気がつけば Fall in Love
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第10章
「お、おい、ブルマ」 ヤムチャがあわてふためいて制止する。プーアルは息を呑んでテーブルの下にもぐってしまった。 「ほうっておきなさい。いつものことだよ」 のんびり声をかけると、ブリーフ博士は妻に向かって「このチキンの詰め物はいけるね。また一段と腕を上げたな、きみは」と言った。 「あら、よかったわ。お口に合って」うれしそうに夫人は微笑んでいる。 ふたりとも、娘がこれからライオンの口に頭をつっこもうとしていることなど意にも介していないようだ。 ヤムチャはおろおろとブルマの方を振り返った。 「あんた、自分が独り身だから妬いてるんでしょ。そりゃそうよねー、あんたみたいな戦闘バカ、よっぽど物好きな女でなきゃ相手になんてしてくれないわよね。あっそうか。それでひねくれちゃったんだ。違う!?」 ベジータが立ち上がった。青ざめたヤムチャが飛び出してきて、その前に立ちはだかり、ブルマを背でかばった。 「ま、待て、ベジータ。こいつはズケズケ言うけど悪気はないんだ。ただちょっと性格がきつくて口が悪くて怖いもの知らずで野次馬なだけなんだ」 「ずいぶんね、ヤムチャ」 なんとかその場をとりつくろおうとするヤムチャの必死の努力もむなしく、ブルマは彼の肩越しに伸び上がり、ベジータ目がけてとどめのセリフを吐いた。 「悔しかったら女の子とつきあってみなさいよ。どうせ今まで闘い以外で女性に触れたことなんてないんでしょ!!」 「バッ、バカ! やめろ」 ブルマの口をふさごうとしてヤムチャは振り向いた。が、その必要はなかった。彼女はびっくりした顔で口をつぐんでいた。 その視線の先にはバカにしたように見返すベジータの顔があった。唇には自分に向けられた的外れの侮辱に対する冷笑が薄く浮かんでいる。 ぼうぜんとブルマがつぶやいた。 「え……恋人……いたの? ……嘘でしょ」 「おまえに答える必要などない」 ナプキンで口を拭い、それを乱暴にテーブルの上に放り投げるとベジータはダイニングを出て行った。 「おまえってほんとに無鉄砲なやつだよな」 「今に殺されちゃうよ、ブルマさん」 ヤムチャとプーアルは冷や汗を拭きながらブルマをはさんで口々に言った。 「なによ。あんなやつに恋人なんていたはずないじゃない。見栄はっちゃって!」 負け惜しみのようにブルマが唇をとがらせると、母親がたしなめた。 「あら、ベジータちゃんはステキよ。ブルマさんにはそれがわからないだけ」 「母さんがゲテモノ趣味なのよ」 目をむく父親を無視して、ブルマは続けた。 「あいつ、絶対に女には免疫ないと思ってたのに。そうよ、女なんか興味ありませんて顔しちゃって……。じゃあなんであたしに手を出さないのよ!」 今度はヤムチャが目をむいた。 「ブルマ、おまえまさかベジータのやつを―――」 「ちっ、違うわよっ。あたしを女として見ていないのが腹が立つだけよ。頼まれたってゴメンだわ。あんな戦闘マニア!」 ヤムチャはいまいち納得していないような顔をして黙った。そこへ給仕ロボットが食後のお茶を運んできたので、この話題は立ち消えとなった。 お茶がすむと両親は連れ立って席をはずした。プーアルも気を利かせて後について行く。 「やっぱりここは落ち着くよ。飯はうまいし、おやじさんやおふくろさんは家族みたいに扱ってくれるし。それに……」 ヤムチャは軽くブルマにキスして言った。「おまえがいるし」 「あたしの部屋へ行く? ヤムチャ」 「そうだな……」ヤムチャは少し頬を赤らめて小さく咳払いした。 ブルマは微笑みを浮かべて彼を見た。本当にこの男はいつまでたってもこういうところが昔のままだ。 ふたりは腕をからめ合ったままブルマの部屋へ消えた。 |