一心是三界, 何往不自在。 譬如天上雲, 去住倶無碍。 |
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旅宿 感 有り
一心 是(こ)れ 三界,
何(いづ)くに往(ゆ)くとして 自在ならざらんや。
譬(たと)へば 天上の雲の 如く,
去住 倶(とも)に 碍(げ) 無し。
◎ 私感註釈 *****************
※深草元政:(釈)元政。江戸時代初期の僧侶。元和九年(1623年)〜寛文八年(1668年)。京都深草に瑞光寺を開山して、深草の元政、艸山和尚と称される。俗姓は石井。通称は吉兵衛。幼名は源八郎。
※旅宿有感:旅先のやどで、心に感じることがあって詩にした。旅先での思い。
※一心是三界:わたしのひたすらな心は、三千世界を(自由自在に行き来するもので)。 *「一心是三界,何往不自在。」のことで「わたしのひたすらな心は、三千世界のどこをも自由自在に行き来できる。(…できないところはない。)」のこと。 ・一心:ひたすらな心。一つのこころ。仏教用語で、禅定(ぜんじょう)。真如。宇宙万有の本体。六波羅蜜の中の禅定。信心。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・三界:方々。どこでも。この世。世界。本来は仏教用語で、一切の衆生の生死輪廻する「慾界(食慾、淫慾のある人々の世界)、色界(食慾、淫慾ははなれたが、物質にとらわれている人々の世界)、無色界(三昧の世界にはいり解脱を遂げた世界)」の三種の迷いの世界のこと。また、過去、現在、未来の三世を謂う。三千大千世界。
※何往不自在:どちらに行くにも、思いのままである。 ・何往:どちらに行く。いづくにか往かんとす。 ・自在:思いのままである。心のまま。束縛や障害のないこと。後出「無碍」に同じ。 ・何…不−:どのように…(う)とも…でないものはない。
※譬如天上雲:たとえていうのならば、空の上になろう。 ・譬如−:たとえていうのならば…になろう。たとえれば…のようだ。 ・天上:空の上。高い空。 ・雲:くも。人間世界を離れた超俗的な雰囲気を持つ語で、仏教、道教では、「仙」「天」の趣を漂わせる。ただの白い雲ではない。王維の『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」 や蘇の『汾上驚秋』「北風吹白雲, 萬里渡河汾。心緒逢搖落,秋聲不可聞。」 や、王之煥の『涼州詞』「黄河遠上白雲間,一片孤城萬仞山。羌笛何須怨楊柳,春風不度玉門關。」や、晩唐・杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」 や、李白の『憶東山』「不向東山久,薔薇幾度花。白雲還自散,明月落誰家。」 など、多く俗塵を超越したものとして詠まれる。
※去住倶無碍:行くことも留まることも、ともに自由自在である。 ・去住:行くことと留まること。 ・倶:ともに。 ・無碍:〔むげ;wu2ai4○●〕さまたげるものがない。とらわれることなく自由自在である。障碍(障害)のないこと。前出「自在」に同じ。=無碍。 ・碍:〔げ;ai4●〕さまたげ。障碍(書き換えでは「障害」)。
◎ 構成について
韻式は「aaa」。韻脚は「界在碍」で、平水韻去声十卦(界)。去声十一隊(碍在)。次の平仄はこの作品のもの。
●○●○●,(韻)
○●●●●。(韻)
●○○●○,
●●●○●。(韻)
平成18.11.14 |
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