気がつけば Fall in Love
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第7章
一方、ブルマはというと、ようやく気持ちが落ち着いて、あの野蛮で失礼なサイヤ人が出ていったドアをぼんやり見つめていた。 ふと気づくと、ドアを入ったところにボロボロの服が落ちている。そのすぐそばには穴だらけの鎧のような物まで転がっていた。ブルマはこれらの品物に見覚えがあった。ベジータが昔着ていた戦闘服だ。 「なんだってこんなものを今頃引っぱり出してきたのかしら」 真っ赤になって取り乱していた、先ほどのベジータの姿が目に浮かんでくる。 「ふふ……変なやつ!」 彼女の口元に微笑みが広がった。 床に転がった戦闘服を拾い上げ、穴だらけのプロテクターをそっとなでてみる。 (あいつ……これを着て、いったいどれほどの修羅場をくぐり抜けてきたのかしら) ふと彼女の手が止まった。 「あ……なーるほど、ね」 あの男が自分の部屋を訪ねてきた訳がやっとわかった。そういうことか……。 「あたしにこれを作ってみろってことね。ようし、やってやろうじゃない」 戦闘服の開発に取りかかってから5日目の夕方。 アンダーウェアの方は簡単だったが、特殊ラバーで出来ているというプロテクターの方には苦労させられた。それでももうおおよその形は出来ていて、あとは細かいところの調整をすればいいだけだ。 研究室の中で、ほぼできあがったプロテクターを目の前に掲げてみる。まるで持ってないみたいに軽い。 早くあいつの驚く顔が見たい。そう思うといてもたってもいられなくなった。 試作品の戦闘服とグローブ、ブーツ一式をスーツケースに入れ、持ち手の横にあるボタンを押すと、たちまちスーツケースは人差し指ほどのカプセルの中に収まった。それをジーンズのポケットにつっこみ、古いほうの戦闘服をつかんで、ブルマはようようと重力室へ向かった。 重力室の前まで来ると、彼女はちょっと立ち止まって息を吸い込んだ。インタフォンの通話ボタンを押す。 「ベジータいる? ブルマよ。ちょっと見てもらいたいものがあるの」 スピーカーは無言。 (あいつめ、無視する気ね。重力装置が動いてる。いるのはわかってるんだから) 「これ、止めるわよ」 返事も待たずに重力装置のスイッチを外から切ると、古い方の戦闘服を後ろ手に隠し持ってずんずん中へ進んでいった。宙に浮いていたベジータが仕方なく降りてくる。 相変わらず苦虫を噛みつぶしたような顔だ。上半身は裸で下半身は膝までの黒いスパッツをはいているが、すでにあちこち擦り切れてしまっている。 このあいだのことが気まずいのか、ブルマの方を見ようともせず彼は言った。 「邪魔をするな。出ていけ」 冷たくあしらわれてひるむブルマではない。持ってきた古い戦闘服をベジータの目の前に突き出すと、挑むように言った。 「これ、返しに来たの。あんた、これと同じものをあたしに作ってもらいたかったんでしょ」 戦闘服にチラッと目をやって舌打ちすると、ベジータはますます不機嫌そうにそっぽを向く。ブルマはもったいぶってポケットからカプセルを取り出し、彼の目の前でそれを振って見せた。 「さて、これは何でしょう」 半信半疑のまま、ベジータが目を見張った。 「まさか……」 「ピンポーン! あんたが考えてる通りのものでーす!」 あっと思ったベジータが手に取ろうとするより早く、ブルマはその手を体の後ろにひっこめた。 「よこせ!」 「人に物を頼むのにその態度はないんじゃないかしら?」 なんとかブルマの体に触れずにカプセルを奪おうとするベジータを、ひらりひらりと体をかわしてよけながら、ブルマはくすくす笑った。 「おいっ、女! オレを怒らせないほうがいいぜ。オレは気に入らないやつは女だろうと誰だろうと―――」 「あたしの名は『女』じゃなくてブルマよ、ブルマ!! ブルマブルマブルマ!! ブルマだって言ってるでしょ!!!」 すごみをきかせようとするベジータのもくろみは、ブルマが彼の鼻先にぬっと顔をつきだしてまくしたてたせいで失敗に終わった。 なめらかな肌にきらきらと輝く薄青い瞳。つんとした唇はほころびかけた花びらに似ている。間近で見る女は、認めたくはないが充分に美しかった。 今まで自分と命のやり取りをしてきたつわものたちと違い、この女はいつも思いもよらない方向からベジータに奇襲をしかけてくる。それをいまだに先読みすることができない自分が、われながら腹立たしかった。 |