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気がつけば Fall in Love

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第2章

  自室に入るとブルマは、そのまま窓際まで歩いていってカーテンを払い、窓を大きく開けた。初夏の透き通った風が、彼女の髪にたわむれるように舞い込んでくる。
 白く光る街並みの上の空はどこまでも青く、絹でできた小さな羊のような雲がふたつみっつ、ぽっかりと浮かんでいる。気持ちのいい午後だった。
 なのに彼女の心はもやもやと晴れない。それが不実な恋人によるものなのか、無礼な居候によるものなのかは自分でもいまひとつわからなかった。

 1年前のことだ。未来から来た謎の少年が予告した人造人間の襲来にそなえ、戦士たちの修行の日々が始まった。
 その日のうちにヤムチャは言ったのだ。
―――オレたちそろそろ結婚しないか、ブルマ。
 彼が求婚したのは長いつきあいでそれが初めてのことだった。今まで何度でもそんな機会はあったというのに、いつまでたっても彼はブルマに対してはオクテなままなのだ。
 それは、たとえ彼がたびたび浮気をしようとも、本当に愛しているのはブルマだけだという証だったのかもしれないが……。
 半年前にケンカをしてカプセルコーポを出て行ったきり、ヤムチャは1本の電話、1通の手紙すら寄越さない。
 結婚式まであと1ヶ月を切ってしまったというのに……。
(このぶんじゃ、教会にキャンセルの電話を入れたほうがよさそうね)
 ひとつため息をつき、ブルマは窓を閉めてカーテンを元に戻した。エアバイクのニューモデルの発表会が迫っているのだ。遅れている設計図を今日こそ仕上げなければ。
 彼女はクロゼットから作業着を取り出して手早く着替えると、自室からつながっている研究室のドアを開け、その向こうへ消えた。

 その夜―――仕事を一段落させて、気分転換に夜食でもとろうかとブルマがダイニングルームへ行くと、あのサイヤ人の男がひとりで山のような食料と闘っているところだった。
 トレーニングウエアは擦り切れ、全体的に薄汚れた感じで、あちこち擦り傷をこしらえている。どこか荒野で特訓して帰ってきたあと、シャワーも浴びずにここへ直行したらしい。
 ベジータは1年前、ブルマの父に無理を言って300Gの重力室を作らせて以来、もっぱらそこにこもって特訓に明け暮れていた。
 しかし、ライバル視している悟空を超えるどころか、いつまでたっても超サイヤ人になれる片鱗すら感じ取れないせいか、このところいら立ったようすで外へ飛び出してゆくことが多くなった。
 昼間、ブルマとぶつかったのも、ちょうど外へ出ようと焦っていたからだが、今までの彼なら廊下の曲がり角で不用意に人とぶつかるなどあり得ないことだった。それはそのまま、彼が精神的な余裕を失ってきていることを表していた。

 ダイニングルームに入ってきたブルマの姿を認めても、ベジータはちらっと一瞥しただけでまた皿に目を落とし、無言のままガツガツと咀嚼そしゃくしつづけている。
 そう、なにが気に入らないといって、この男のこういう無礼な態度がブルマは一番頭にくるのだ。
 この闘うことと食べることにしか興味のない朴念仁ぼくねんじんときたら、こんなふるいつきたくなるような美人がひとつ屋根の下にいるというのに、そんなことには全然気がつきもしない。
 いや、気づいてはいるのだろうが、壁にかかった絵画や水槽の熱帯魚と同じ程度にしか感じていないのだ。このことは、控えめに見積もっても世界で3本の指に入る美女と自負しているブルマにとって、相当プライドを傷つける大問題だった。
 ブルマはわざと音を立てて挑戦的に男の正面に座った。相手はまったく意にも止めないようすで、相も変わらず旺盛な食欲を見せている。
 なにか憎まれ口をきいてやろうと身構えたものの、男の頑丈な顎と白い歯がばりばりと皿の上のすべてのものを粉砕し、あとかたもなく飲み込んでいく壮観さについ見入ってしまう。
 彼女の遠慮のない視線にようやくベジータは顔を上げて言った。
「なんだ。何か言いたいことでもあるのか」
 別に……と言いかけて、ブルマは日頃疑問に思っていたことをこの際聞いてみようと思った。
 何しろこの男ときたら、自分は言いたいことを言うくせに、こっちの言葉は聞こうともしないのだから、なかなかまともな会話が成り立たない。


1章だ! / 3章だ!
(icon作成:みなみさん)

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