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日本海大戰圖 | ||
今井金洲 |
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憐他波羅的艦隊, 萬里蹴波來有悔。 欲拯旅順亡僚艦, 寧入浦潮助要塞。 左翼右翼好安排, 作爲縦陣雙列來。 猛然衝入對馬峽, 其狀可見頗雄恢。 我軍提督固英武, 名聲早已冠今古。 令曰:「各員努力宜奮闘, 皇國興廢在此擧。」 提督一麾各艦靡, 砲撃頻頻誰能禦。 敵艦卅八舳艫銜, 對我彈丸非所堪。 獻艦降者四 戦沈者廿二, 脱列逃者九 傷就捕者三。 命撤敵旗掲旭旗, 猶擒敵將奏凱還。 嗚呼我軍原來爲義起, 義之所存豈沒理。 汝誇武國寇滿韓, 違背公法逾驕侈。 天皇嚇怒發義軍, 艦艦悉是義膽士。 旅順口仍日本海, 再撃敵艦全盡矣。 汝不聞元忽必烈清汝昌, 軍皆不義艦皆亡。 汝盍解乎神國神, 漫向東洋試飛揚。 允文允武 天子在, 爲義助弱又懲強。 寄語露廷君與臣: 「神國文武萬世長。」 |
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今井金洲:『金洲詩鈔』卷下 大正四年 |
他 を憐 む波羅的 艦隊,
萬里 波を蹴 り 來りて悔 有り。
旅順 を拯 はんと欲 して 僚艦を亡 ふよりも,
寧 ろ浦潮 に入りて 要塞を助けたらんと。
左翼 右翼 安排好 く,
縦陣と作爲 りて 雙列にて來 る。
猛然として衝 き入る對馬 峽,
其の狀 見る可 し頗 ぶる雄恢なるを。
我が軍 提督固 より英武,
名聲早 や已 に 今古に冠 たり。
令 して曰 く:「各員 努力宜 しく奮闘 すべし,
皇國 の興廢 此 の擧 に在り」と。
提督 一たび麾 せば 各艦靡 き,
砲撃頻頻 として誰 か能 く禦 がん。
敵艦卅八 舳艫 銜 み,
我が彈丸に對して堪 ふる所に非ず。
艦を獻じ 降りたる者は 四、 戦ひて 沈みたる者は 廿二,
列を脱し 逃れたる者は 九、傷 つき捕 に就 く者は 三。
敵旗を撤 てて旭旗 を掲 ぐるを 命じ,
猶ほ 敵將を擒 へ凱 を奏して還 る。
嗚呼 我が軍 原來 義の爲に起き,
義の存 する所豈 理を沒せんや。
汝 武國を誇りて 滿韓を寇 し,
公法に違背して逾 よ驕侈 。
天皇嚇怒 して 義軍を發し,
艦艦悉 く是れ 義膽の士。
旅順口仍 ほ 日本海,
再び敵艦を撃ちて 全て盡 せり。
汝 聞かずや元 の忽必烈 清 の汝昌 ,
軍 皆 不義なれば 艦 皆亡 ぶ。
汝 盍 ぞ解せざらん乎 神國の神を,
漫 りに 東洋に向 て 飛揚を試 んとは。
允文 允武 天子在 り,
義の爲 弱きを助けて 又た 強きを懲 らす。
語 を寄す 露廷の 君と臣とに:
「神國の文武 萬世に長 し」と。
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◎ 私感註釈
※今井金洲:『金洲詩鈔』卷下(和綴じ 非売品)の奥付には「大正四年七月十五日發行 大阪市西區九條中通○丁目○百○十○番地 今井惠太郎」とある。詩の内容から判断するに、明治初期から大正の初めの人。『金洲詩鈔』卷上にある『自序』では、詩を丸岡南陔に学んだ。家業である医師とならず、明治五年に出仕した。なお、詩の表現から感じることだが、作者は中国語を知っていたのではないか。
