気がつけば Fall in Love
第1章/第2章/第3章/第4章/第5章/第6章/第7章/第8章/第9章/第10章/
第11章/第12章/第13章/第14章/第15章/第16章/第17章/第18章/第19章(最終章)
第14章
立ち上がるとベジータはブルマに近づいてきた。彼女は思わず身を硬くした。 「おい、女、わかったふうなことを言って図々しくオレの中に踏み込んでくるな。おまえは言われた通り必要な物を作っていればいいんだ」 「なんてことを……」 怒りが恐怖を吹き飛ばした。ブルマは自分からベジータに詰め寄っていった。 「意地っぱりね! あんたにだって自分をわかってくれる仲間が必要だわ。心の中じゃあんたもそれを望んでるくせに。いいかげん突っ張るのはやめたらどう!? そんなんじゃ孫くんには永遠に追いつきゃしないわよ」 「だまれ!!」 ベジータは片手でブルマの手首をつかむと荒々しく引き寄せた。 彼女の口から小さく悲鳴がもれる。 いたぶるような冷たい笑いを口の端に浮かべ、彼はもう片方の手でブルマの顎をつかんで上を向かせた。 「よく回る舌だぜ」 「離しなさいよっ」 ブルマは空いている手を振り上げ、男の頬を打とうとした。が、ベジータは余裕の表情を浮かべ、わずかに顔を傾けただけでそれをよけた。 バランスを崩した彼女の腰を男の腕が素早く抱え込む。 「ちょっと、何する――――んっ」 唇を奪われたとたん、ブルマの頭の中は真っ白になってしまった。 ――――どのくらいの間そうしていたのだろう。はっと気づくと、男の厚い胸に体を預け、この無礼なふるまいに我を忘れて応えている自分がいる。 ブルマはあわてて力いっぱい男を突き飛ばした。 ベジータは意外にあっさりと体を離した。後ずさりながら怒りに震えてブルマは叫ぶ。 「あ、あたしは明日結婚するんですからね! 二度とこんなことしたら―――」 「うぬぼれるな。おまえなどオレの趣味ではない。ギャアギャアうるさいから黙らせただけだ」 「なんですって」 「行け。次は冗談ではすまんぞ」 ブルマは目の前の男をにらみつけたまま立ちつくしていた。 たとえ殺されたってかまわない。思う存分この男をののしってやりたかった。 なのに、頭の中の回路がすべて焼き切れたように、言葉は何ひとつ浮かんでこない。 どうやって戻ったのか、気がつけば彼女は自分の部屋にいた。窓を開けると風が新緑と雑踏の匂いを運び、遠くに見える繁華街のネオンが色とりどりに瞬いて見える。 (あれ……?) 急にネオンがにじみ、ぼやけた。 (あたし……泣いてる……?) 瞳の中に盛り上がった涙が頬を伝い落ちてゆく。 悔し涙ではなかった。強引なキスの余韻がなぜか甘くせつなく胸を締めつけている。男の唇が今もなおそこにあるようで、ブルマは指先をそっと唇に押し当てた。 あんなこと……ちっとも望んじゃいなかったのに。あたしは明日、ヤムチャの妻になるのに……。 「へんね……」ブルマはかすれた声で涙と共につぶやいた。「やっぱりマリッジブルーかしら」 |