大阪繁昌詩 松島 | ||
石田魚門 |
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東風芳艸一時新, 年少易狂柳巷春。 春色映櫻臺榭下, 癡心蹈往落花塵。 |
東風 芳艸 一時に新なり,
年少 狂ひ易し 柳巷の春。
春色 櫻に映ず 臺榭の下,
癡心 蹈み往く 落花の塵。
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◎ 私感註釈
※石田魚門:明治九、十年出版の寶文堂『方今大阪繁昌記』の著者。奥附には、和歌山縣平民當時東京府下第四大區九小區小石川金富町××番地寄留となっている。
『大阪繁昌記』
二編二葉
※『大阪繁昌記』松島:明治初期の大阪市の繁昌を紹介して描いた随筆。この作品は、その中で詠われているトップを飾るもの。読み下しは『大阪繁昌記』本文に従う。 ・松島:当時の大阪にあったといわれる遊郭。明治初期に外国人居留者による性問題の防止をも目的として設立されたともいう。『大阪繁昌記』では「互市通商之客人,赤髮黄眼。遠國運送之商賈,赭顏赤脚。府内風流之蕩冶カ,命車於蛭子橋,買舟於太(ママ)K橋。尤疑蛭子大K。冨貴之客,來遊此地焉。余感盛世之樂境,聊賦風韻,以裝飾煙花之情地焉」とある。この詩は其二。
※東風芳草一時新:春風が、春の草を同時に新しくして。 ・東風:春風。 ・芳艸:よいかおりのする草。春の草。 ・一時:ここでは、「同時」の意で使われている。本来的な意は、ある一時期。その当時。その時かぎり。ここしばらく。当分の間。四季の中の一つ。
※年少易狂柳巷春:年若い者は、色街では、たやすく戯(たわ)け心を起こしやすい。 ・年少:年若い(者)。 ・易狂:たやすく戯(たわ)け心を起こしやすい。江戸・畫餅居士(中島棕隱)の『鴨東四時雜詞』に「京洛少年多易狂,平生賣錦識紅糚。癡心誤被春雲引,好夢樓前未夕陽。」とある。 ・柳巷:色街。花柳の巷(ちまた)。
※春色映櫻臺榭下:なまめかしい姿が、高殿の下(もと)で、桜に映(は)えて。 ・春色:なまめかしい姿。また、春景色。ここは両方の意。かけことば。 ・映:はえる。 ・臺榭:〔たいしゃ;tai2xie4○●〕うてな。たかどの。 ・榭:〔しゃ;xie4●〕屋根のあるものみ台。
※痴心踏往落花塵:分別をなくした心で、散り敷いた花びらを踏んで行く。 ・癡心:思慮分別をなくした心。愚かな心。前出・畫餅居士(中島棕隱)の『鴨東四時雜詞』に「京洛少年多易狂,平生賣錦識紅糚。癡心誤被春雲引,好夢樓前未夕陽。」とある。 ・蹈往:踏んで行く。 ・塵:ここでは、塵となった花びらのこと。中唐・劉禹錫の『元和十一年自朗州召至京戲贈看花諸君子』に「紫陌紅塵拂面來,無人不道看花回。玄キ觀裏桃千樹,盡是劉郎去後栽。」とあり、南宋・陸游の『卜算子・詠梅』に「驛外斷橋邊,寂寞開無主。已是黄昏獨自愁,更著風和雨。 無意苦爭春,一任羣芳妬。零落成泥碾作塵,只有香如故。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「新春塵」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
○●●○●●○。(韻)
○●●○○●●,
○○●●●○○。(韻)
平成23.11.1 |
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