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気がつけば Fall in Love

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第11章

 ブルマも両親も形式にはとらわれないたちなので、世界有数の大企業カプセルコーポの社長令嬢にしては、結婚式は簡素にする予定だった。マスコミはシャットアウトするし、政界人も財界人も呼ばない。
 近い親戚や友人といった、ごく親しい者たちだけに教会での式に列席してもらい、そのあとの披露宴は自宅で立食式のガーデンパーティーを開き、気楽に祝うつもりだ。
 そのかわり、新婚旅行は1ヶ月かけてゆっくりと飛行機で世界を一周する。
 ヤムチャは修行が出来ないと言ってそのプランに反対していたのだが、「途中で孫くんやクリリンくんたちを冷やかしに周るから、その時に修行すればいいじゃない」と、強引に押し切ってしまった。
 休んでいる間の仕事の段取りを部下に指示したり、旅行に持っていく服や靴を選んだりと、このところブルマは目の回るような忙しさだった。

(そういやこの頃あいつの姿を見ないわね)
 結婚式をいよいよ3日後に控えた夜、スーツケースに服を詰める手をふと止め、彼女は考えた。以前なら食事の時間には必ず現れたサイヤ人の男は、ここ数日全く姿を見せない。廊下で偶然出くわすこともない。
 課題だった軽量化と伸縮性の欠点を解決して完成させた戦闘服は、すでにベジータに手渡してある。あれから何も言ってこないところをみると、出来栄えに文句はないらしい。
 食料庫のカプセルは一気にごっそり減ってはいるが、昨日だったか父親が重力装置がオーバーヒートして修理が大変だとこぼしていたことと考え合わせると、あの男は荒野へも出かけず、来る日も来る日も1日中重力室にこもりっぱなしに違いない。

 気になってブルマは重力室の前まで行ってみた。ドアの操作パネルを見ると、確かに装置は連続稼動で過負荷の状態を示している。
「ベジータ? ベジータ、いるんでしょ」
 返事など期待していなかったが、何かただならぬものを感じてブルマは装置のスイッチを切った。
 一歩中に足を踏み入れ、彼女は顔をしかめた。空気清浄装置が働いているはずなのに部屋の空気はよどみ、まるで帯電しているかのように張り詰めた何かがピリピリと肌を刺す。
 曲線を描く壁際に食べ散らかした食料や空のカプセルが散乱し、丸めた毛布が落ちていた。
「あっきれた。あんた、この中でずっと暮らしてたの?」
 部屋の中央にある柱状の重力装置の前で、こちらに背を向けたまま立っている男にブルマは声をかけた。
「人間の体はねえ、休まなきゃいけない時には休むようにできてるのよ。修行がうまく行かなくて焦るのはわかるけどさ、いくらあんたが頑丈なサイヤ人でも、1日中こんなとこにこもってたら、しまいに死んじゃうわよ」
「言いたいことはそれだけか」
 凍りつくような声にブルマはハッとして口をつぐんだ。男はゆっくり振り向くと突き刺すような視線をこちらに向けた。しばらく見ない間に頬はこけ、目だけがぎらぎらと異様に輝いている。
「二度と言わん。出て行け。これ以上差し出たまねをしやがったら――――殺す」
 ベジータはおろした両方の拳に力をこめた。ダイアモンドダストのように細かい光の粒子が、拳を取り巻きながらスパークしている。
 脅しなんかじゃない。今この瞬間にでもベジータはあたしを殺すかもしれない――――ナメック星で会った悪鬼のようなベジータを思い出し、ブルマは震え上がった。
 いつものように威勢良く言い返すこともできず、言われるままに彼女は重力室から出た。ドアを閉める前にもう一度振り返ると、装置を再び作動させるために操作パネルにかがみこんでいる男の横顔が見えた。
 男は全身で自分以外のすべてのものを拒絶している。なのにその背中は妙に寂しげで、ブルマはしばらくそれから目を離すことが出来なかった。


10章だ! / 12章だ!
(icon作成:みなみさん)

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