこの最高評議会はあくまで表向きに評決、発表を
行う場でしかない。IEOの裏には元老院という組織が存在し、
ごく少数の“古老”が人類の行く末を決めている。
本編では元老院の様子を見ることができないが、
一説には非常に高齢の老人達による集団であるという。

また一方、全人類的な知的資産の頂点にあるのがイモータルである。
イモータル自身には政治力はないものの、その知識・知性ゆえに
元老院以上にマクロ的な視野から人類の行く末を監視・指導する
役目を担っている。
なおイモータルとは組織の名前ではなく、人類最高の
知識人、学者、賢人たち(セルゲイがその一員)のネットワーク
そのものを指す言葉である。

●産み分け
(男女比)と
市民生活:
西暦2000年代前半、人口増加による環境汚染、食料不足は
あまりに多くの命を奪い、一時壊滅的な危機を迎えた人類は
出生制限を実施。また、より優秀な人類のみを残してゆくため、
種主となる男性種には厳しいDNAチェックを入れ、
優性種のみを摘出して劣性遺伝子と判断された場合は
間引きされる方式がとられた。
(もちろんこの施策は倫理面において、大変な論争が起こった)
ただし、種としての多様化を維持し、種自体の弱体化を防ぐため
女性においてはこの限りではない。

この結果として2200年の時点で
人類の総人口は約15億人。そのうち
地球:約14億2000万人
月:約8000万人
火星:約350万人
人類の男女比は1:9で安定している。

この時代、男女間の恋愛や結婚(の自由)に関しては規制は無いが、
出産に対しては大きな規制が存在する。
新たな人類の誕生に際しては地球統合機構(IEO)の管理のもと
理想的なDNAのかけ合わせが選択され、95%以上が試験管で
受精し、産まれる。
新生児は必ずしも精子、及び卵子提供者に子供として
与えられるわけではなくもっともふさわしいと判定された
里親に引き取られる事になる。
現代のような愛し合ったもの同士が母体出産で子供を作るということは
DNA検査で政府が公認したもの達にのみ認可される。
セルゲイミールのカップルなどがそれである。
それ以外に政府に無届で母体出産が行われた場合、厳罰に処される。
本編ではマリオの両親がこれにあたる。

なお、この時代の人類は大きく分けると
1.市民(ヒューマン):人類の大多数がこれにあたる。
2.軍人:地球統合宇宙軍(IESA)所属[広義には市民
3.公務員:地球統合機構(IEO)職員[広義には市民
4.レジスター
5.イモータル
6.指導者階級:最高評議会[=IEO高官、IESA高官]や元老院
となる。

●スキルテスト
/教育:
出産同様、この時代の教育も非常に効率化、管理化されている。
(すでにレジスターとして登録されたものを除き)
全ての子供は10才になった時点で総合的な適性試験である
スキルテストを受けることが義務づけられ、この結果によって
将来つく進路、職業は全て決められてしまう。
その結果は詳細を極め、DNAレベルから出生後の環境、
肉体/精神的成長度合、情緒的傾向まで判定されるため
(当然、短期集中的な「試験勉強」というものも存在せず)
誤差が少ないかわりに個人に許された選択肢も多くはない。

なお、スキルテストの結果、飛びぬけた才能を示したものを
特にスキルテスト合格人間(サクセスフルヒューマン)と呼ぶ。

●医療: この時代における“医師”とは地球統合機構(IEO)の
医療センターに集められた者のみで
一般的に地球、宇宙を問わず病院に“医者”は存在しない。
医師はスキルテストで適正を割り出された選りすぐりの人材が
政府の中央医療センターに集められ、スキルの若干劣るものは
各地の医療センターでそのエリア独自の症例(風土病や新たな疾病)
等を研究する。

