気がつけば Fall in Love
第1章/第2章/第3章/第4章/第5章/第6章/第7章/第8章/第9章/第10章/
第11章/第12章/第13章/第14章/第15章/第16章/第17章/第18章/第19章(最終章)
第12章
その夜更け、ヤムチャがブルマの部屋を訪れた。テーブルの上にガイドブックを広げ、新婚旅行で訪れる町についてあれこれ話したあと、彼は横に座っているブルマの肩に腕を回して感慨深げにつぶやいた。 「知り合ってから16年か。長い春だったよな」 「そうね……」 「どうした。浮かない顔だな。さっきから何を話しかけても上の空だし……。もしかして後悔してるのか? オレとの結婚」 「そうじゃないわ。実は……ベジータがね、超なんとかってやつになれないせいか、ますます無謀なことしてるみたいで気になるのよ」 「超サイヤ人か。悟空がなれて自分だけがなれないなんて、ベジータの性格じゃ我慢できないだろうな」 「あんなの自殺行為よ。そのうちほんとに死んじゃうわ。そんなの―――」 いやよ、と口走りそうになり、ブルマは急いでブランデーを口に含んだ。 「ずいぶんあいつにご執心なんだな」 ヤムチャは笑ってブルマを引き寄せた。その声には軽い苛立ちが含まれている。 「やだ。からかわないでよ、ヤムチャ」 柔らかく抱かれて居心地のいい大きな胸の中におさまり、耳に馴染んだ力強い心臓の鼓動を聞きながら、ブルマは安らぎを感じていた。 あたしはヤムチャが好きだ。 ときめきは友情に、恋は深い愛着に、いつのまにか姿を変えてしまったけれど、それでもこの男を好きでいることに変わりはない。 いつかのダイニングルームでの会話を思い出したのか、ヤムチャは言った。 「それにしても、ベジータのやつに恋人がいたなんて正直言って驚きだよな。冷酷な殺人マシンもただの男だったってわけだ。……いや、待てよ。相手が恋人とは限らないか。男はいろいろあるからな――――おっと」 ヤブヘビになるのを恐れ、あわてて口をつぐむとヤムチャは冗談めかして笑った。 「これから毎日命がけだぜ。ベジータがおまえにちょっかい出さないように見張らなきゃな」 「つまんない冗談言わないでよね! あいつはあたしを女として認めてないって言ってるでしょ」 ブルマはヤムチャの手を振りほどき、とげとげしく言った。 「なんで怒るんだよ」 「怒ってないったら!」 テーブルの上のグラスを取り上げ、一気に飲み干すブルマの手をヤムチャが止めた。 「やめろよ。飲みすぎだぞ。……おい、まさか本気で気にしてるんじゃないだろうな。あいつがおまえに手を出さないからって。がっかりすんなよ。ベジータの好みがいい女とは限らないだろ。そうさ、筋骨隆々としたゴリラみたいな女が好きなのかも知れないじゃないか。おまえに魅力がないってことじゃないさ」 ちぇ、オレ、なんでこんなこと言ってんだろ。複雑な気分だなあ―――と、ヤムチャはぼやきながらブルマを抱きしめた。 この間から小さなトゲのようなものが胸の奥に刺さって抜けない。それが何なのかブルマにはわからなかった。 もやもやとしたしこりを心に感じながら、愛を確かめるヤムチャの動作に彼女は人形のようになすがままになっていた。 気がつけばまだあの男のことを考えている。 「どうした?」 「…………」 うつむくブルマの顔をしばらく見つめていたヤムチャは、 「いいさ。気が乗らないことだってあるよな」と微笑んだ。 彼女の額にくちづけると、彼はおやすみを言って出て行った。 |