※日本海大戦圖:(日露戦争の)日本海海戦の絵(を見ての詩)。 ・日本海大戦:日露戦争中に行われた日露両海軍による日本海海戦を指す。1905年(明治三十八年)5月27日~28日。対馬沖海戦。 ・圖:絵や写真。
※憐他波羅的艦隊:(ロシアの)かのバルチック艦隊を憐れに思う。 ・他:彼(かれ)。 ・波羅的艦隊:「波羅的」〔バルト;Bo1luo2di4〕バルチック艦隊のこと。日露戦争時、ロシアが編成した「第二・第三太平洋艦隊」のことを指す。本来は、ロシア海軍のバルト海に展開する艦隊を指すが、(日本軍のために旅順港に封じ込められた極東の太平洋艦隊を救援するために、)新たに、バルト海所在の艦隊から戦力を引き抜いて編成した艦隊。
※万里蹴波来有悔:遥々(はるばる)と波を蹴立(けた)ててやって来たが、悔(く)いが残る。 ・蹴波来:波を蹴立ててくる。 ・悔:悔(く)い。くやむ。
※欲拯旅順亡僚艦:旅順を救おうとしたが、仲間の軍艦を失ってしまった。 ・欲:…ようとする。…たい。ほっす。 ・拯:〔しょう(じょう);zheng3●〕すくう。たすける。 ・旅順:旅順港。現・遼寧省の大連市の西部地区。黄海に面する軍港で、日清戦争後にロシアが租借して要塞を築き、ロシアの旅順艦隊(=第一太平洋艦隊)の母港となる。開戦後、日本軍のために、ロシアの太平洋艦隊は旅順港に封じ込められていた。なお、旅順攻略のため、陸軍側も血戦を強いられていた。旅順を護るように包む山々の中、標高二〇三メートルの高地奪取のために血を流したことを詠った乃木希典の『爾靈山』に「爾靈山嶮豈攀難,男子功名期克艱。銕血覆山山形改,萬人齊仰爾靈山。」とある。 ・亡:なくす意。 ・僚艦:同じ艦隊に所属する軍艦。味方の軍艦。ここでは、ロシアの軍艦のことになる。
※寧入浦潮助要塞:(思えば、旅順を救うことよりも、)むしろウラジオストックに入って、(ウラジオストック港の)要塞を助けた(ほうがよかっただろう)。 ・寧:〔ねい;ning4●〕それよりは。どちらかといえば。むしろ。 ・浦潮:ウラジオストック(=ウラジオストク)のこと。「浦潮(うらじお)」や「浦塩(うらじお)」は、「ウラジオストック」の日本語での宛て字。ロシアの太平洋側への玄関口である不凍港。=海參崴、符拉迪沃斯托克。ロシア帝国海軍のウラジオストック巡洋艦隊は、戦時には、日本側の通商破壊に当たった。 ・要塞:〔えうさい;yao4sai4●●〕軍港としてのウラジオストックの強化策としての要塞。
※左翼右翼好安排:(バルチック艦隊は)右側、左側(のどちらも)ほどよく(軍艦が)配置され。 ・好:ちゃんと。 ・安排:ほどよく並べる。ほどよく配置する。
※作為縦陣双列来:二列縦隊となって。 ・作為:…となる。…とする。 ・縦陣双列:二列縦隊。バルチック艦隊は二列縦隊で対馬海峡に現れた。
※猛然衝入対馬峡:対馬海峡に突入してきた。 ・衝入:突入する。 ・対馬峡:対馬海峡。バルチック艦隊は対馬海峡突破(1905年(明治三十八年)5月27日~28日)を企て、日本海開戦の主戦場となった。
※其状可見頗雄恢:そのさまは、すこぶる雄壮と見受けられた。 ・其状:そのさま。 ・可:…ことができる。 ・頗:〔は;po3(ただし、一般にはpo1と言う)●〕すこぶる。 ・雄恢:〔ゆうくゎい;xiong2hui1○○〕雄大である。宏壮である。
