気がつけば Fall in Love
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第8章
相手が苦々しく黙り込んだのを見て気がすんだのか、ブルマは体の後に隠したカプセルのボタンを押すと、目の前に放り投げた。 ボン! という音がして、小さなスーツケースがひとつ。 「まだ試作品だけど試してみて」 スーツケースを開け、中からとりだした戦闘服を広げてみたベジータの目が驚きと賞賛に輝くのをブルマは見逃さなかった。 次の瞬間には何のためらいもなくスパッツを脱ぎ始めた彼に、ブルマは赤くなってあわてて後を向いた。 「まったくぅ。あたしがいるってことわかってんのかしら。ちょっとは遠慮してよね」 彼がすべて着込むのを待ってブルマは振り向き、歓声を上げた。 「すごいわ。ぴったりじゃない。やっぱりあたしって天才ねー!!」 それには答えず、ベジータは首ぐりに指をつっこんだり、腕を回したりして着心地を試している。 身長はブルマより少し高い程度だろうか。体つきもどちらかというとスリムなのだが、鍛え上げられた鋼のような筋肉を身にまとっている。 (意外と厚い胸板よね。たくましい体のわりに細い腰回りがなんだかセクシーだわ……) 科学者として戦闘服の出来ばえを観察していたはずのブルマは、いつのまにか自分の目が彼の体の線をなぞっていることに気づき、あわてて目をそらした。 「胸のあたりが少し窮屈だな」 冷静な戦士の顔になってベジータがつぶやく。戦闘に少なからず影響を与える物だけに妥協は許さないのだ。 「そお? どれどれ」 「オリジナルと比べると伸縮性に劣るんだ。それにもっと軽量化できないか」 ブルマはベジータのそばに寄り、プロテクターの端をつかんで引っ張ってみた。 「パラセートとトリエステロンの割合を5パーセントずつ増やしてみようかしら。そうするともっと伸びるようになるし、軽くなるわ。でもその分強度も落ちるわね。うーん。どうしようかな……」 眉根を寄せて考え込むブルマの顔を、ベジータは意外な思いで見ていた。 (このノーテンキな女でもこんな真剣な顔をすることがあるのか) 視線を感じてふと顔を上げるとベジータと目が合った。思いがけず近くにある相手の顔にブルマはどぎまぎしてしまう。 「改良すべき点は改良してみるわ。他にもっと気づいたことがあれば言って。直すから。じゃね」 あわててあとずさりながら内心の動揺を押し隠してつっけんどんに言うと、彼女はそのまま振り返りもせずに重力室を出て行った。 (やだやだ。どうかしてるわ。あんなやつを意識しちゃうなんて……。でも、よく見るとちょっといい男よね) 自室に戻り、灯りをつけようと伸ばしたその手を誰かがつかんだ。声にならない悲鳴をあげたとたん、強い力で抱きすくめられ、暗闇の中でブルマはもがいた。 「だっ……誰よ!」 懐かしい匂い……これは……。 「ヤムチャ!!」 灯りをつけると、まぶしそうに顔をしかめながら笑っている婚約者の姿がそこにあった。日に焼けて一段とたくましくなっている。 髪型も全体的に逆立った形に変えたせいか、半年前までのどことなくおぼっちゃん風の甘い雰囲気は抜けて、まるで別人のようだ。 |