気がつけば Fall in Love
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第1章
ぶつかった。そう思った瞬間には、はじきとばされていた。 「いたっ!」 よろけた体勢を立て直してブルマが顔を上げると、あの野蛮なサイヤ人が彼女には目もくれず、そのまま廊下を曲がって行こうとするではないか! 肩の上でまっすぐに切りそろえたラベンダー色の髪を振りたて、男の背中に向かってブルマは叫んだ。 「ちょっと、あやまんなさいよ! レディにぶつかっといて黙って行く気!?」 肩越しに横顔だけをチラリとこちらに向け、男はいつもの仏頂面で、 「なんだ。地球の女か」 と、無感動に言い捨て、そのまま左手のベランダへと足を向ける。 ブルマは急いで男の進路を阻むように前へ回ると、胸の前で腕を組んで仁王立ちになった。 「ベジータ、ちょっとあんたに言っときたい事があるの」 男は眉ひとつ動かさず、トレーニングウエアのポケットに両手をつっこんだまま低い声で答える。 「オレはこれからトレーニングに出かけるんだ。邪魔だ。どけ」 「待ちなさいよ。あんたねぇ、うちにずーっと居候してるくせに、あたしの名前くらいいいかげん覚えたらどうなのよ。 いつまでたっても地球の女、地球の女って。あたしにはちゃんとブルマっていう名前があるんですからね」 「ふん、変な名だ」 「う、うるさいわねっ! あたしだって気に入ってないわよっ!!」 顔を赤くして怒りながら、ブルマはふと、ずっと前にもこんなことがあったような気がして目をしばたいた。 そう、初めて会った時の孫悟空が、やっぱり同じことを言ったのだ。 これだからサイヤ人ってやつは……。 「ガタガタ言ってないでオレの特訓の助けになる道具でも作ったらどうだ? 2年後に死にたくなかったらな」 それだけ言い捨てるとベジータは、もうこっちを見向きもせずベランダへ出る。 飛び立とうとするその後姿をにらみつけながら、むきになってブルマは声をはりあげた。 「あんまりムチャクチャな特訓ばっかりやって心配かけないでよねっ」 「心配? 何の心配だ」 聞きなれない言葉に反応してベジータが振り向く。 「な、何って……人里離れた荒野まで、あんたの死体を引き取りに行くなんてゴメンだって意味よ!」 「ふん、へらず口たたきやがって。生っちょろいことをやってて特訓になるか。サイヤ人は死の淵から蘇るたびに強くなっていくんだ」 捨てゼリフと同時に空へ飛び上がると一気に加速し、サイヤ人の男はあっという間に見えなくなった。男の巻き起こしたつむじ風が、セットしたばかりのブルマの髪を容赦なくかき乱して、いずこともなく消えてゆく。 「もうっ、どうしようもない男!」 「ブルマさんたら、ベジータちゃんにかまってもらえなくて寂しいのね」 出し抜けに声がして、びっくりして振り向くと、ピンクのドレスに身を包んだ母親がにこにこして立っている。 そのかたわらには、珍しく黒いタキシードを着て正装した父親が寄り添っていた。 これからふたりして観劇かパーティーにでも出かけるのだろう。相変わらず仲のいいことだ。 ――――そんなことはどうでもいい。ブルマは眉をつりあげて抗議した。 「母さんたら! 変なこと言わないでよ。なんであたしがあんな戦闘マニアなんか! だいいち、あたしにはヤムチャが……」 「そのヤムチャくんから連絡はないのか? 式は来月だろう」 ブリーフ博士が心配そうに口をはさんだ。 「知らないわよ、あんなやつ。どこほっつき歩いてんだか」 ブルマはそれ以上彼とのことを両親に詮索されたくなくて、さっさと自分の部屋へ戻った。 ヤムチャはプーアルをつれて、打倒人造人間の修行の旅に出ている。 ――――――というのは表向きの話で、実は何十回目かの浮気がバレて、ブルマと何百回目かのケンカをし、カプセルコーポを出て行ったのだった。かれこれ半年になる。 これだけ長く帰ってこないところをみると、もうブルマとはこれっきりにするつもりなのかもしれない。 プロポーズしたのはヤムチャの方なのに……。 |