深草元政夏日作日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞漢詩Ribengushi

　
　           　　　
       夏日作

　　　　　　　　　　　　　         　深草元政

夏日炎炎無奈長，
手揮團扇到斜陽。
火雲一片不消盡，
月在綠陰深處涼。

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夏日の作　

夏日　炎炎　　長きを　奈んともすること無く，
手に　團扇を揮ひて　　斜陽に到る。
火雲　一片　　消し盡さず，
月は　綠陰の　　深き處に在りて　涼し。

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◎　私感註釈

※深草元政：（釈）元政。江戸時代初期の僧侶。元和九年（１６２３年）～寛文八年（１６６８年）。京都深草に瑞光寺を開山して、深草の元政、艸山和尚と称される。俗姓は石井。通称は吉兵衛。幼名は源八郎。

※夏日作：夏の日に作った詩。

※夏日炎炎無奈長：夏の日射しが酷（ひど）く暑く、どうしようもない。　・夏日：夏の日射し。夏の日。　・炎炎：〔えんえん；yan2yan2○○〕酷（ひど）く暑いさま。熱気の強いさま。光り輝くさま。盛んに進むさま。「赤日炎炎」。蛇足になるが、「焔焔」〔えんえん；yan4yan4●●〕は、火が燃え始めて、火力がまだ盛んでないさま。　・無奈：どうしようもない。いかんともし難い。いたしかたがない。いかんともすることがない。無可奈何の略。南唐後主・李煜の『搗練子』「深院靜，小庭空，斷續寒砧斷續風。無奈夜長人不寐，數聲和月到簾。」や『相見歡』「林花謝了春紅，太匆匆。無奈朝來寒雨晩來風。　　臙脂涙，留人醉，幾時重。自是人生長恨　水長東。」とある。

※手揮團扇到斜陽：手にうちわ（を持って、）扇（あお）いで夕刻に到った。　・揮：ふる。ここでは､（うちわで）扇（あお）ぐことになる｡　・團扇：うちわ。　・到：（…に）いたる。　・斜陽：夕陽。ここでは､夕刻のことを謂う｡

※火雲一片不消盡：暑い夏の雲が一面に（あって、）消えてしまわない。　・火雲：暑い夏の雲。入道雲を謂う。　・一片：三義あり：①一面に。②ひとかけらの。③（缺けた）片側。片破れ。　①の意では、李煜の『蝶戀花』「遙夜亭皋閑信。乍過淸明，早覺傷春暮。數點雨聲風約住。朦朧淡月雲來去。　　　桃李依依春暗度。誰在秋千，笑裏低低語？一片芳心千萬緒，人間沒個安排處！」や、陸游が『金錯刀行』「黄金錯刀白玉裝，夜穿窗扉出光芒。丈夫五十功未立，提刀獨立顧八荒。京華結交盡奇士，意氣相期共生死。千年史冊恥無名，一片丹心報天子。爾來從軍天漢濱，南山曉雪玉。嗚呼，楚雖三戸能亡秦，豈有堂堂中國空無人。」があり、②の意では李白の『哭晁卿衡』「日本晁卿辭帝都，征帆一片遶蓬壺。明月不歸沈碧海，白雲愁色滿蒼梧。」や、王之煥の『涼州詞』「黄河遠上白雲間，一片孤城萬仞山。羌笛何須怨楊柳，春風不度玉門關。」があり、③の意では、李白の『子夜呉歌』「長安一片月，萬戸擣衣聲。秋風吹不盡，總是玉關情。何日平胡虜，良人罷遠征。」がある。ここでは①か②の意で使っている。　・不消盡：消し尽くすことがない。蛇足になるが、「消不盡」とすると「消し尽くせない」「消しても尽きるない」の意になる。　・消盡：消えてしまう。

※月在綠陰深處涼：（やがて、宵闇が迫り）月は、緑の木かげの深いところにあって、涼しげ（になってきた）。　・在：…にある。…に存在している。　・綠陰：みどりの木かげ。青葉の茂った木かげ。なお、「緑陰」は〔りょくいん；lu4（lǜ）yin1●◎（この場合●○）〕で、詩の「○○」とすべきところで使い、「緑蔭」〔りょくいん；lu4（lǜ）yin4●●〕は詩の●●とすべきところで使う。　・涼：すずしい。秋の気配を謂うことばでもある。

◎　構成について

韻式は「AAA」。韻脚は「長陽涼」で、平水韻下平七陽。次の平仄はこの作品のもの。

●●○○○●○，（韻）
●○○●●○○。（韻）
●○●◎●○●，（ここの◎の用法は、●になる）
●●○○○●○。（韻）