全世界(地球圏=太陽系)にメディカルベッドと集中治療装置が設置され、
過去の医療データーバンクと照会し、問診やスキャニングによって
症状を判断し最適な医療を自動的に行うため、
基本的には医療ロボットと看護師だけですむ。
医療センターでは最高の医師達が最新の研究を行っており
それに合わせて全世界の端末(メディカルベッド)のデータは
常に最新のものにアップデートされているので、世界中の何処にいても
等しく最高の医療を受けられる。(よってヤブ医者に出会う事は無い)

ただし、精神的な病に関してはこの方法では対応しきれないため、
精神科医やカウンセラーなどは現在と同じく存在する。

また、この23世紀、クローン技術そのものは存在するが
あくまでそれは医療において
(移植用臓器など)組織培養にのみ使用が許されており、
進化の停滞を防ぐため、また種としての弱体化を防ぐためにも
クローンによる同位体の作成は禁止されている。
このクローンの規定は動物においても特別な場合
(絶滅の危機等)を除き人間と同じく適用される。

ここで(優秀なDNAを残す政策をとっている)IEO
クローン人間を禁じたのは技術的・倫理的な問題ではなく
同じDNAを持つ個体が同じ環境で育ったとしても
同じ「人間」になるわけでは無い、という理由からであった。
「クローン人間」は(多様な掛け合わせによって産まれてくる
新たな可能性)に対する弊害にしかならない、と判断したのである。

●交通/通信: 地球圏と呼ばれる太陽系内の人類活動範囲では
光通信が基本となった高速データ・ネットワークが
隅々まで配置されている。
そしてこの時代、人類はあまりに日常生活の中で多様、あるいは
身近な用途にこの通信網を使用しているため、
「ネットワーク」という言葉自体を意識することすら滅多にない。

しかし無線化・簡便化はしても電波(あるいは光)そのものの
限界には変わりは無く、後にAMAGIWA以降の深宇宙探査船に
搭載された亜空間通信ポッド(極小の亜空間を形成し、地球側の
任意の受信地点に一方的、即時に通信ポッドを転送する)
が発明されるまでは、人類は光(あるいは電波)以上に早い
通信手段をもたなかった。

さらに2200年代初頭は(宇宙時代となってから
地球圏に住む人類にとって非常な脅威となった)
磁気嵐に多く襲われた時期でもあった。
もともと磁気嵐によって分断された通信、データ処理系を処理・
補助するために生まれたのがレジスターという階級/職業であり、
本編第2話でも磁気嵐によってLBT参加者専用ホテル
生命維持システムが停止した事件の処理に、ベアトリーチェ
クラスBレジスター2名をエージェントとして送るシーンがある。

この時代の地上交通は自動化が進んでいるため
(月表面に張り巡らされたルナカート網など)
基本的には運転する必要が無く
(一応マニュアルモードは搭載されているが)
コンピューターの管制下で運営されており、渋滞は存在しない。
電磁誘導(リニア)式の乗り物もごく一般的に使われている。

大気中(空中)輸送手段はジェット推進が主流であり、
宇宙空間ではロケット/ラムジェット推進が使われている。
ビルキスに搭載されたイコノニウムドライブ
さらにはAMAGIWAに搭載されたNEOイコノニウムドライブ
開発されるまで、人類は宇宙的な空間・距離を移動するには
あまりに非力な機関(と通信手段)しかもたなかったのである。

●軍事: IEOの誕生で達成された政治の統合は、
「軍隊」の意義を治安維持と軍事技術保持の二点にせばめた。
そしてこれが、人類に自身を守る単一の軍隊組織の誕生を促した。
2075年に発足した地球統合協同軍
(IECA:Integrated Earth cooperative Army)
がそれである。
IECAはその後も順調に成長を続け、
2110年、組織規模が拡大し、地上のみならず
宇宙・地球圏全体をカバーするようになったため、
地球統合宇宙軍(IESA)と名称を変え、
IECAは廃止された。

