気がつけば Fall in Love
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第15章
窓辺に置かれたベンジャミンの葉が朝の光に反射している。空の上ではおしゃべりな小鳥たちが今日のこの日を祝福しているかのように、かしましくさえずっていた。 「きれいよぉ、ブルマさん」 母親の感極まったような吐息混じりの声を聞きながら、ブルマは鏡に向かってまっすぐ顔を上げた。 頭にベールをまとい、レースとビーズを散りばめた白いミニドレスに身を包んだ女が、鏡の向こうからじっとこちらを見つめている。 (あたしは今日、ヤムチャの妻になる) 自分に言い聞かせるように何度も心の中でつぶやく。 「どうしたの、緊張してるの。あなたらしくもないわね」 小首を傾げて微笑む母親に唇だけで微笑み返し、ブルマは椅子から立ち上がりながら言った。 「父さんに見せてくるわ」 それが口実なのは自分でもわかっていた。 重力装置の修理をしている父親のもとへと歩を進めながら、いつのまにか自分の目はあの男の姿を探している。 重力室が見える廊下の端まで来ると、ブリーフ博士はちょうど自室へ戻る途中だった。 「重力装置? ああ、やっとさっき直ったところだよ」 娘の晴れ姿を目を細めて誉めた後で、突き当たりに見えている重力室のドアを、親指を立てて指し示しながら父親は答えた。 「式の時間までまだ少しあるんだろう。どれちょっとひと眠りするかな。ゆうべはほとんど寝てないんだ。いや参ったよ」 片手で肩を揉みほぐしながら、あくび混じりにぼやく父親をブルマは引きとめた。 「あいつは?」 「え?―――ああ、ベジータくんか。まだ直ったと知らせてないから部屋にいるだろう。どうかしたのか」 「……ううん、なんでもないわ」 どことなく落ち着かなげにあたりを気にしている娘をブリーフ博士はじっと見つめ、静かに訊いた。 「これでいいんだろうね」 「なにが?」 「相手がヤムチャくんで後悔はしないんだな」 「やだ、今さら何を言うの、父さん。そりゃヤムチャは浮気性だけど……」 「そういうことを言ってるんじゃない」 「父さん……」 ブルマは父親の目を見つめ返した。眼鏡の奥の穏やかな瞳に心の動揺を見透かされそうで、わざと明るく「あたしもう行かなきゃ」と告げると、ベールをひるがえしてそそくさとその場を離れた。 その後姿を複雑な表情で見送りながら、ブリーフ博士はじっと立ちつくしていた。 「重力室は使えるようになったんだろうな」 ふいに恫喝するような声が響いた。振り向くと戦闘服に身を包んだベジータが片手を腰に当てて立っている。 「直ったことは直ったが……。またこもるつもりか?」 「当然だ」 きびすを返して行こうとする男の背にブリーフ博士は声をかけた。 「もう爆発騒ぎは起こさんでくれよ。―――建物の心配をしておるんじゃない。シールドを強化して居住区には損害を与えんようにしてあるから、その点は大丈夫だ―――わしが心配しておるのはきみの体だよ」 嘲笑を含んだ返事が男の肩越しに返ってくる。 「ふん、いらぬお節介だ」 「それにきみにもしものことがあったら娘が悲しむ。前の爆発事故の時には3日3晩寝ずにつきっきりできみのことを看病していたんだぞ」 白いブーツの先が止まった。 「あの子は意地っぱりなところがあるから素直には言わんだろうが、きみのことを一番心配していたのはブルマなんだよ」 ベジータはゆっくりとブリーフ博士を振り返った。いつもと同じ険しいその表情から心の内は読めない。 「今日くらい修行はやめて、あれの結婚式に出てやってくれないか」 「オレには関係ない」 無表情に言い捨てるとベジータは重力室のドアをくぐる。重い扉が彼の背中を隠すように音を立てて閉まった。 |