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気がつけば Fall in Love

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第9章

「ただいま、ブルマ。会いたかった……!」
 ヤムチャはそういうともう一度ブルマを抱きしめた。
「あんた、今までいったいどこで何してたのよ! 電話ひとつよこさないで……あたしがどれだけ……」
「ごめん」と、ブルマの頬に両手を添え、瞳をのぞきこみながら彼は謝った。
「おまえとケンカしてむしゃくしゃしてさ、あてもなく旅に出たけど、冷静になって考えてみれば、こんなことしてる場合じゃないぞって思えてきたんだ。
 人造人間が世界を滅ぼせばおまえとの結婚もパアになっちまうもんな。今度こそ死ぬ気で修行しようと思って東の都近くの山にこもったんだ。そしたら崖から落ちてこのざまさ」
 彼は道着をめくって胸元を見せた。白い傷跡が斜めに走っている。
「アバラを6本折った。それで動けなかったんだ。携帯の電波も届かないし、連絡することもできなかった。ごめんよ。心配しただろ」
「知らないわよ。美人の彼女にでも看病してもらってたんでしょ」
「あのことか」ヤムチャは苦笑した。「だからあれは誤解だって。おまえっていつも早とちりするんだからな」
「だってずいぶん親しそうだったじゃない」
「半年前も言っただろ。あの人は高校の先輩の奥さんで、たまたま街でばったり会って話してただけなんだ。大恋愛の末に駆け落ち結婚までしたって人だから、たとえ迫ったってオレなんて相手にされないよ」
「そうかしら……」
 それが嘘だったとしても、ブルマはもうヤムチャのことを許していた。懐かしい彼の笑顔と暖かな声は半年間のわだかまりを春の雪のように溶かしてくれる。
(やっぱりあたしにはヤムチャしかいないわ。なんだってケンカなんかしたんだろう)
「でも、式に間に合うように帰れてよかったよ」
 ヤムチャにそう言われて、ブルマは「あ……」と声を漏らした。
「結婚式なら母さんに頼んでキャンセルしちゃったわよ」
「それなら大丈夫さ」ヤムチャは片目をつむってみせた。「さっきおふくろさんに聞いたけど、オレがきっと帰ってくると思ってそのままにしてあるそうだ」
「そう……よかった」
「ところでベジータのやつはどうしてる?」
「あいつなら相変わらず修行ざんまいの毎日よ。まったく何が楽しみで生きてるんだか」
「危険な賭けだが、あいつには強くなってもらわないとな。今度の敵は手ごわいだけに、少しでも強い味方が欲しい」
「自分で倒す、とは言わないのね。ヤムチャ」
「無理言うなよ」ヤムチャは苦笑いした。

 晩餐ばんさんには久しぶりにカプセルコーポの全員が顔をそろえた。娘のプライバシーに口をはさまない主義のブリーフ博士も、さすがに心配していたのだろう。やっと帰ってきた未来の義理の息子に、盛んに酒をすすめては歓待した。
 夫人もうれしそうに次々と料理を取り分けてはヤムチャとプーアルの前に並べていく。ブルマはそんな光景をどこかくすぐったい思いで見ている。喜び事を間近に控えた、華やいだ空気がダイニングルームを満たしていた。
 そこへベジータが現れた。ヤムチャとプーアルを見ても何の感情も表さず、ひとり離れた席につくと、黙々と食べ始める。ブリーフ博士が気を利かせて声をかけた。
「ベジータくん、ヤムチャくんとプーアルが帰ってきたよ。覚えてるだろう。ちょっと雰囲気は変わってしまったがね」
「結婚式に間に合ってほんとによかったわ」夫人があとをついだ。「そうそう、ベジータちゃんも出席してくれる? ヤムチャちゃんとブルマさんの結婚式」
 ベジータは終始無言である。相変わらずだな、というふうにヤムチャが苦笑を浮かべた。プーアルはまだこの残虐非道な男を怖がっていて、やや体を引きながらヤムチャの陰に隠れている。
 ちょっとの間、白けた空気が流れた。が、すぐにそれはブルマの大きな声で破られた。
「あんたねえ、返事くらいしたらどう? それに『ご結婚おめでとうございます』くらい言うのが礼儀ってもんよ」
 そこで初めてベジータは皿から顔をあげた。
「ふん、物好きな野郎だぜ」
「なぁんですってぇ!?」


8章だ / 10章だ!
(icon作成:みなみさん)

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