※我軍提督固英武:我が(日本)軍の東郷平八郎提督は、もとより武勇にすぐれており。 ・提督:艦隊の司令官、海軍の将官のことで、ここでは、東郷平八郎提督のことで、大日本帝国海軍の聯合艦隊司令長官に任じられていた。 ・固:もとより。 ・英武:武勇にすぐれている。
※名声早已冠今古:名声は、早くからすでに古今に冠たるものであった。 ・早已:〔zao3yi3●●〕とっくに。とうの昔から。早くからすでに。 ・冠:〔くゎん;guan4●〕第一等(を占める)。第一位(を占める)。第一(となる)。最優秀(となる)。かしら。本来の意は、かんむりをつける。ここは、前者の意。動詞。蛇足になるが、名詞の意「かんむり」は、〔くゎん;guan1○〕。
※令曰:「各員努力宜奮闘:下令して「(聯合艦隊将兵の)各員(は)一層、奮励努力セヨ(=各員一層奮勵努力セヨ)」…。 *聯合艦隊旗艦の三笠のZ旗に充てられていた文言であるところの「皇國ノ興廢此ノ一戰ニアリ、各員一層奮勵努力セヨ」の漢文である「皇國興廢在此一戦 各員一層奮勵努力」を詩句に詠み込んでいる。 ・曰:いうことには。いわく。 ・宜:〔ぎ;yi2○〕…したほうがよい。よろしく…べし。また、筋道にかなう。 ・奮闘:Z旗に充てられた文言では「奮勵」に該る。
※皇国興廃在此挙」:「皇国(=日本)ノ興廃(は、)此ノ一戦ニアリ(=皇國ノ興廢此ノ一戰ニアリ)」と言った。 ・皇国:天皇の治める国。すめらみくに。日本の称。 ・興廃:〔こうはい;xing1fei4○●〕興ると、すたれると。盛んになると、衰えると。 ・在:…にある。 ・此挙:Z旗に充てられた文言の「此ノ一戰」に該る。
※提督一麾各艦靡:(東郷平八郎)提督が一たび指図をすると、すぐに(聯合艦隊の)各艦はしたがい。 ・一:…すると(すぐに)…。一たび。 ・麾:〔き;hui1○〕指図する。合図する。 ・靡:〔び(ひ);mi3●〕したがう。なびく。
※砲撃頻頻誰能禦:(我が艦隊の)砲撃はしきりで、誰がふせぐことができようか。 ・頻頻:〔ひんぴん;pin2pin2○○〕しばしば。しきりに。 ・誰能:だれが…できようか。誰が…できる。 ・禦:ふせぐ。
※敵艦卅八舳艘銜:敵の(バルチック)艦隊の三十八隻は、船尾と船首が接しているかのように連なって縦隊で進んで(きたが)。 ・舳艫:〔ぢくろ;zhu2lu2●○〕船尾と船首。北宋・蘇軾の『前赤壁賦』に「『月明星稀,烏鵲南飛,』此非曹孟德之詩乎?西望夏口,東望武昌,山川相繆,鬱乎蒼蒼,此非孟德之困於周郞者乎?方其破荊州,下江陵,順流而東也,舳艫千里,旌旗蔽空,釃酒臨江,橫槊賦詩,固一世之雄也,而今安在哉?況吾與子漁樵於江渚之上,侶魚蝦而友麋鹿,駕一葉之輕舟,擧匏樽以相属;寄蜉蝣於天地,渺滄海之一粟。哀吾生之須臾,羨長江之無窮。挾飛仙以遨遊,抱明月而長終。知不可乎驟得,託遺響於悲風。」とある。 ・銜:〔かん;xian2○〕含む。「舳艘銜」で、船尾と船首が繋がり接しているかのように密接して艦隊(/船隊)が縦隊で進むさまを謂う。
※対我弾丸非所堪:我が軍の砲弾に堪えることがなかった。 ・所堪:たえるところ。【所+動詞】で名詞化表現。
※献艦降者四戦沈者廿二:艦を差し出して降伏したものは四隻で、戦って沈没したものは二十二隻(ママ 二十一隻?)で。 ・献艦降者四:降伏した四隻(ママ 六隻?) ・戦沈者廿二:戦って沈んだものは二十二隻(ママ 聯合艦隊による撃沈十六隻に自沈五隻の計二十一隻)。
