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気がつけば Fall in Love

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第19章(最終章)

 ベジータの覚醒で吹き飛んだ重力室の復旧作業が急ピッチで進められる中、ヤムチャはプーアルを連れてカプセルコーポを出発することにした。今度こそ本当に修行の旅に出るのである。
「ごめんね、ヤムチャ」
 玄関の外まで見送りに出たブルマはすまなそうに告げた。結局ふたりの結婚は、あのままなし崩しに流れてしまったのだ。
 ヤムチャはやや気落ちしながら笑って答えた。
「いいさ。気にすんなよ。また気が変わったら言ってくれ。オレはいつでもすっとんで帰ってくるから」
「そうね」
 言葉とは裏腹によそよそしく微笑む元婚約者に、せめてお別れのキスをしようとかがんだヤムチャの耳に、どこからかベジータの大声が聞こえてきた。
「ブルマ! おい、ブルマ! どこにいやがる。いたら返事をしやがれ!! 重力室はまだ直らんのか!!」
 ブルマは眉をつりあげ、「あんのぉ〜」とつぶやくと、ヤムチャに「じゃあ気をつけてね。また連絡して」と手を振り、さっさと家の中へ戻ってしまった。

 開いた窓からふたりの言い合う声が聞こえてくる。
「ブルマブルマってうるさいわよ! あたしはあんたの奥さんじゃないんだからね!!」
「当たり前だ! 誰がおまえのようなジャジャ馬、妻にするか!」
「そんなこと言っていいのかしら。後で逃がした魚は大きかったなんて後悔しても遅いのよ」
「その厚かましい自信はいったいどこからわいてくるんだ。おまえが人類最後の女でもお断りだ!」

「楽しそうだな、あのふたり……」
 ポツリとつぶやくと、ヤムチャはプーアルに「行こうか」と促した。
「いいんですか、ヤムチャさま。このまま行っても」
「いいさ」ヤムチャは力なく言った。「プーアル、なんかいや〜な予感がするんだ。なあ、オレひとりだけ一生結婚できないのかも……」
「そんな、ヤムチャさま、まだクリリンさんがいるじゃありませんか」
「そ、そうか。クリリンがいたっけ。そうだな。天津飯と3人で独身同盟でも作るか」
 夕暮れが迫る西の都の雑踏の中へ、虚しく励ましあいながら二つの影が消えて行った。

 重力室前の廊下では、まだふたりの言い合いが続いていた。
「だいたいおまえは、男なら誰でも自分になびくと思ってやがる。その自意識過剰なところが気にくわん」
「ふーん」男を横目でじろっと見やり、ブルマは腕組みをしながら言い返した。「そんなこと言って、無理やりキスしたのは誰かしら」
「うっ」
 ベジータは言葉に詰まり、真っ赤になってたじろいだ。
「あ、あの時は……オレもヤケになって……ま、魔が差しただけだ!!」
「ふぅーん……」
「う、うるさい、うるさい、うるさいっっ! おまえなんか趣味じゃないと言ってるんだ!!」
 ブルマはいきなり寄っていってベジータの首に両腕を回すと、素早く唇にキスした。
「なっ―――何をしやがる!」
「あんた、王子様のくせに往生際が悪いわよ。いいかげんあたしのことが好きだって認めたらどう?」
「誰がおまえな―――」
 反駁しようとする言葉を再びキスでさえぎると、ブルマはベジータの瞳をのぞきこみ、いたずらっぽい目で笑った。
「あたしにこんなふうにされるのは嫌い?」
 男は赤くなった顔をそむけたままで答えた。
「離れろ。オレを甘く見ると後悔することになる」
「あら、こわい顔」
「離れろと言ってるんだ。殺すぞ」
「いやよ」
 キッと見すえると、ベジータはいきなりブルマを砂袋でも担ぐようにして肩の上に抱え上げた。
「きゃっ、な、何するのよ!―――バカバカ! 降ろしてったら!!」
 ブルマは両方の拳でどんどんとベジータの背中を叩きながら、足をばたつかせて抵抗した。が、男の強い力にかなうはずもない。廊下を大股で歩いてゆくベジータに担がれたまま、なすすべもなく運ばれてゆく。
 ドアをくぐると、見たことのある殺風景な調度が、逆さまになったブルマの目に飛び込んできた。ベジータの部屋だ。乱暴にベッドの上に放り投げられ、ブルマはようやく男の意図を察した。ベジータは眉を寄せて彼女を見下ろしたまま、傲然と言った。
「オレを甘く見るなと言ったはずだ」
「正直に言えば? あたしを抱きたいって」
「だまれ!」
 彼はブルマの細い両腕を押さえつけて、有無を言わせずその唇をふさいだ。
 ブルマは体の力を抜いて、男の冷淡を装う言葉とは反対に、猛るような激しさと熱を帯びてゆく口づけに優しく応え始める。
 やがてベジータは唇を離すと、ブルマが抵抗しないのを見届けて、押さえつけていた腕を解放した。そして彼女の背中に両腕を回し、華奢な体を扱いかねるようにぎこちなく抱きしめた。
 武骨な手が伸びて小さな手のひらを探り、温もりを確かめるようにそっと握りしめる。それは、この男にしては意外すぎるほど繊細な動作だった。

