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大阪繁昌詩 豐臣太閤 | ||
田中金峰 |
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太閤宿禰兵有神, 堅艦發個浪華津。 若敎太閤年三百, 亞魯佛英皆我臣。 |
太閤 宿禰 兵に神 有り,
堅艦 個 の浪華 津を發す。
若 し 太閤をして 年 三百ならしめば,
亞魯 佛英 皆 な 我が臣。
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◎ 私感註釈
※田中金峰:江戸時代後期の儒者。十九歳で歿す。弘化元年(1844年)~1862年(文久二年)。名は楽美。字は君安。通称は右馬三郎。祖は丹波の六田氏に出た大坂の儒医・田中華城(=田中顕美)の子。十四歳で門徒を聚め父の代りに『左傳』を講を講じた。詩文にもすぐれていたが、十九歳で肺結核のために死去。妙寿寺に葬られる。歿後に漢詩集『大阪繁昌詩』が、父の手により刊行された。著には、この『大阪繁昌詩』三巻(手許にある木版本は上中下・正続の計六巻 写真:上)の外に、『雜體詩』三巻、『文』一巻、『金字編』四巻、『金匱要略正義』一巻及び『漫録』三巻がある。
※豊臣太閤:豊臣秀吉太閤。 ・豊臣:豊臣秀吉を謂う。豊臣秀吉は、安土桃山時代の武将、関白、太閤。小者から身をおこし、織田信長の後を継いで天下を統一した。1536年~1598年。『大阪繁昌詩』の註記には「豊臣太閤。拔朝鮮。伐朱明。」とある。 ・太閤:尊称。豊臣秀吉に対する敬称。また豊臣秀吉のこと。本来は、摂政・太政(だいじょう)大臣に対する敬称。関白辞任後も、内覧の宣旨を被った人や関白の位を子に譲った人の称。
※太閤宿禰兵有神:太閤・豊臣秀吉や武内宿禰(たけのうちのすくね)の用兵は、神業のようで。 ・宿禰:〔すくね;su4ni3(xiu4,xiu3、mi2)●●〕すくね。武内宿禰(たけのうちのすくね)のことを謂う。武内宿禰は、大和朝廷の初期の景行・成務・仲哀・応神・仁徳の五代に二百四十四年間仕え、大臣となり、神功皇后を助けて新羅征伐に功があった。『大阪繁昌詩』の註記では、「武内宿禰。從 神功皇后。討三韓。」とある。 ・有神:生き生きとしている。元気がある。神がのりうつっている。神業(かみわざ)のようである。
※堅艦発個浪華津:堅固な軍艦で、この大阪港を出て行った。 ・堅艦:堅固な軍艦。 *豊臣秀吉は、文禄・慶長の役といった朝鮮征伐で、武内宿禰(たけのうちのすくね)は神功皇后をたすけて三韓征伐をしたことを指す。 ・個:この。これ。あの。あれ。物や場所を指すことば。⇒「箇」とすべきところ。盛唐・李白の『秋浦歌』に「白髮三千丈,縁愁似箇長。不知明鏡裏,何處得秋霜。」とあり、中唐・劉禹錫の『竹枝詞』に「巫峽蒼蒼煙雨時,淸猿啼在最高枝。箇裏愁人腸自斷,由來不是此聲悲。」
とあり、北宋・黄庭堅の『虞美人・宜州見梅作』に「天涯也有江南信,梅破知春近。夜闌風細得香遲,不道曉來開遍、向南枝。 玉臺弄粉花應妬,飄到眉心住。平生箇裏願杯深,去國十年老盡、少年心。」
とあり、張公藥の『淸明上河圖畫讃其三』に「楚施呉檣萬里船,橋南橋北好風烟。復廻一餉繁華夢,簫鼓樓臺若箇邊。」
とある。 ・浪華津:大阪港。なには(わ)づ。江戸末期・田中金峰の『大阪繁昌詩・望岳酒』に「木罌幾萬浪華津,纍纍如岡堆水濵。此是伊丹第一酒,將輸八百八街人。」
とある。
※若教太閤年三百:もし、かりに豊臣秀吉が(武内宿禰のように)三百歳(の長寿)であったとしたら。 *「若教太閤年三百」を。『大阪繁昌詩』では「若(も)し太閤を年 三百ならしめば」とし、「をして」とはしない。 *『大阪繁昌詩』の註記にある「賴山陽日本外史。論之曰。使太閤生於女直靺鞨間。而假之以年。則必知滅朱明之國者。不待覺囉氏。樂美竊謂。太閤不遂大業。實可惜也。嚮不被欺沈生三寸舌。疾伐之。太閤必握彼八百餘州於掌底。甘心以瞑焉。故吾甚惜太閤之所擧曰。是不幸短命死矣。」との部分を詠った。 ・若教:もしも。もしかりに…が…としたら。かりに…なら。…させたら。もし…をして…せしめば。もし…せしめんか。≒若令、若使。「若教」は●○で、○○とすべきところで使い、「若令」「若使」は●●で、●●とすべきところで使う。ここでは、「若教」が相応しい。 ・若:もし(…ならば)。仮定の表現。 ・教:(…に)…させる。(…をして)…しむ。使役表現。 ・年三百:(武内宿禰の年齢と同等である)三百歳。『大阪繁昌詩』の註記には「宿禰薨時。年三百。〔水府公『大日本史』宿禰傳曰。景行。成務。仲哀。應神。仁德五朝在官。二百四十四年。年壽見傳註諸説。〕太閤乃六十三。」(写真:右上)とある。
※亜魯仏英皆我臣:(豊臣秀吉の武威の下に)アジア・ロシア・フランス・イギリスは、みな、我が(日本の)家来(となっていたことだろう)。 ・亜:アジア。亜細亜。 ・魯:ヲロシア。ロシア。魯西亜。『大阪繁昌詩』の註記では、「鄂羅斯 」。或いは「亜魯」でオロシア。 ・仏:フランス。仏蘭西。『大阪繁昌詩』の註記では、「佛朗西 」。 ・英:イギリス。英吉利。『大阪繁昌詩』の註記では、「 咭唎 」。 ・我臣:我が(日本の)家来。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「神津臣」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
●●●●○●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
●○●●○○●,
●●○●○●○。(韻)
平成25.1.16 1.17 |
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