気がつけば Fall in Love
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第3章
ブルマは椅子に座り直すと、テーブルに肘をついて両手を組み合わせ、その上に形のいい顎を乗せた。そして大きな瞳をまっすぐに目の前の男に当てて尋ねた。 「ねえあんた、もうドラゴンボールに未練はないの?」 「ふん、何を聞くかと思えばそんなことか。永遠の命だの宇宙の支配者だの、そんなものにもはや興味などない」 それよりもはるかに重要なこと―――カカロットと闘い、やつを打ち負かすこと―――それこそが今のオレの全存在を賭けた目標なのだ。 ベジータの目はそう言っていた。 「それなら神龍に、超なんとかっていうのにして下さいって頼めば簡単じゃない。そしたら苦労しなくてすむわよ」 「オレは特訓次第で必ずカカロットを超える。超えてみせる。神龍の力など借りん」 「ふーん、結構フェアプレイ精神持ってんじゃん」 身を乗り出しながら、ちょっと見直したというようにブルマは大きく目をみはった。食事を中断して力説していたベジータは我に返ると、彼女から視線をそらせてまた食べ始めた。 「あ、もひとつ聞いていい?」 めんどくさそうにベジータが答える。 「……なんだ」 「前に読んだ科学雑誌に載ってたんだけど、人間の脳の中には、闘争本能や食欲や性欲が隣り合ってあるんだって」 「それがどうした」 「サイヤ人って、闘い好きで大食漢よね」 「……?」 「性欲もすごいの?」 そのとたん、ベジータは食べ物にむせて、口に入れていた物を勢いよくテーブルの上にぶちまけてしまった。 「やだー、きたないわねー」 「う……う……うるさい!! てめえのせいだ!! く、くだらんこと言いやがって」 咳き込みながらベジータがわめいた。耳まで真っ赤になっている。 宇宙一残忍で冷酷な戦闘民族サイヤ人の王子が潔癖で純情……このアンバランスで似つかわしくない取り合わせが、ブルマには無性におかしかった。 「あ、あんたって、意外とかわいいとこあるのね」 笑うまいとして、それでもププププッと笑いがこみ上げてくる。 「黙れ! ちくしょう。こ、殺されたいか」 いまいましげに捨てゼリフを吐くと、食事もそこそこにベジータはダイニングルームを出ていってしまった。 それから何日かたったある朝、ブルマの部屋へ招待客リストを抱えた母親が小走りに入ってきた。 「ブルマさん、ブルマさん、大変。結婚式に招待するお客さまのリストから悟空ちゃんとクリリンちゃんが抜けてるわ」 その日は仕事も休みで、ゆったりとCDをかけてファッション雑誌をめくっていたブルマは、気のないようすでテーブルからコーヒーカップを取り上げ、口に運びながら答えた。 「いいのよ。どうせ修行修行で呼んだって来やしないわよ」 「そうなの? でも……」 「いいんだったら。……それより、ねえ母さん、あたし……結婚やめようかな」 「まあ」と、母親は頬に手を当てて驚いてみせたが、もとより物事に動じない性格のせいか、にこやかな表情に変化は見られなかった。 「マリッジブルーかしらねえ。ヤムチャちゃんも早く帰ってくればいいのに」 ブルマの言葉を、母親は結婚前の娘によくある情緒不安定のせいと受け取ったらしい。 両親に心配をかけたくなかったので、ブルマはヤムチャがもう戻ってこないだろうということを、ずっとふたりに言いそびれていたのだ。 |
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(icon作成:みなみさん)
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