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気がつけば Fall in Love

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第5章

 結婚式を2週間後にひかえたある日の夕食後、ブルマはリビングルームにいた母親をつかまえて、ヤムチャと実はケンカ別れしていたことをついに打ち明けた。
 母親は穏やかに微笑んで言った。
「大丈夫よ、ブルマさん。きっとヤムチャちゃんはひょっこり帰ってくるわ」
 だが、やさしい慰めの言葉もブルマには虚しく響く。帰る気があるならとうに連絡のひとつも寄越しているだろう。音沙汰がないことがなにより明確な意思表示ではないか。
 ヤムチャが自分の人生からいなくなる―――そんなことは今まで考えてみたこともなかった。
「もういいのよ、母さん。それより悪いけど教会の予約をキャンセルして、招待客に詫び状を発送しておいてくれる? 用意はしてあるから」
 お願いね、と念を押してブルマは自分の部屋へ戻った。
 さしあたっての大仕事だったエアバイクの発表会が無事済んでホッとしたこともあり、どっと疲れが出てきた。彼女はバスタブに一杯湯を張り、深々と体を沈めて目を閉じた。

 その頃、ベジータは重力室にいた。いくら血を吐くような努力を重ねても、超サイヤ人になれるどころか、だんだんとそこから遠ざかっていくような気さえしてくる。1年前に重力室で特訓を始めた頃は、おもしろいようにパワーが増したというのに。
(もう一度派手にここをぶっ壊すか。そうすればまたパワーアップするかもしれんな)
 自嘲気味に彼は考えた。
 初代の重力室はカプセルコーポの庭に設置した宇宙船の中に作られた。ところが出来た早々、そこは彼が無理な特訓をくり返したせいで、跡形もなく破壊されてしまったのだ。
 その時の事故がもとでベジータは瀕死の重傷を負ったが、皮肉にもそのおかげで格段に力をつけることができたのである。死の淵から蘇るたびに強くなるというサイヤ人の特質のせいだった。
 当時のことは思い出したくもなかった。傷がもとで高熱を出し、何日も生死の境をさまよっていた間、彼は四六時中、悪夢に苦しめられた。ナメック星での屈辱的な死、そしてカカロットやあの謎の少年が超サイヤ人となって自分をあざ笑う夢だった。
 その上―――もっとも情けなく、ふがいない悪夢といえば、あの女の夢だ。
 あれを夢だと認めることは耐えがたい屈辱だった。あの女が夢の中にまででしゃばってくることじたい頭にくるというのに、その内容たるや、とても誇り高き戦闘民族サイヤ人の王子である自分が見る夢ではない。
―――苦痛のうめきを上げるたびに彼の手を握り締めた温かく柔らかな手。「大丈夫よ、大丈夫よ」と、まるで子どもをあやすかのように囁いた穏やかでやさしい声―――確かにあの下品な女の声だった。

「くそっ」
 ベジータは振り払うようにかぶりを振った。だが、そんなことでは記憶にしっかり刻み込まれたあの夢の思い出は消えてくれそうになかった。
(心が弱っていたからだ。ボロボロになった体が精神まで腐らせ、あんな夢を見させたのだ。いっそ現実だったなら……)
 彼はまたかぶりを振った。
(バカな。あの騒々しく無神経な女がそんなしおらしいことをするわけがない。第一あの女は否定したんだ)

―――あたしが? あんたのこと看病なんてするわけないじゃない。なに寝言いってんのよ。

 おまえはずっとここにいたのか―――目を覚ました時、そばにいたブルマにベジータが質問した、その答がこれだった。

「ちくしょう!」
 ベジータは乱暴に重力装置のスイッチを切った。ふだんならあと2〜3時間は続けるところだが、今夜はこれ以上やる気になどなれない。
 自室に戻る道すがら、ベジータは破れて垂れ下がってくるランニングを引きちぎり、舌打ちした。これで今日は3回目だ。地球製のトレーニングウェアは彼の激しい特訓にあっという間に擦り切れてしまう。そのたびに着替えるのも面倒だった。
 彼は科学の粋を集めて作られたフリーザ軍の戦闘服が懐かしかった。クロゼットの中には地球で暮らすようになるまで着ていたボロボロの戦闘服が放り込んである。
 もはやこれに手を通すことはないのか。
(待てよ)ベジータの目が輝いた。(何もないところから戦闘服を作るのは地球人の科学力では無理かもしれんが、見本があれば可能じゃないのか?)
 彼はボロきれと化した戦闘服をひっつかむと、ブリーフ博士のもとへと急いだ。


4章だ! / 6章だ!
(icon作成:みなみさん)

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