與同志唱 | ||
西田税 | ||
滿朝醜吏蔽天光, 全州民生滔滔荒。 營私趨利忘國家, 享樂利己廢報效。 七千餘萬東方民, 擧國奏來亡國調。 嗟誰匡救第一士, 天俠慨然革命叫。 |
滿朝 の醜吏 天光 を蔽 ひ,
全州の民生滔滔 として荒る。
私 を營 み 利に趨 きて 國家を忘る,
享樂 己 に利して報效 を廢 らす。
七千餘萬 東方の民 ,
國を擧 げ奏 で來 る亡國 の調 。
嗟 誰 か匡救 の 第一士たる,
天俠 慨然 として 革命を叫 ぶ。
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◎ 私感註釈
※西田税:国家主義者。明治三十四年(1901年)〜昭和十二年(1937年)鳥取県の人。幼年学校、陸軍士官学校、陸軍大学を経て任務に就く。後、病気で退役。北一輝の日本改造法案大綱に深く共鳴する。維新同志会を結成して急進青年将校らの結合の中心となった。二・二六事件で、その精神的支柱と看做され、事件鎮圧後に逮捕。軍法会議で、北一輝とともに死刑判決を得、処刑される。西田税には『爲國』「同盟叛兮吾可殉,同盟誅兮吾可殉。幽囚未死秋欲暮,染血原頭落陽寒。」や『絶命詞』「天有愁兮地有難,涙潸潸兮地紛紛。醒一笑兮夢一痕,人間三十六春秋。」がある。
※与同志唱:(国家革新運動の)同志と唱う。
※満朝醜吏蔽天光:朝廷に満ちているみにくい官吏は、日の光(≒天皇の聖徳)をおおいかくしており。 ・満朝:朝廷に満ちていること。朝廷に列する人、全て。 ・醜吏:みにくい役人や、けがらわしい政治をする役人の謂い。 ・蔽:〔へい;bi4●〕おおいかくす。おおう。 ・天光:太陽の光。日光。ここでは、暗に「天皇の聖徳」を指している。
※全州民生滔滔荒:全国の人民の生活や生計は、広く荒れ果てている。 ・全州:全国、全日本、全大八洲の意。 ・民生:人民の生活や生計。 ・滔滔:〔たうたう;tao1tao1○○〕広大なさま。流れゆくさま。水が広々とたくさんあるさま。さかんに流れるさま。『懷沙』は「滔滔孟夏兮,草木莽莽。傷懷永哀兮,汨徂南土。」や北宋・曾鞏の『虞美人草』に「鴻門玉斗紛如雪,十萬降兵夜流血。咸陽宮殿三月紅,覇業已隨煙燼滅。剛強必死仁義王,陰陵失道非天亡。英雄本學萬人敵,何用屑屑悲紅粧。三軍散盡旌旗倒,玉帳佳人坐中老。香魂夜逐劍光飛,血化爲原上草。芳心寂莫寄寒枝,舊曲聞來似斂眉。哀怨徘徊愁不語,恰如初聽楚歌時。滔滔逝水流今古,漢楚興亡兩丘土。當年遺事久成空,慷慨樽前爲誰舞。」とある。
※営私趨利忘国家:私利私慾を謀り、国家という公(おおやけ)を忘れて。 ・営私:私利私慾を謀る謂い。 ・趨利:利益のある方向におもむく謂い。利権のある方向におもむく謂い。 ・国家:くにの意であるが、ここは、特に「個人、私」に対して、公(おおやけ)としての「国家」。
※享楽利己廃報効:自分のことだけを考えて楽しみに耽(ふけ)っている。 ・享楽:楽しみをうける。十分に楽しむ。 ・利己:自分の利益だけを考え、他人のことは顧(かえり)みないこと。 ・廃:すたれる。 ・報効:〔はうかう;bao4xiao4●●〕恩にむくいて力をつくす。功を立てて恩にむくいる。
※七千余万東方民:七千余万人の東方君子国の臣民は。 ・七千余万:総務省統計局の『人口の推移』からみれば昭和十、十五年の頃の日本の人口。作者の在世時期から見れば、昭和十二年頃の日本の人口。昭和十年:69,254,000人。 昭和十五年:72,147,000人。(国勢調査による人口73,114,308人から海外にいる軍人・軍属の推計数1,181,000人を差し引いた補正人口。)。 ・東方民:東方の人民。ここでは、日本人を指す。
※挙国奏来亡国調:国中の者が挙(こぞ)って、国をほろぼす音楽を奏(かな)で始めた。 ・挙国:国を挙(あ)げて。国中の者残らず。 ・奏来:かなでてくる。かなで始める。 ・亡国:国をほろぼすこと。ほろびた国。 ・調:音楽をかなでること。しらべ。 ・亡国調:ほろびた国の音楽。淫らで哀れな調子の音楽。=亡國之音、亡國之聲。『玉樹後庭花』のような音曲。本来は陳後主叔寶の作曲による曲名。この詩作が当時こう呼ばれていたか大いに疑わしい。正史や詩詞 に出てくる「玉樹後庭花」は、曲名の方。『南史』では「乃於光昭殿前起臨春、結綺、望仙三閣,高數十丈,並數十間。其窗、壁帶、縣、欄檻之類,皆以沈檀香爲之,又飾以金玉,間以珠翠,外施珠簾。……毎微風暫至,香聞數里,朝日初照,光映後庭。其下積石爲山,引水爲池,植以奇樹,雜以花藥。後主自居臨春閣,張貴妃居結綺閣,二貴嬪居望仙閣,並複道交相往來。……則使諸貴人及女學士與狎客共賦新詩,互相贈答。采其尤艷麗者,以爲曲調,被以新聲。選宮女有容色者以千百數,令習而歌之,分部迭進,持以相樂。其曲有玉樹後庭花、臨春樂等。其略云:「璧月夜夜滿,瓊樹朝朝新。」大抵所歸,皆美張貴妃、孔貴嬪之容色。」とある。陳叔寶の『玉樹後庭花』に「麗宇芳林對高閣,新粧艶質本傾城。映戸凝嬌乍不進,出帷含態笑相迎。妖姫臉似花含露,玉樹流光照後庭。」とあり南朝・陳の陳叔寶に『玉樹後庭花』「麗宇芳林對高閣,新粧艶質本傾城。映戸凝嬌乍不進,出帷含態笑相迎。妖姫臉似花含露,玉樹流光照後庭。」とある。
※嗟誰匡救第一士:ああ、一体誰が(難儀に瀕した祖国を)正し救う第一番目の人物となろうか。 ・嗟:〔さ;jie1○〕ああ。感嘆・歎きの声。また、歎く。 ・匡救:〔きゃうきう;kuang1jiu4○●〕正し救う。 ・第一士:第一番目の人物。あるいは、北一輝のことか。
※天侠慨然革命叫:天に替わって不義を討つ任侠の徒が憤(いきどお)り歎(なげ)いて、革命を叫んでいる。 *「天侠慨然革命叫」は、本来は「天侠慨然叫革命」とすべきもの。
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◎ 構成について
韻式は、「AAaAa」。韻脚は「光荒效調叫」で、現代日本語音の-ou韻(-oː韻)。この作品の平仄は、次の通り。平仄は特に考慮されていない。
●○●●●○○,(韻)
○○○○○○○。(韻)
○●●●●●○,
●●●●●●●。(韻)
●○○●○○○,
●●●○●●◎。(韻)
○○○●●●●,
○●●○●●●。(韻)
平成23.5.1 5.2 5.3 |
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