よってニビル戦役直前の時点では
地球圏で自治体(旧国家)間の大規模戦争というものが
放棄されて久しかったため
人類の主な保有戦力はIESA宇宙艦隊で、
その規模も決して大きいものではなかった。
また地上部隊も本編に登場した(月面基地の)憲兵などが
主な“軍隊”であり、地球にも名ばかりの地上軍が存在するが
(国家間の大規模戦争がないので)
治安維持が主眼におかれ、やはり小規模のものである。
ただしスキルテストとその後の厳しいカリキュラムを経て
配属となるため、職業軍人自体の士気・練度は高かった。

しかしそれらの状況も2188年の“月の縦坑”事件
2191年の太陽系外宇宙探査部隊全滅事件
までのことで、仮想敵(ニビルイコノシャフト)を遭遇(あるいは
次回遭遇を予見)したことにより地球統合宇宙軍(IESA)は
史上稀に見る急激な軍拡を行わざるを得なかった。

正規艦隊は第I〜IXまでの9個艦隊。
対ニビル地球艦隊は第V、VIをのぞく全てが各地方面部隊ごとに
1〜4個艦隊ずつ同時期に出撃、合流ポイントを目指したが、
艦隊同士の(相互の距離による時差で)連絡が滞ったまま、
ニビル側に各個撃破された。
(第IX艦隊全滅の報を受けた第X艦隊
 引き続き合流ポイントを目指したのは、このためである)

各艦隊構成は出撃順に
<太陽系外縁(火星−木星)方面軍>先遣艦隊として出撃、全滅
第V艦隊:
 コペルニクス級戦艦(以下コ戦)×2、
 オリエンタル級三連空母(以下オ空)×4、
 ラインホルト級巡洋艦(以下ラ巡)×8、
 トビアスマイヤー級駆逐艦(以下ト駆)×10、
 アルザケール級輸送艦(以下ア輸)×2 計26隻
第VI艦隊:
 コ戦×3、オ空×4、ラ巡×8、ト駆×9、
 スタディウス級補給艦(以下ス補)×1 計25隻

<火星方面軍>
第IV艦隊:
 コ戦×3、オ空×4、ラ巡×8、ト駆×10、ス補×1 計26隻

<地球圏主力艦隊>
第I艦隊が
 コ戦×4、オ空×6、ラ巡×10、ト駆×18、ス補×2
 ア輸×1、 計41隻
第II艦隊が
 コ戦×3、オ空×4、ラ巡×8、ト駆×10 計25隻
第III艦隊:
 コ戦×3、オ空×4、ラ巡×8、ト駆×10、ア輸×2 計27隻
第VII艦隊が
 コ戦×3、アルザケール級戦艦[輸送艦から改装](以下ア戦)×2、
 オ空×5、ラ巡×5、ト駆×8、ス補×2 計25隻

<太陽系内縁(月−地球)方面軍>
第VIII艦隊が
 コ戦×2、ア戦×2、オ空×5、ラ巡×4、ト駆×6、ス補×1 計20隻
第IX艦隊が
 コ戦×1、ラ巡×3、ト駆×6、オ空×3、
 プトレマイオス級戦闘空母×5(以下プ戦空)、ス補×2 計19隻

中でも、オペレーターとしてジュリアと共に第I回LBTで優勝を飾った
ティアナ・ヘルドレート司令に率いられた第IX艦隊は善戦したが、
第X艦隊と合流する前に全滅した。

ちなみに全地球艦隊で唯一勝利をおさめたのが
火星宙域第一次会戦における)第X艦隊であり
第X回LBTファイナリスト隊が乗りこんでいた。
同艦隊の編成は以下の通り。
 ア戦×1、オ空×7、プ戦空×5 計13隻

第X艦隊は人類側の残存艦艇も残り少なかったためもあり、
宇宙艦隊としては変則的な、いわば「CS機動艦隊」と呼ぶべき
編成であった。

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「未完兵装ルナシャフト設定資料集・世界観」 本文:金子良馬、山口恭史

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