「……いいことを教えてあげる」
 男の耳もとに柔らかな女の声が囁く。
「あたしもあんたが好きよ」
「迷惑だ」
「ほんっとにかわいくないわね」
「おまえに言われたくない!」

 世話の焼ける男―――――
 笑いたくなるのをかろうじてこらえながら、ブルマはこの不器用な求愛を受け入れるために、たくましい背中に両腕を回してしっかりと抱きしめた。


(おわり)

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(あとがき)
 この話は1995年頃に書いた「3年間」という話が土台です。その頃私はインターネットよりパソコン通信(PC-VAN)をよくやっていました。DBの話が思う存分出来る場所がなくて、「ベジータが大好きなんです!!」と思いの丈をマンガやアニメの掲示板で告白(笑)したりもしたのですが、気を使った誰かが「僕の会社にベジータと髪の生え際が似ている男がいますよ」とレスを返してくれる程度で、さっぱり同志に会えませんでした。(;´д` ) トホホ
 当時「PATA'S GARDEN!」さんがあったら狂喜乱舞、感涙にむせんで入り浸っていたのになあ(笑)

 まあ、そんな感じの毎日で煩悩を発散させる場がなかったからでしょうね。原作で描かれなかったベジブルのなれ初めの真相が知りたくて知りたくて……それなら自分で書いてやろうと思って書いたのが「3年間」という話でした。私は昔、漫画家になりたかったので、ストーリーを組み立てるのはもともと好きだったんです。
 「性欲もすごいの?」とか、エロ本とか、ブルマのオールヌード目撃とか、ああいう少女マンガのベタなラブコメエピソードをひとりで書いて、ひとりでニヤニヤしてたんですね。はい、ヘンタイですね; 
 もちろん他人に見せるつもりも機会もなく、ダンナに見られないよう、圧縮をかけてハードディスクの奥深く転がしておきました。

 そうこうするうち、インターネットをやるようになり、DBサイト巡りをしていて(当時は片手で数えられるほどしかサイトがなかった)、あるファンサイトの「DB文庫」という小説投稿コーナーで「Honey Moon」の存在を知りました。「DB文庫」にはいろいろなテーマの小説を訪問者が匿名で代わる代わるちょっとずつ書いていくという趣旨の長編リレー小説というページがあり、そんな中でベジブルのラブストーリーがテーマのものが「Honey Moon」でした。見つけたときは大感激! もう、貪るように読みましたよ〜。

 他の方もときどきは書かれていましたが、メイン作家はRINさんでした。私は今でも、思い出に残るベジブル初体験がRINさんの作品で本当にラッキーだったと思うのですが、それほど彼女の書かれる文章や構成力は素晴らしいものでした。

 そのうち、読んでいるだけでは飽き足らなくなって、触発されて自分も「Honey Moon」に参加させてもらうことになりました。今思えば怖いもの知らずなことをしたもんだ。
 私が書くべジブルは、本来、もっと甘々で子どもっぽいのですが、RINさんの文章にかなり影響を受けたことを白状せねばなりません(といって、うまくなったというわけではないが(^^;))。
 そして、いつしか小説を書く楽しみに目覚め、オールキャラが登場するギャグや悟空とチチの話やピッコロに恋愛させる話なども書き散らしました。それらは加筆訂正してうちに載せてあるので、よかったらどうぞ。

 このサイトを2000年4月に立ち上げた時、「3年間」は載せるつもりはありませんでした。もともと自分が読むために書いたもので、エンタテインメントとして書いたものじゃなかったので。それをなぜ引っ張り出してきたかと言うと……コンテンツがなかったからなんですね、はっきり言って(苦笑)

 でも、載せるからにはちょっとは読者を意識した形にしたいと思って、内容を大幅に変えました。本当はラストはベジータの覚醒で重力室が大爆発を起こし、彼が死んだと思い込んだブルマが自分の気持ちに気づいてハッピーエンドとなるというものでした。
 そのまま使ってもいいかな〜と書いていくうちに、「卒業」のパロディみたいなやつを思いついたので、そっちへ方向転換しました。

 更新が早いのだけが取柄の私が、最終章は珍しく1週間以上かかってしまいました。ラストを2通り書いて、どっちにするか迷ったからなんです。一つはふたりが結ばれるだろうな〜と暗示して、ほのぼの終わるもの。二つ目はこの煩悩丸出しのやつです(笑) 上品に終わりたかったのですが、煩悩に負けました。笑って許してやってください。

 長々と昔話を書いてしまいましたが、ここまでおつきあいありがとうございました。




18章だ! / おしまい
(icon作成:みなみさん)

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