※脱列逃者九傷就捕者三:艦隊の隊列から抜け出して(中立国やロシア領のウラジオストックへ)逃亡・逃走したものは九隻で、傷ついて拿捕されたものは三隻であった。 ・脱列逃者九:艦隊の隊列から抜け出して逃げ出したものは九隻(うち、中立国への逃亡:六隻に、ウラジオストックへの到達:三隻)。 ・傷就捕者三:拿捕は三隻(ママ 六隻?)。
※命撤敵旗掲旭旗:敵の旗(=ロシア海軍の聖アンドレイ旗)を取り除いて、旭日旗(=日本の軍艦旗である十六条旭日旗)を掲揚して。 ・撤:〔てつ;che4●〕捨(す)てる。取り除く。 ・旭旗:旭日旗のこと。旭日を意匠化した旗で、我が国軍の連隊旗・軍艦旗など。
※猶擒敵将奏凱還:なおかつ、敵将(のロジェストウェンスキー提督とその幕僚やネボガトフ提督ら)をとりこにした。 ・猶:なお。なおかつ。 ・擒:〔きん;qin2○〕捕える。生け捕る。とりこにする。 ・敵将:ここでは、第二、第三太平洋艦隊艦隊(バルチック艦隊)の司令長官であるロジェストヴェンスキー(=ロジェストウェンスキー)提督とその幕僚、また、ネボガトフ提督らを謂う。 ・奏凱:勝利の音楽を奏(かな)でる。凱歌を奏(かな)でる。 ・還:(行き先から)かえる。くるりと帰る。
※嗚呼我軍原来為義起:ああ、我が軍は元々、義のために立ち上がったのであり。 ・嗚呼:〔うこ;wu1hu1○○〕ああ。感嘆の声。 ・原来:元々。
※義之所存豈没理:大義のあるところに、どうして道理がないということがあろうか。 ・義之所存:大義のある側の意。大義のあるところの意。南宋・文天祥の『正氣歌』に「天地有正氣,雜然賦流形。下則爲河嶽,上則爲日星。於人曰浩然,沛乎塞蒼冥。皇路當淸夷,含和吐明庭。時窮節乃見,一一垂丹靑。……是氣所磅礴,凜烈萬古存。當其貫日月,生死安足論。地維賴以立,天柱賴以尊。三綱實繋命,道義爲之根。」とある。 ・豈:どうして…のことがあろうか。まさか…のはずはあるまい。あに…(ならん)や。 ・没理:〔ぼつり;mei2li3●●〕道理がない。
※汝誇武国寇満韓:おまえ(=ロシア)は強国であると自慢して、満洲の地と朝鮮半島を侵掠して。 ・汝:おまえ。なんぢ。ロシアを指す。 ・寇:〔こう;kou4●〕侵略する。あだする。かすめとる。 ・満韓:満洲の地と朝鮮半島。
※違背公法逾驕侈:国際公法にそむいて、一層、心がおごって贅沢していた。 ・違背:そむく。=違戻。 ・公法:万国公法、国際公法を謂う。 ・逾:〔ゆ;yu2○〕さらに。一層。ますます。いよいよ。 ・驕侈:〔けうし;jiao1chi3○●〕心がおごって贅沢する。
※天皇嚇怒発義軍:(我が)天皇は、あらあらしく怒(いか)って、義軍を進発させた。 ・嚇怒:〔かくど;he4(xia4)nu4●●〕あらあらしくいかる。ひどくおこる。 ・発:出す。出立する。
※艦艦悉是義胆士:どの鑑もどの艦も、ことごとく正義を重んじる心の持ち主で(満ちて)いる。 ・艦艦:どの鑑もどの艦も、の意。 ・悉是:ことごとく…である。 ・是:ここでは、副詞語尾として用いている。また、。…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・義胆:〔ぎたん;yi4dan3●●〕正義を重んじる心。
※旅順口仍日本海:旅順港の入り口から、なお日本海と。 ・旅順口:旅順港の入り口。旅順港。 ・-口:出入り口。 ・仍:〔じょう;reng2○〕よる。したがう。就く。重なる。また、すなわち。なお。また、しきりに。かさねがさね。
※再撃敵艦全尽矣:再度の攻撃(翌五月二十八日)で、敵艦隊を全滅させた。 ・再撃:再度の攻撃。海戦の第二日目(翌五月二十八日)の攻撃で、早朝の鬱陵島からの日本海方面への出撃を謂う。 ・尽矣:つきてしまった。 ・尽:つきる。 ・-矣:…てしまった。…た。語気詞で、完了や過去を表す。
※汝不聞元忽必烈清汝昌:おまえは、聞いたことがないのだろうか、元のフビライ(=クビライ)や清の丁汝昌のことを。 ・不聞-:(…を)聞いたことがあるだろう。(…ということを)聞いたことがないのか。聞かずや。 ・元忽必烈:元のフビライ(=クビライ)。元の初代皇帝で、モンゴル帝国の第五代の皇帝。元寇の首謀者。1274年(文永十一年)と1281年(弘安四年4)の二度に亘った元(蒙古/モンゴル)の日本侵略。日本側は、鎌倉武士の奮戦と神風に因って、これを斥けた。元軍の未帰還者一万三千五百余名、帰還者三名。 ・元:「元」は、中国での王朝名で、「大元」は漢風の正式国名。=「大元ウルス」。「蒙古」は民族名。元寇については、中国側の正史『元史・本紀・世祖三』に元から日本への働きかけの国書「皇帝奉書日本國王:朕惟自古小國之君,境土相接,尚務講信修睦,況我祖宗受天明命,奄有區夏,遐方異域畏威懷德者,不可悉數。………以至用兵,夫孰所好,王其圖之。」と日本の朝野を沸騰させた有名な一文がある。また、『元史・本紀・世祖八』には、対日戦の具体的な準備が、『元史・世祖九』には対日戦略が、『元史・外夷・高麗/日本』には日本との戦闘が詳しく記録されている。江戸後期・頼山陽『日本樂府・蒙古來』に「筑海颶氣連天黑,蔽海而來者何賊。蒙古來 來自北,東西次第期呑食。嚇得趙家老寡婦,持此來擬男兒國。相模太郞膽如甕,防海將士人各力。蒙古來 吾不怖,吾怖關東令如山。直前斫賊不許顧,倒吾檣 登虜艦。擒虜將 吾軍喊。可恨東風一驅附大濤 不使羶血盡膏日本刀。」とあり、頼山陽は自著『日本外史』巻之四に「仆檣架虜艦,登之擒虜將王冠者安達次郞、大友藏人踵進。虜終不能上岸,収據鷹島。時宗遣宇都宮貞綱,將兵援實政。未到閏月,大風雷,虜艦敗壞。少貳景資等因奮撃鏖虜兵。伏尸蔽海。海可歩而行。虜兵十萬,脱歸者纔三人。元不復窺我邊,時宗之力也。」と記述している。江戸末期・梁川星巌の『松永子登宅觀阿束冑歌』に「筑紫之北海之
,有石百丈可爲。我欲因之陵溟渤
,周覧八
覘九
。杳杳天低卑於地,魚龍出沒浪崔嵬。落日倒銜高句驪,滞冤流鬼渺悠哉。我時魂悸不能進,屏氣且息覇家臺。覇家臺下三千戸,鐘鼓饌玉稱樂土。中有松生磊人,招我滿堂羅尊俎。酒酣笑出阿束冑,妖鐵不死兀顱古。塞垣光景忽在目,搖搖風
鶏羽。嵯哉生乎何從得,如斯之器世未覩。憶昔大寇薄此津,旌旗慘憺金革震。是時天靈佐我威,叱咤雷車走
輪。須臾萬艦飛塵滅,能生還者僅三人。此冑無乃其所遺,古血模糊痕未泯。方今承平日無事,擧國銷兵鋳農器。雖然邊謀豈可疎,瀕海諸鎭嚴武備。異時蠢兒重伺我,請君手掲此冑示。作歌大笑倚欄角,風聲駕潮如鐃吹。」
のように作り、頼春水は『擬送人從軍』で「滄海爲池山是城,艨艟報警曷須驚。請看昔日鯨魚腹,葬得胡人十萬兵。」
とある。 ・清汝昌:清の丁汝昌のこと。清末の北洋艦隊の提督で、日清戦争では黄海の海戦での大敗後、日本軍に降伏して自決した。
※軍皆不義艦皆亡:出兵というものが、皆、正義に悖るものであれば、その艦隊は、皆、滅ぶということを。
※汝盍解乎神国神:おまえは、どうして神が護る国(=日本)の神を解(わか)ろうとしないで。 ・盍:〔かふ;he2●〕どうして…しないのか。なんぞ…ざる。反語・疑問を表す。 ・盍…乎:どうして…しないのか。なんぞ…や。 ・神国:日本国の美称。神が開き、神が護る国。
※漫向東洋試飛揚:むやみに東洋での飛躍を試みるとは。 ・漫:…するな。…するなかれ。また、みだりに。ほしいままに。むやみに。 ・向:…にて。…において。=於。 ・飛揚:高くあがる。舞い上がる。漢・高祖(劉邦)の『大風歌』に「大風起兮雲飛揚。威加海内兮歸故鄕。安得猛士兮守四方!」とある。
※允文允武 天子在:まことに文(ぶん)、まことに武(ぶ)の徳が兼ね備わった聖なる天子(が)。 ・允文允武:「ゐんぶんゐんぶ」「まことにぶん まことにぶ」文武の徳が兼ね備わること。天子をほめたたえることば。『詩經・魯頌・泮水』に「穆穆魯侯,敬明其德。敬慎威儀,維民之則。允文允武,昭假烈祖。靡有不孝,自求伊祜。」とある。 ・允:〔ゐん;yun3●〕まこと(に)。許す。みとめる。 ・天子:この詩は闕字法を採用しており、前出・「皇國」「天皇」とこの「天子」の上一字分空け、(全二者は改行ともとれる)て表記されている。闕字とは、文書の文中に敬意を表すべき文字が出てきたときに、これに敬意を表すために行われる書式の一つ。該当する用語の前に一字または二字分の空白を設けること。ここの句でいえば、「允文允武■天子在」のように赤字部分を空白とすること。
※為義助弱又懲強:正義のため、弱きを助けて、また、強きを懲らしめた。
※寄語露廷君与臣:ロシア朝廷の君主と臣下にことづてするが。 ・寄語:伝言をたのむ。言葉をあたえる。伝言する。ことづてする。=寄言。唐・寒山詩に「重巖我卜居,鳥道絶人跡。庭際何所有,白雲抱幽石。住茲凡幾年,屡見春冬易。寄語鐘鼎家,虚名定無益。」とあり、唐・牛嶠の『望江怨』に「東風急,惜別花時手頻執,羅帷愁獨入。馬嘶殘雨春蕪濕,倚門立。寄語薄情郞,粉香和涙泣。」
とある。 ・露廷:ロシア帝国の朝廷。 ・与:…と。
※神国文武万世長:神国(・日本)の文武は、永遠に続くものである。 ・万世:よろずよ。永久。万代。限りなく何代も続く永い世。 ・長:とこしえに。永遠に。
***********
◎ 構成について
韻式は、「aaaBBBcccccDD(D)eeeeeFFFFF」。韻脚は「隊悔塞 排來恢 武古擧闘禦 堪三(還) 起理侈士矣 昌亡揚強長」で、平水韻去声十一隊/上声十賄(悔)。上声七麌。下平十三覃(堪三)(なお、「還」は上平十五刪で、通韻不可。)上声四紙等。下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
○○○○●●●,(韻)
●●●○○●●。(韻)
●●●●○○●,
●●●○●●●。(韻)
●●●●●○○。(韻)
●○●●○●○。(韻)
●○○●●●●,
○●●●○○○。(韻)
●○○●●○●,(韻)
○○●●●○●。(韻)
●●●○●●○●●,
○●○●●●●。(韻)
○●○●●●○,(韻)
●●○○○○●。(韻)
●●●●●○○,
●●○○○●○。(韻)
●●●●●●○●●●,
●●○●●○●●●。(韻)
●●●○●●○,
○○●●●●○。
○○●○○○●●●,
●●●○●●●。理
(以下略)
平成24.11. 8 11. 9 11.10 11.11 11.12 平成25. 4. 2 |
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